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23歳・夏至 ー邂逅ー
3.酩酊にすべてまかせてしまえば
しおりを挟むーーー…
「夕人、おい、大丈夫か………?」
「ふあぁ……………」
大きなあくびをしてカウンターに今にも突っ伏してしまいそうな夕人に、速生は声をかける。
「うーん………んん…」
頬を赤く染めてとろんとした顔で……うとうとと目を瞑ろうとしていたかと思いきや、突然キッと睨みつけられ、思わずドキリとしてしまう。
「だーいじょうぶに決まってんらろぉ?全然、おれ、別に……酔ってなんか、ねーからなぁ?」
呂律が微妙に回ってない…これは相当酔ってるぞ?と、速生だけでなく、厨房から様子をうかがう店主も困り顔に。
「イケメン兄ちゃん、酒あんま強くなかったんだなぁ?悪かったなぁすすめちまって……」
店主の申し訳なさそうな顔に、速生は“んなことないっすよ、”と笑う。
そして腕時計に目をやる。
(ーーーーやばい、終電…。)
「親父さん、そろそろ帰りますわ。
おあいそで…あ、この焼酎とりあえずキープしといてもらっていいですか?」
「あいよ、任せとけ。また来てな!イケメン兄ちゃんも、またよろしくな」
「ふぁい、ご馳走様れした………」
夕人は酔っ払うとこんな感じになるのか………となんともいえない思いで、速生は会計を払う。
「んん……あ、速生ぃ……おれ、はらうよ…いくら?」
ふらふらと立ち上がり、肩に下がるショルダーバッグに手を入れ財布を探す夕人。
“……あれ?財布どこだぁ…?”と言いながらまたよろめく。
「いや、もういいから。また、あとでもらうよ、ーーほら危ないから、ちょっとそこ座って待ってて」
帰り支度をした速生が、店の戸を横に開き外に出ようとしたときーー……
ーーーザアアアアアアア…
降り頻る大雨で前が見えないほどの光景に、速生は絶句する。
「マジかよ…………すっごい雨。
夕人、大丈夫か?歩ける?」
「んんー?あぁ……大丈夫大丈夫…」
まだとろんとした様子で少しふらつきながら夕人は外に出ようとする。
「にいちゃんたち!傘持っていきな!ほら、また今度来た時返してくれたらいいから」
速生はすみません、と頭を下げて店主から傘2本を受け取って、外へ出た。
「夕人!とりあえず…駅まで一緒に行くからな!」
「ーーーー……………」
ザアアアアアと激しく降り付ける大雨の音に掻き消され、夕人が返事をしたのかどうかもわからない。
まるで洪水で溢れかえった道路を歩いているのかと思えるほど、バチバチと言いながら雨粒がコンクリートの上を跳ね飛び二人の足取りを邪魔する。
斜めに横殴りに降りかかる水飛沫のような雨が肩を濡らす。差した傘は殆ど意味をなしてなかった。
「クソっ、歩きづらいな…。夕人っ!一緒に入って。」
自分の持っていた傘を一旦畳んで、少しふらつく夕人の持つ傘を手に取った。
ーーーザアアアアア…
相変わらず不安定な足取りの夕人に、少しだけ肩を寄せ、
傘をできるだけ自分とは反対の方向へ、夕人ができるだけ雨に濡れないように、と傾ける。
二人は急ぎ足で駅まで歩いた。
その間、夕人はずっと黙っていた。
それが酒の酔いのせいなのか、それとも、なにかほかに理由があるのかーー…速生にはわからなかった。
『お客様にーー…お知らせいたします、只今、大雨特別警報の影響により、全線運転見合わせとなっておりーー……』
「………………」
(マジかよ……………)
電車がすべて運休となったアナウンスがしきりに流れており、駅はたくさんの人で混雑していた。
「夕人ーー…ここから家までだと、5駅くらいか?」
「んんー…………うん……。たぶん…?」
タクシー乗り場に目をやるも、もの凄い乗客待ちの行列。
終電の時刻まであと数十分ほどというのにこの時間にこの状況では、とてもではないが夕人が自宅へ帰る術は見当たらない。
「ーー…………なぁ、夕人。」
「…………ん?」
ずっと言おうか言うまいか迷ったことを、やっと口にする決意ができた速生は、夕人に問いかける。
「とりあえずさ………俺の家、来る?
ここから、歩いて5分もかからないからーー…」
「……………………」
「雨が、止むまでの間だけ…でも………。
ここにずっといたって、仕方ないだろ?
ーーー…………嫌?」
速生は恐る恐るたずねて、後悔した。
(俺、バカじゃん…。
嫌?って…そんなこと聞いてもし、嫌。って言われたらどうするんだよ?
朝まで、ファミレスとか……時間、どこかで潰すくらいしか思いつかない。
けど近くに見当たらないし…第一こんなに酔ってふらふらな夕人にそんな危ない事、させられない。
ーーーどうしよう?)
「ーーーーーー行く」
「…………えっ?」
「速生の家、行く。
ーーーー雨……とりあえず止むまで………」
夕人は俯いたまま、小さく答えた。
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