7 / 12
1-fool
6.グッジョブ、毛虫
しおりを挟む「ありがとう!ほんと助かったぁ~~。
水やりなんて普段しないからさぁ…ホースの使い方わかんなくって。
あやうくここ、プールにしちゃうとこだった~あははは!」
「えっ??ああ、うん……?…」
(ホースの使い方ってそんなわからないものか…?な、謎だ……)
「てかこれ、なんで外れたんだろ…。やばい。先生怒るかなぁ…」
千羽は力任せに、外れた散水ノズルをホースの先に付けようと手に持ちグイグイ押し付けるが、案の定うまくいかない。
「ーーー…貸してみて」
名取場はそのホースを千羽の手からそっと取り,ノズルのジョイント部分をぐい、とずらしホースに取り付けた。
“カチッ!”と音がして、うまく嵌め込まれたことがわかる。
「ーーー…これで、多分大丈夫」
名取場がホースを手渡すと、千羽は目をキラキラと輝かせている。
「………すっげぇぇーーーー!!!
え、直したの?どうやって!?いまの一瞬で!?すご!天才じゃん!?」
突然の大声と、注がれる羨望の眼差し。
「え、いや……そんな、簡単だけど……」
名取場は予想外の反応に動揺する。
「おれ、千羽!千羽若也。
きみは?
何年何くみ何ばん!?」
「えっーー…あーー…、俺、は、
1年の、
なと……」
「っああぁぁぁーーっ!!ちょっと待って!
黙って!うごかない!ストップ!」
「!??」
すべてを遮る千羽の突然の大声に名取場が驚いた瞬間。
すぐすぐ目の前に、背伸びをした千羽の顔が見えた。
ーーーフワッ……
(えっーー!?ちょちょちょ、っと顔、近っ…、待ってなにす)
手を伸ばし、名取場の頭に触れるーーー…
『ベシィッ!!』
「うぐぅ!」
頭を力任せに思い切り叩かれて、結構な振動に名取場は変な声を出す。
「っ!?!?」
(な、なんだいまの…まるで猫パンチ、いや犬パンチ……!?
え、なんで俺、突然頭はたかれたのいま…!?)
ーーーポトッ…
ふと黒く小さい何かが地面に落ちたのが見えた。
「ーーー……???!」
「はぁ~~~、危ない危ない。
ーー…ほら、頭に毛虫ついてたよ?
それさ、確か毒蛾の幼虫だから…さわったらかぶれるんだよ。俺昔刺されたことあって…肌真っ赤に腫れてえらいことになったんだ…」
「えっ………け、毛虫?」
地面に落とされた毛虫はウヨウヨと元気に動いている。
真っ黒な姿に刺々しい針で覆われた、いかにも刺されたらやばそうな見た目のその毒蛾の幼虫の姿に、名取場はぞぞぞっと身震いする。
(こんな危なげなものを頭に引っ付けてたのか…俺?っていうかーー…)
ふと上を見上げる。
「そこ、桜の木。毛虫要注意だよ。」
「あっ、ああーー……う、うん」
(刺されたら危ない毛虫と分かってて、取ってくれたのかーー…?しかも、素手で。
ーーなんて、思いやりのある……。
まるで忠犬ハチ公じゃないか……)
その時、サアッーーと風が吹いた。
桜の花びらが舞い散り、二人の前に薄紅色のライスシャワーのように降り注いだ。
すぐ近く、真正面で。
真ん丸で大きな透き通った瞳をくりっとさせて佇む千羽の姿ーー…。
可愛らしい、きょとんとした表情。
(な、なんてことだーーー……)
名取場の視界は、その瞬間、一気にピンク一色に染まった。
(尊いーーーーー…)
「あ、あの…大丈夫?
口開いてるよ?……毛虫、怖かった?」
「ーーえっ、あ………い、いや、
ち、千羽………くん。
俺の名前は…なと…」
名乗ってお近づきになろうと考えたその時。
「千ぃぃ~~~羽ぁぁぁ~~!
おまえー!なに、そこらへん水浸しにしてんだぁーー!?」
「あ!やばい!園芸部の先生きたっ!!
いや、そもそもおれ園芸部じゃないのに…!?
あっごめん!あの、たすけてくれてありがとう!
そ、それじゃ!」
「あっ………」
それだけ言い残し千羽はホースを抱えて素早く水道栓の近くに戻し、ダッシュで去って行った。
「………千羽……若也……」
先程教えてもらった名前をフルネームで口にする。
ーードッキドッキドッキドッキ
高鳴る鼓動。
まるで何かが詰まったような胸の苦しさ。
止まらないときめきに頬を染めて、名取場は確信する。
(好きだーーー……千羽くんーーー)
初対面にして、完全なる一目惚れだった。
26
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
アリスの苦難
浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ)
彼は生徒会の庶務だった。
突然壊れた日常。
全校生徒からの繰り返される”制裁”
それでも彼はその事実を受け入れた。
…自分は受けるべき人間だからと。
王道学園なのに会長だけなんか違くない?
ばなな
BL
※更新遅め
この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも
のだった。
…だが会長は違ったーー
この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。
ちなみに会長総受け…になる予定?です。
室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々
慎
BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。
※シリーズごとに章で分けています。
※タイトル変えました。
トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。
ファンタジー含みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる