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ORDER-1.レモン炭酸水
6.お泊まりの誘い
しおりを挟む「………」
上から見つめてくる篠原のその視線が、熱を帯びているのがわかる。
とても戸惑いながら、“好きで仕方ないんだ”、“気持ちをわかってほしい”と、ただ強く、ひしひしと聞こえてくる。
「………」
コンビニの明かりに照らされ、ただ静かに。何もない道端に佇む二人。
とてつもなく長い時間のように肌が感じて、だけど実際には……まだバイト先を出ておそらく20分ほども経っていない。
「……帰ろっ…か」
沈黙を割くように、深月が口を開いた。
そして片足を踏み出そうとした瞬間に、留めるように篠原が立ち塞がる。
「待って、深月くん。
あのさ…けど……
さっきの男…まだ、いるんじゃないの?
深月くんの家、あの近くなんだろ…?」
「……………」
また沈黙。
ーーーわからない。
何がわからないかって、須藤が、あそこで自分を待ち伏せていた理由が。
関係を持っていたとき、会うのは必ず須藤の部屋だった。
記憶を辿る。
須藤から呼び出しのコールが鳴るたび、急ぐ心と共に駆けるように向かっていたあの頃の自分を思い出すと、情けなくて、頭を抱えたくなるけれど。
確か、一度だけ。
ーーー教えたことがあった。話の流れだったかどうかは定かではないが。
”xx駅のコンビニの近くのクリー色のアパート、あそこに住んでるんだ”、と。
「ふぅん」と、素っ気ない返事で覚える気もさらさら無いという興味の無さが伝わり、言っても言わなくても…その会話に大した意味もなかったんだ、と忘れるよう言い聞かせた記憶がよぎる。
そんな須藤がどうして。
なぜあんな、何もないところで、アスファルトの上にタバコの吸い殻を何本も擦り潰して。
俺のことを待っていた……?
わからない。
……どうせ、暇潰しにすぎない。
あの男は、そんな人だ。
別にもう、理解らないままでいい。
とにかく今はもう、会いたくない。顔も見たくない。
「……うん。
俺、もうちょっと時間潰してから帰るよ。
だからさ、篠原、先に帰りなよ?
もう遅いし……篠原明日、学校じゃないの?
変なことに付き合わせてごめ…」
「深月くんっ‼︎」
突然大きな声で名前を呼ばれ、深月はビクッと身体を震わせた。
「そんなのダメだよ、危ないよ。もし何かあったら…どうするんだよ?」
「何もないって、大丈夫だよ…篠原、心配しすぎだって…」
「深月くんが大丈夫でも、俺が大丈夫じゃないんだよっ‼︎
……あの、っあのさ。え、えっと…その。み、深月くん。
うっ、うちに……来ない?」
「…………えっ?」
額に汗が滲んでいる。初夏といえこの時間帯は夜風が少し冷たいというのに。
ひんやり感じる空気にそぐわないその、体内からふつふつと発せられている熱気。
顔を真っ赤に染めて吃りながら篠原は続ける。
「実は………お、俺の家……その、あっちなんだ。こっちじゃなくて……」
「えっ……」
篠原はコンビニのさらに向こう、ついさっき二人で歩いてきた道の方角へ指を差した。
それが意味するのは、篠原の自宅は深月のアパートと完全に逆方向ということ。
「嘘、ついてごめん。
一緒に帰ろうって言ってくれたのが嬉しくて……。
少しでも長く深月くんと歩きたくて、その、つい……」
申し訳なさそうに隠せない恥じらいに滲む汗で赤らんだその顔を、深月は見つめてみる。
「…………」
(なんだろう、この、込み上げてくる…せつない感じ……。胸の中が、なんだかまるで細い糸か何かで括られて引き締め付けられてるみたいな…。
変だな…。
あれ、俺……ど、どうしちゃったんだろう)
「深月くんっ‼︎」
「えっ‼︎……は、はいっ⁉︎」
またもや篠原の大きな声が響き渡りつられて、呼ばれた深月まで大声で返事してしまった。
こんな深夜に何度も人の名前を叫ぶように呼ぶなよ……と困り顔で見つめる。
「…………あの、俺の家、泊まらない?やっぱり、このままだと心配だから…。
深月くんが嫌じゃなかったら……その。
ーーあっ、も、もちろん、何もしないよ⁉︎寝るのも、ちゃんと、ふ、布団別の出すし…。
だから、あ、あの………」
「…………」
「あの、ふ、服も貸すしっ……。
シャワーとか、なんでも好きに使ってくれたらいいから…ほんと、深月くんが嫌じゃなければ、あの。
1人で帰らせたくないんだ、本当、心配だから……だから……っ」
慌てふためきながら自分の部屋に誘う篠原の態度が、何だか可笑しくて。
大胆な癖して、言い訳がましい口ぶりがなんだか初々しくて……つい、顔が綻んでしまう。
「……ぷっ、あはは………、わかったよ。
……行かせてよ、篠原の家。」
つい吹き出してしまい、笑いながら答えた。
それを見た篠原はとても驚いた表情で問い返す。
「えっ……き、来てくれるの?本当に?いいの?」
(自分で来いって言っといて……やっぱりなんか、変なやつだなぁ。面白いけど)
「うん。本当だよ。
……じゃあさ……、とりあえず俺、そこのコンビニで要る物買ってくるよ。歯ブラシとか……。
篠原、何かいる?」
「いやっ‼︎な、何も要らない‼︎あっいや、み、深月くんさえいれば他にはなにも……っあっいや、ごめん何でもない……」
「…………。
うん、まあ、じゃあ待ってて?」
(大丈夫かなぁ……いろいろ……)
やっぱり行くのやめとこうかな、と考えつつも少し顔がにやけてしまいながら、深月はコンビニの自動ドアをくぐった。
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