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1-fool
6.グッジョブ、毛虫
しおりを挟む「ありがとう!ほんと助かったぁ~~。
水やりなんて普段しないからさぁ…ホースの使い方わかんなくって。
あやうくここ、プールにしちゃうとこだった~あははは!」
「えっ??ああ、うん……?…」
(ホースの使い方ってそんなわからないものか…?な、謎だ……)
「てかこれ、なんで外れたんだろ…。やばい。先生怒るかなぁ…」
千羽は力任せに、外れた散水ノズルをホースの先に付けようと手に持ちグイグイ押し付けるが、案の定うまくいかない。
「ーーー…貸してみて」
名取場はそのホースを千羽の手からそっと取り,ノズルのジョイント部分をぐい、とずらしホースに取り付けた。
“カチッ!”と音がして、うまく嵌め込まれたことがわかる。
「ーーー…これで、多分大丈夫」
名取場がホースを手渡すと、千羽は目をキラキラと輝かせている。
「………すっげぇぇーーーー!!!
え、直したの?どうやって!?いまの一瞬で!?すご!天才じゃん!?」
突然の大声と、注がれる羨望の眼差し。
「え、いや……そんな、簡単だけど……」
名取場は予想外の反応に動揺する。
「おれ、千羽!千羽若也。
きみは?
何年何くみ何ばん!?」
「えっーー…あーー…、俺、は、
1年の、
なと……」
「っああぁぁぁーーっ!!ちょっと待って!
黙って!うごかない!ストップ!」
「!??」
すべてを遮る千羽の突然の大声に名取場が驚いた瞬間。
すぐすぐ目の前に、背伸びをした千羽の顔が見えた。
ーーーフワッ……
(えっーー!?ちょちょちょ、っと顔、近っ…、待ってなにす)
手を伸ばし、名取場の頭に触れるーーー…
『ベシィッ!!』
「うぐぅ!」
頭を力任せに思い切り叩かれて、結構な振動に名取場は変な声を出す。
「っ!?!?」
(な、なんだいまの…まるで猫パンチ、いや犬パンチ……!?
え、なんで俺、突然頭はたかれたのいま…!?)
ーーーポトッ…
ふと黒く小さい何かが地面に落ちたのが見えた。
「ーーー……???!」
「はぁ~~~、危ない危ない。
ーー…ほら、頭に毛虫ついてたよ?
それさ、確か毒蛾の幼虫だから…さわったらかぶれるんだよ。俺昔刺されたことあって…肌真っ赤に腫れてえらいことになったんだ…」
「えっ………け、毛虫?」
地面に落とされた毛虫はウヨウヨと元気に動いている。
真っ黒な姿に刺々しい針で覆われた、いかにも刺されたらやばそうな見た目のその毒蛾の幼虫の姿に、名取場はぞぞぞっと身震いする。
(こんな危なげなものを頭に引っ付けてたのか…俺?っていうかーー…)
ふと上を見上げる。
「そこ、桜の木。毛虫要注意だよ。」
「あっ、ああーー……う、うん」
(刺されたら危ない毛虫と分かってて、取ってくれたのかーー…?しかも、素手で。
ーーなんて、思いやりのある……。
まるで忠犬ハチ公じゃないか……)
その時、サアッーーと風が吹いた。
桜の花びらが舞い散り、二人の前に薄紅色のライスシャワーのように降り注いだ。
すぐ近く、真正面で。
真ん丸で大きな透き通った瞳をくりっとさせて佇む千羽の姿ーー…。
可愛らしい、きょとんとした表情。
(な、なんてことだーーー……)
名取場の視界は、その瞬間、一気にピンク一色に染まった。
(尊いーーーーー…)
「あ、あの…大丈夫?
口開いてるよ?……毛虫、怖かった?」
「ーーえっ、あ………い、いや、
ち、千羽………くん。
俺の名前は…なと…」
名乗ってお近づきになろうと考えたその時。
「千ぃぃ~~~羽ぁぁぁ~~!
おまえー!なに、そこらへん水浸しにしてんだぁーー!?」
「あ!やばい!園芸部の先生きたっ!!
いや、そもそもおれ園芸部じゃないのに…!?
あっごめん!あの、たすけてくれてありがとう!
そ、それじゃ!」
「あっ………」
それだけ言い残し千羽はホースを抱えて素早く水道栓の近くに戻し、ダッシュで去って行った。
「………千羽……若也……」
先程教えてもらった名前をフルネームで口にする。
ーードッキドッキドッキドッキ
高鳴る鼓動。
まるで何かが詰まったような胸の苦しさ。
止まらないときめきに頬を染めて、名取場は確信する。
(好きだーーー……千羽くんーーー)
初対面にして、完全なる一目惚れだった。
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