4 / 78
ORDER-1.レモン炭酸水
3.突然の待ち人
しおりを挟む「ーーーよう、ミツキ。おかえり」
腕時計は22:30を指している。
コンビニの一つも見当たらない、何もない暗がりの歩道の隅でひとりタバコを蒸して…いかにも待ち伏せていたといわんばかりに。
その須藤と呼ばれた男は、深月に近づいた。
「……なぁ、なんで電話出ないんだよ?lineも既読スルーだし。ミツキ、なに俺のこと無視してんの?」
「………」
”須藤先輩”。
深月がそう呼んだ、目の前の男。金に近いほど明るく染めた髪色に、彫りの深い目もとの上、眉尻に装着けられたピアスのシルバー色が、電灯の光に反射して深月の瞳に飛び込む。
「深月くん……?知り合い?」
黙り込み俯いた深月の様子に、おそらくいま目の前に立つこの男はただの知り合いなんかではない、と察した篠原は問いかける。
「…………っ…」
突然の出来事に動揺がひしひしと伝わる。
隣にいる、つらそうに、そして今にも泣き出しそうな表情の深月を見た瞬間、篠原は胸が締め付けられた。
「須藤、先輩。
俺、もう連絡してこないでって言ったじゃないですか……」
目を逸らしたまま、深月は小さく答えた。
その声を聞いた瞬間、ハッと鼻で笑う須藤。
「なに?ミツキお前、あれ本気だったの?
ちょっと冷たくしたらこれだもんなぁ……なぁ、そんな怒んなって。
ーー仲直りしようぜ?」
片眉を上げた蔑む表情で毒づく口ぶりの須藤の様子に、深月は震えていた。
それは怒りからか、それとも、怯えているのか。
「ーーー……もう、ほっといてください…」
「あれ?もしかしてミツキ、お前……他に男できたの?
あ。なるほどなぁ~。
俺の事あんなに”好き好き”言っといて…もう他いっちゃうなんて、とんだ尻軽だな」
「…………っ……」
悔し涙を堪えながら唇を噛み締めた瞬間。
隣に立っていた篠原が、ザッ!と深月の前に立ち塞がった。
「いい加減にしてくださいよ、どこの誰だか知らないけど……深月くん嫌がってるだろ。
……見てわかんないんですか?」
そう言って須藤を睨みつける。
(……………篠原……)
篠原の後ろで、深月は声が出せなかった。
見るからに温厚そうで優しい篠原の、突然の自分を庇う行動。
大きな背中を思わず見つめる。
「……はぁ?なにお前?関係ねぇだろ。どけよ」
「嫌です。
確かに関係ない…かもしれないけど嫌だ。
いや、やっぱり関係ある。……退きません」
「あぁ?」
須藤が睨みをきかし凄んでも、篠原はまったく臆する事なく、むしろ威嚇するように負けずキッと睨み返す。
つい先程まで猫背気味に、自分のことを気にかけながら低姿勢で歩いていた篠原の姿がただただ大きく見えて。
自分を守ろうとしてくれている。
背中から優しさと頼もしさが伝わり、つい、涙ぐみそうになってしまう。
「ふーん。
あ、もしかしてお前、ミツキに惚れてんの?こいつ、綺麗な顔してるもんなぁ。
……やめとけば?お前みたいな真面目そうなタイプ多分続かないよ。なんたってこいつ……」
「ーーーやめろよっ‼︎」
ついに深月が声を上げた。
涙ぐんだ瞳で須藤のことをキッと睨むと、篠原の腕を掴みグイッと胸に引き寄せる。
「ーーーこの人、俺の彼氏なんで。
……だからもう俺に関わんのやめてください。
篠原、行こう」
「えっ、あ……!み、深月くんっ!」
腕を強く引き早足で来た道を引き返す深月に、篠原は戸惑いながら後ろを振り返る。
「ーーー………っ」
追いかけてくる様子のない須藤に安心しつつ、まだ泣きそうな顔を堪えた深月の横顔を、複雑な想いで見つめて……。
20
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。
丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。
イケメン青年×オッサン。
リクエストをくださった棗様に捧げます!
【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。
楽しいリクエストをありがとうございました!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる