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Ⅲ◆23歳・夏至 ー邂逅ー

4.ずっと、きみのことを-2-

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「実はさ、俺……。
知ってたんだ。
夕人が高校の教師になったことも、いま、夕人がどの辺に住んでるのかとかも、全部。」


「えっ………?」


「俺、夕人が居なくなったあの日からーー…とにかく、忘れられなくて。
忘れるつもりもなかった、夕人のこと。
だから、どうにかして、また少しでも繋がれるように……
美大に行った夕人に少しでも関われるようにと思って、関連のある文具メーカーの今の会社とか手当たり次第に受けてさ」




速生は、静かに話し始めた。


今なら話せると思った。今の夕人になら、すべて、これまでの自分のことを話しても大丈夫だと。

知っていて欲しいと思った。どれだけこの5年間、想い続けて、また会えるかもしれないと、その日のために、どれほど努力して願いながら歩んできたかということを。


今日、いまこうして夕人がすぐそばにいる……この日をどれだけ待ち望んだか。


「もうさ……まじで頑張ったぜ?
経済学とかめっちゃ勉強してさ、もうほんと、死に物狂いの就活。
なんとかいまの会社受かって……それで、東京本社への配属を志望したんだ。
とにかく東京こっちに来たかったから」


東京に来れば、もしかしたら会えるかもしれない。会ってそれからどうにかなりたいなんて考えることよりも、とにかく、少しでも、夕人の近くにいたいと思った。


「ーー知らないだろうけど、俺、いままでに何度も東京こっちに来てるんだぜ?
こっちで開催する就職説明会参加してみたり、このアパートの引越し手続きとか、ほかにもいろいろ、口実つけて。
夕人の通ってたM美大にも行ったよ。さすがに、夕人のことは見つけられなかったけど。
ーー知らなかっただろ?」


我ながらもうあと一歩でストーカーだな。と思いながら話し続ける。

夕人は黙って聞いていた。俯いて、ただ黙ったままのその顔はいったい何を思っているのか、読み取ることはできない。


「まずそもそもさぁ、俺ん家、夕人の家の隣だぜ?しかもうちの母さんと夕人のおばさん、どんだけ仲良くしてると思う?
よくうちの母さん“朝美ちゃんとランチしてくるわね~!”とか言いながら出かけてたぜ。
ーーー夕人がいまどこで何してるか、教師になってどこの高校入職したとか、有名な絵画コンクールでまた賞獲ったとか、聞かなくたってなんだって耳に入ってくるんだからさ。
ほんと、生殺しとはこのことだよな」



「………そう……だったん…だ………」



夕人は喉の奥から声を絞り出すように、小さく相槌を打った。









ーーーまさか。

そんなにも、想われ続けていたなんて。


5年間、変わらず……途方もなく長い時間を。


ただ俺と、もしかしたら会えるかもしれないなんて、それだけのために。


文具メーカーに就職して、東京にきて。
全部、何もかも知ってて。
それでも知らないふりをしていたのか。



ーーー何なんだよ、ほんと。
バカーーーー………



「……はっきり言うけど。
俺、今までずっと、夕人のこと1日だって忘れたことないからな?
もう、なんていうかこの先死ぬまでずっとそうなんだろうなって思うくらい、自分でも、自分のしつこさに引くよほんと。
もうさ、夕人のこと、勤めてる高校の場所突き止めて攫いに行ってやろうかとか考えたくらいだ。

ーーどうしてくれんの?こんなに好きにさせてさぁ。かと思いきやいきなり居なくなって放置プレイで。また突然現れてそんな可愛い仕草で俺を惑わして。
ーーーほんと、罪な夕人。」



「お前ーー、…っ……よ、よくそんな恥ずかしいこと言えるよな……ぐすっ……バカ。」




このまま止めなかったら一日中、自分への思いの丈を延々と話し続けそうなほどの速生の様子に引きつつも……





それほどにまで想われていたこと。

そして5年前の速生へ対する仕打ちを猛省して、込み上げてくる涙。





「え、なに?
え、夕人もしかして、他の人と…?
まさか学校の先生仲間から言い寄られたりして、
サラッとそういう関係になってたり………
……すんの?」 


そういえば確認していなかった、と青ざめる速生。


二人が離れた5年間の空白の期間に、夕人が、いったい誰とどんな風に過ごしてきたのか………。

その早いようでとてつもなく長い年月のあいだに、ただでさえ元々容姿端麗でモテモテの夕人が、他人から言い寄られていないはずがない。




(そんなの無理。ぜっっったい無理………。
俺以外のやつが、夕人に、あんなことやこんなこと……そんなの。無理無理無理無理………)



夕人が、自分以外の誰かと肌を重ねるところを想像しようとするが、嫉妬や怒りを飛び越えてもはや精神崩壊レベルのその妄想。





ーーーまた変なこと考えてる、こいつ。心の声がダダ漏れだ。

夕人は顔を上げて、速生の顔をしっかりと見つめる。




「そんなわけあるかよ。
俺だって、速生以外、……になれない」



「………え?」



「だからーー……好きだって言ってんだろ!
ずーっと、前から。
俺も、今まで一度だって、速生のこと、忘れたことなんてないよ……」



「ゆ、夕人ーー……………」






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