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◆ORDER-1.レモン炭酸水
4.深月の過去 -1-
しおりを挟む「はぁ…はぁ…っ」
早足で来た道を戻り、角を曲がる。
コンビニエンスストアの明かりが目に入ったところで、深月は足を止めた。
「み、深月くん……大丈夫…?」
恐る恐る問いかける声に、深月はハッとして強く掴んでいた篠原の腕をパッと離した。
「あ、あの。ごめん……。つい、ムキになって」
視線を上げると、篠原はとても心配そうな瞳で自分を見つめている。
不本意とはいえ、あんな場面を見せてしまったのに。
……きっと引いてるよな、そう思い俯く。
「みっともないとこ、見せちゃったな…。
ほんと、ごめん……」
「え、いやっ…そんなこと……。」
気まずそうにしつつ、篠原は、深月の顔を覗き込んだ。
「あのさ、深月くん。
さっきの、もしかして………元カレ…?」
唐突な質問にどきりとしてしまう。
「え、あ……いや。
えっと。違う。……彼氏、じゃない。」
「えっ、けど…………それじゃあ…」
「………………」
少し黙って、顔を上げた。
篠原の表情を見つめる。“知りたくて仕方ない”
と顔に書いてある。
同時にとても、泣きそうな顔をしているのに驚く。
「……深月くんが言いたくないなら、無理はしなくていいよ。でも、俺、気になるんだ。
だって、深月くん。俺、そんな深月くんの悲しそうな顔……見ていたくないから……。」
「……………」
「だから、聞かせてくれないかな…?
深月くん。お願いだよ…」
「……………」
ーーー正直なところ。
もしかしたら、ファッション感覚で。
男の自分に、篠原は興味本位で“付き合って欲しい”なんて、勢いに任せて言ってきたんではないか?と、心の奥底で疑っていた。
試したりするつもりなんてなかった。
だけど、さっきみたいな修羅場を見てーー…自分が本当に、男相手とそういう関係を持っているようなやつだとわかって、それでも。
引いたりすることはなく、むしろその先へ…もっと、きちんと。自分と関係を保とうとしている。
(篠原、そんなにまで、俺のことを………?)
「その。須藤先……、さっきの男、はさ。
俺の大学のサークルの先輩で。
あっ、いや元、か。もう俺、そのサークル辞めたから…」
須藤の顔を思い出す。
意地悪く、笑ったその顔を。やんちゃな表情で煙草を咥えて、偉そうに自信満々な瞳で、ベッドで手招きする仕草を。
その手で、口で、触れられた記憶。
好きで好きでしかたなかった、つい、この間までの自分。
「すごく、誰からも人気のあるひとで。
男からも、女からも……、憧れてるやつたくさんいたと思う。」
自分もその中の1人だったから。
「少し……相手にしてもらって、嬉しくなっちゃって。遊びでもいいから…って、それで、バカみたいに。都合の良い相手、演じてた」
いつまでも続けられるはずがなかった。そんな器用でもないし、まず、何もかもが初めてだというのに…そんなに上手く立ち回ることなんてできるわけがない。
そんな自分に、気の多い須藤は容赦無く……わざとらしく、ほかの人といちゃついて見せて、嫉妬を煽り暗い穴の中へ突き落としたかと思えば、夜になると都合良く自分を呼び出す。
好きでもないくせに、まるで自分だけの物を扱うみたいに荒々しい手つきでふれて、そしてその時だけは、嘘みたいに甘い愛の言葉を囁く。
“好きだぜ、ミツキ。”
いつも、須藤に呼ばれるとき、自分の名前がまるで自分のものではないような気がして。
彼に抱かれている自分は、まったく違う別人のような気がして……。不安で、怖くなって。
たくさん求めた。
だけど、応えてもらえる筈もなくて。
期待して、肩透かし。優しくされたと思ったら、今度は冷たくあしらわれて。
その繰り返し。
わかっているのに……
そんな無益な時間を待ち望んで、惑いながらも絆されてしまって。
悲しくて、悔しくて。
情けなくて……もう、疲れてしまった。
「もう、しんどくなっちゃって。
このままだと……俺、自分のことまで嫌いになりそうだったから。
だから、やめたんだ。
サークルも辞めることにして、“もう連絡しないでください”って伝えた」
どれだけ好きでも…もう、こんなにも自分だけを見てもらえない、ひとりよがりの恋はいやだ。
こんなにも心が温かい気持ちになれない、哀しくなるだけの肌を重ねるやりとりはもう要らない。
もうやめよう。
そう言い聞かして連絡を絶った。
初めは寂しくて、辛かった。どうにか時間が忘れさせてくれるように…バイトを沢山入れた。特に深夜帯の遅番メインで。
そうすれば夜、少しでも寂しい想いから逃れられたから。ひとりでも、大丈夫。
しばらくは、自分のために過ごす、そう決めた。
大学で勉強して、バイトに精を出す。
オシャレだって楽しい。買い物して、美味しい料理を作る。自分だけの為に。
そうして、少しずつ、忘れられていった。
そう思うようにした。
「もう、やっと3ヶ月……いや、どうだったっけ。
覚えてないや……。
そんな、経つのに。今更なんだっていうんだよな。わけわかんないよ、放っておいてくれたらいいのに。」
「……………」
ただひとつだけ、はっきりしたことがあった。
自分は、“男のひとが好き”なんだ、ということ。
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それを身をもって知ることができた。
それだけは……須藤と関係をもった上で、本当に良かったと言えることだった。
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