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ORDER-1.レモン炭酸水
7.コンビニ、動揺する心
しおりを挟むコンビニに入店した深月は、衣類コーナーで1番安価な下着を手に取る。
(寝巻き……は、篠原に適当なの貸してもらおう…)
衛生用品の棚で、歯ブラシを探す。
歯磨き粉付きの携帯用の物を見つけ、どうせ買うならこっちにして持ち運び用にーー…と考えてから、ふととどまる。
(俺、いま無意識にまた泊まりに行くかも、って考えた……?)
よくよく考えたら、いや考えなくても。
今日ついさっき、まだ30分ほど前に告白されて付き合うことになって(とりあえず1週間限定だけど)、まだ一緒に歩くのすら慣れてないレベルの相手の家にーー…もう、お泊まり?
(なんか、これって、すごくイケナイこと…じゃないか?)
ふと隣の棚に目をやる。
衛生品コーナー横、そこにひっそりと陳列されている……
黒とピンク色の四角い包装箱の、“0.02mm”と書かれた文字と目が合ってしまう。
(…コンドー………、……いやいやいやいや。)
首をぶんぶん振って目を逸らす。
(ないないない、だって俺の横歩いてるだけで緊張して吃ってたあの篠原だよ?無い、絶対ないって。
ーー百歩譲って…何かあるなら“手繋いでもいい?”くらいだろ。
うん、気にせず行こう、大丈夫。
普通に、泊まらせてもらうだけ。よし。)
謎に言い聞かせた後納得して、カゴの中に歯ブラシセットを放り込む。
飲料コーナーのガラスディスプレイの前。
(篠原、何か飲むかな……?
コーヒー?紅茶……?聞けばよかった。)
深月は実はカフェインが苦手だった。あまり胃が強く無いのもあり、勧められれば飲むが、自分から好んで買うほどではなく。
基本飲み物を購入するとなると、コーヒー、紅茶以外の物につい目が行った。
(暑いしさっぱりした物飲みたいな……)
そう思い、冷蔵扉を開けて、“レモン炭酸水”を手に取る。
少し考えた後、とりあえずミネラルウォーターのペットボトルと、“BLACK”と書かれたよく冷えた缶コーヒーをそれぞれカゴに入れて、レジへと向かった。
「お待たせ。飲み物…何がいいかわからなくて……。
篠原、どれがいい?」
コンビニの外、夜空を見上げて自分を待っていた篠原に、深月は先程購入した飲み物を袋から出して見せる。
「えっ、あ……そんな、いいのに。
ありがとう……。じゃあ、これ、貰っていい?」
そう言って篠原はミネラルウォーターを手に取った。
「うん。…水でよかったの?
あ、まさかコーヒー飲めない?篠原」
(なんとなくブラックとか飲んでそうだな、と思ったんだけど……)
「ああ…いや、コーヒーは飲めるんだけど…ちょっと、カフェインはいまちょっといろいろキツそうかなって…刺激が」
「……えっ?あ、ああ、そ、そう……。」
(覚醒しそうってこと?
なんだそれ、なんか怖いな…。とりあえずスルーしとこう)
「えーっと、…あ、炭酸水もあるよ?暑いし、こっちにする?」
「あーー……。
いや。………俺、実は、その……
……炭酸ダメなんだ。」
「えっ。へぇ……そうなんだ…?」
「うん。ちょっと、昔色々あって……。
炭酸系の飲み物は全部…基本的に避けてるかな」
(大人の男で炭酸苦手って、珍しいな……)
「そっか……。
ーーーあぁ、それで……」
深月は、福々のスタッフ間で行われる恒例“打ち上げ会”のことを思い出していた。
飲み会参加者全員が揃ってからの、皆で乾杯の前の場面。
キンキンに冷えた中ジョッキに注がれた黄色い生ビールがテーブルの上に並ぶ中、ただ一人だけ、茶色い液体の入ったグラスを手に持つ光景を思い出す。
あの時隣に座っていた、篠原がそうだった。
「それで、打ち上げ会のときいつも一人だけウーロンハイ飲んでたんだ?
そっか……。ビールも炭酸だもんなぁ…」
つぶやくように言うと、篠原は「えっ……。」と一瞬立ち止まり、ミネラルウォーターのペットボトルをぎゅっ、と握りしめる。
“パキパキッ”とプラスチックがしなる音が響いて、深月は振り返った。
「?…なに?」
「いや……覚えてて、くれたんだ?俺の飲んでたドリンク…
なんか、まさか深月くんにそんな見られてたなんて、思わなかったから……う、嬉しい」
「………。
ああ………まあ、うん。
き、気になったから覚えてただけだよ…?」
(なんていうか、喜ぶポイントが浅いよ篠原。
そんな嬉しがられると却ってやりづらい…なんか、やっぱり調子狂うなぁ……)
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