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ORDER-2 ホワイトソーダ

会いたくない客 -1-

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「ーーー深月くん?」

「…へっ⁉︎」

名前を呼ばれ顔を上げると、いつの間にか料理を運び終え戻ってきた篠原がすぐ横で顔を覗き込んでいて、驚きのあまり飛び跳ねそうになる。

「あ、ああもう戻ってたの。早いね……」

「え?うん。」


(えっいつの間に?気配感じなかったんだけど…忍者かよお前は……)

そう思い苦笑いした、そのときだった。





「ーーーご新規3名様ご来店ですー!」



別のホールスタッフの声が響き、「いらっしゃいませー」と掛け声を出そうと店の入り口に視線をやったその瞬間。



深月の背筋が凍りつく。

「…えっ………」




「…………」



そこにいたのは、2日前、自宅の前で対峙したあの、深月がいまや最も会いたくない人物ーーー…





(ーーー須藤、先輩………

………うそだ、なんで………)




そこに居たのは、紛れもなく須藤だった。


友人らしき男性客二人とともに来店した須藤は、どこか不機嫌そうな顔で店の入り口に立ちスタッフからの店内システムの説明を聞いている。




言葉もなくじっと見つめていると須藤がこちらを向き目が合いそうになる。

「………………っ……!」

深月は咄嗟に篠原の身体の影に隠れた。




「……深月くん?ーーーどうかした……?
ーーー‼︎」


青ざめた顔で俯く尋常では無い様子の深月を不審に思い声をかけ、目線を上げた篠原。

すぐにハッと勘付く。





ーーーえ、なんで、また須藤あいつが……。偶然?いや、………
まさか、もしかして。深月くんに…会いに……?


「………………」



心配そうに深月を見つめると、とても青ざめた顔で下を俯いている。


須藤達3人がテーブル席へ着席する。

そこは深月たちホールスタッフの待機場所から見渡すことのできる席だった。
席と席の間はパーテーションで仕切られているものの、深月からして運悪く、須藤の座ったその席は少し身を乗り出せば互いの顔色も窺える程に近い場所だった。



いつ視線がぶつかるとも限らない状況に、深月はさらに青ざめて冷や汗をかく。





「深月くん。」

「………えっ……?」

「ーーーこっち、来て。」



篠原が深月の腕を引く。

フロアから死角となる、厨房の中へと深月を誘導して、目で合図する。



“そこから動かないで。”



そしてホールに出てすぐにフロアマネージャーを探し移動する。




「Fマネ、すみません。いいですか」

「お?なんだ篠原」

店の出入り口付近、レジのタッチパネルで予約の調整をするフロアマネージャーは、真剣な表情の篠原を不思議そうに見る。


「あの。……真野くん、ちょっと調子良くないみたいで。
顔色悪いんで気になって……いま厨房入ってもらってます」

「え?本当か。待ってろ、すぐ行くわ」


そう言って厨房へ向かうフロアマネージャー。





「おい真野、大丈夫か?」

「えっ、あっ、いえ……あの……」

深月はどうしよう、と困惑した表情でフロアマネージャーとあとを付いてきた篠原の顔を交互に見る。


「確かに顔色良くないな……。
ーーー珍しいな、真野。大丈夫か?」

「いや、あの、っ……、…………っ…」




否定しようとして、押し黙った。

体調が悪いわけではない。



だけど、この状況で……今のこの、須藤と同じ空間の、店の中で。


いつも通りの仕事をできる自信はなかった。

そのため“大丈夫です”という一言が口から出てこない。




「上がらせてやりたいのは山々なんだが、いま真野に抜けられるとだいぶキツイな……今から4組予約入ってるし……」


頭を悩ませるフロアマネージャー。





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