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ORDER-1.レモン炭酸水
25.魔法が溶けたあと -3-
しおりを挟む「…………」
なんだかまた目の前の篠原の眼差しが物凄くギラついてるような気がして、深月は続けて話を振る。
「篠原、は……建築関係だよね?」
「えっ…なんで知って……?」
部屋奥のデスクを小さく指差した。
そこにあるのは、無造作に広げられた学校の課題の図面紙、平行定規やコンパスなどの製図道具。
「流石に知識のない俺でも、あれ見ればわかるよ。
凄いな、建築士かぁ……」
「い、いや。そんなそれほどでも…
というかまだ試験受かってないからーー…まだまだこれからだよ…」
謙遜しながらも頬を赤く染めて照れ笑いする篠原は、とても嬉しそうに見えた。
どこの誰よりも、自分自身のことを深月に褒められることが何よりも一番、こんなにも幸福感を感じてしまえて仕方がなくて。
そしてその想いは深月本人にもひしひしと伝わっていた。
早朝だというのにまたも顔周りからふつふつと醸し出されている篠原の熱気に、なんだかむせてしまいそうだ。
「インテリアデザイナーとかカッコいいよね。
じゃあ……将来俺の住む家、篠原に設計してもらおうかな?
スタイリッシュで住みやすいかっこいい家。」
冗談半分でそう言って微笑む深月。
その言葉に篠原は突然黙り込んだ。
赤く染めた顔で俯き、目を開いてふぅぅぅ…と細い息を吐いている。
「…………」
(うわ…っまたギラギラしてる。
もしかして……一緒に住むとことか想像してる?
ーーー怖い、やばい。話変えよ)
「えーっと、その、俺たち全然違う業種っぽいけど……まあ、お互い頑張ろうな?」
「えっ……?あ、ああ、うん、そうだね…」
「…………」
少し沈黙。
黙ったまま、深月は部屋の掛け時計に目をやった。時間を気にしている……というあからさまな振り。
「あっ。えーっと…あっ!俺……今日1限から講義あるんだった。
そろそろ帰るよ。
ーーー朝ごはん、食べてな?」
張り詰めた空気のなか、気まずさに居た堪れなさ。
1限から講義があるのは本当だったが、もうこれ以上、取り留めのない普通の会話をするのはしんどくて。
目を覚ましてすぐ、慌てふためいて必死になって自分の姿を探していた篠原の困り顔を見たその瞬間からずっと、今も強く。
胸のなかを締め付けているその理由は、いったい何なのか……。
わかりそうでわからなくて。
肝心なことをききたいのにきけない。
意外と臆病な自分に、深月は少し驚いていた。
「それじゃ…」スマホを掴み帰ろうとする素振りを見せた瞬間。
「待って‼︎」
「‼︎」
気付くと深月は、背後から篠原に抱きしめられていた。
背中から全身に伝わる熱の籠る抱擁感に、驚きよりも寧ろ、安堵している自分に“ああ、やっぱり”と感じてしまう。
「あの……っ…ごめん……。
いろいろ……本当、に、ごめん……」
「…………な、何が?」
「その……昨日、の夜。
ひどいこと………たくさんして」
(記憶、あるのか…………)
篠原の声は小さく震えている。
本当に、昨日の夜の出来事は夢だったんではないかと思える程の彼の態度のギャップに、深月はただ複雑な想いを噛み締める。
「ーーー…覚えてるの?」
「だいたいは……、いや。
もう、全部、何から何までちゃんと覚えてる。深月くんに、突然ひどいこと言ったり、無理矢理、その、キスしたり、い、色んなところ触ったり………許可もなく」
「…………」
「……あの。黙ってて、本当にごめん。
俺、炭酸飲んだらあんな風に…わけわからなくなっちゃうんだ……まるでもう一人の自分が乗り移ったみたいに、無理矢理スイッチを切り替えられたみたいに制御とか何もできなくて。
だから炭酸は避けてたんだけどーーー…。
まさか、あんなことになるなんて。ごめん。
…………本当に、ごめん」
「そんな、謝るなよ……」
なぜだか。
胸の奥の奥、心臓がきゅうぅと締め付けられて痛くて……。
すぐ真後ろの篠原の口から発せられる謝罪の言葉を耳に、深月の胸の内に湧き上がるのは、たとえようの無い、悔しさに似た……哀しみ、情けなさ、戸惑い。
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