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ORDER-2 ホワイトソーダ

早引きする深月 -2-

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「………?」


「あっ……。いや、あの。深月くん。
一人で帰るの……?……危ないんじゃ……」


不安そうな顔で見つめる。
なぜだか……いま、深月を一人で家に帰らせてはいけない、そんなふうに思った。

深月は不思議そうな顔で篠原を見て、すぐに苦笑いする。


「……大丈夫だよ、いつもひとりで帰ってるんだから……。
篠原、心配性だなぁ」

若い女の子じゃあるまいし、と言いたそうな深月の表情を、篠原は情けない顔で見つめる。


「いや、だって……あの。」


家まで送りたい。あと30分で22時上がりの自分も帰ることになる、だからそれまで休憩室で待っていて欲しいーーー…
篠原はそう言いかけて、慌てて口をつぐんだ。




建前上は体調不良が理由の早引きなのだ。

ただでさえ真面目で、今回のことに負い目を感じている深月は、一刻も早く店から出たいはず。

きっと『うん』とは言ってくれない……。




「…………」

「えっと……わかったよ。
ーーーじゃあさ、俺、家に帰ったらすぐにlineでメッセージ送るよ。
“着いたよ”って。それなら良いよね?」


「…………」


「篠原が上がって、携帯にもし俺からのlineが届いてなかったら、それは“緊急事態”ってことだから。
ーーーま、何もないと思うけどさ。」




ね?と言いたそうに少し困り顔で微笑む深月に、篠原は渋々、無言のまま頷いた。



「心配してくれて、ありがとう。
ーーじゃ、お疲れ様」

「うん。お疲れ様………」



どうしても不安が拭えない。

この落ち着かない気持ちは一体どこからくるのかーー…。

わかっていた。
だけどそれ以上、どうすることもできない自分にもどかしさを感じながら、篠原は更衣室へと向かう深月の後ろ姿を眺めた。







ーーガチャ



「あ、真野。上がり?お疲れ様。
……体調悪かったんだって?大丈夫か?」

着替えを済ました深月が従業員控室に入ると、休憩中の調理アルバイトスタッフに話しかけられた。
 
「あ、いえ……もう、大丈夫です。ご迷惑を…すみませんでした。
とりあえず今日は、お先に帰らせてもらいます」

「気にすんな、困った時はお互い様だろ。
ーーーあ、そうそう。
真野。そこの缶ジュース、好きなの持って帰れってさ」


深月がテーブルの上に目をやると、蓋の開け放たれたクーラーボックスの中に、色々な種類の缶ジュースが入っている。

「店長からの差し入れ。みんな遠慮して持って帰らないからいつも余っちゃうんだよなぁ。
真野、2、3本持って帰れよ」

「え、ああ……。ありがとうございます」


深月はその言葉に少し慌てた様子で、目の前にあった白い缶を2つ手に取る。

(とりあえず何でも……カル◯ス、でいっか)

乳酸菌飲料の、”カラダにピース”。
あのお馴染みジュースの缶だ。



「じゃ、これ……2本いただいて帰りますね。
ーーーお疲れ様でした」



肩から下げた通勤用リュックの中に缶ジュースを仕舞い込んで、会釈をすると深月は休憩室を出た。





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