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23歳・夏至 ー邂逅ー
2.店主のサービスボトル
しおりを挟む目の前から次々と差し出される料理に、少しずつ、箸を運ぶ。
「本当だ、美味しいーー…」
少しガサツそうに見える店主にはそぐわないような、とても優しい口当たりの料理たち。
最近ではすぐに胸焼けしてしまう胃に、温かい和食料理が優しく染み渡り、少しだけ、ほっとする。
「な?ここ、おすすめだから。
ーーー今度、また…………」
そう言いかけて、速生は黙った。
“今度”?
“また”?
誰かとまた来たらいいよって?
それともーーーー“俺と”?
ーーーああもう、やめろよ。バカ。
ふたりは黙り込む。
沈黙を突然割いたのは、目の前に来た店主だった。
「ほらよ、にいちゃん!イケメン兄ちゃんも一緒に来てくれたことだし…これサービスな!」
店主はカウンターに座る夕人と速生の前に、ドンッと一升瓶を置いた。
真っ黒のラベルには“黒滝島”と書かれている。
「つっても貰いもんなんだけどな。
俺一人じゃ飲みきれねぇし、仲良く二人で飲んでくれないか?」
ーーーい、芋焼酎………?
夕人は目を丸くする。
「親父さん……ありがたいけど、これ一本丸ごとサービス…?」
こっちだって飲みきれないよ、と速生が苦笑いする。
「おうよ、兄ちゃんはいつも来てくれてるからな、日頃の感謝だ。
あんたたち若いんだから…これくらい呑めなきゃ男が廃るぜ?」
厨房の奥、店主の奥さんが「あんたー!最近の若い子はそんな渋いの飲まないわよ!無理強いしないの!」と怒鳴る。
「怖ぇのに怒られちまったわ。
ーーーま、余ったらボトルキープしとくから、ゆっくりして行ってな」
そう言って、氷の入れられたロックグラスを二つ、目の前に置いた。
「夕人、飲める?焼酎…」
「うーん……ま、まあ少しなら…」
嘘だ。正直言うと飲んだこともなかった。
だから飲めるかどうかもわからない……
だけど、そんな場違いで空気の読めないこと、言い出せるはずもない。
「じゃ、せっかくだし少し飲もうか?」と、速生は焼酎の蓋を開けると、ロックグラスに注いだ。大きな氷が“カラン”といって動く。
夕人の前に、優しく、コン、とグラスを置いた。
「ありがとう………」
「じゃ、俺も…」と自分で注ごうとした速生の手から、夕人はすっと瓶を受け取り、静かにもう一つのロックグラスに“トクトクトク…”と酒を注いだ。
二人は乾杯もせず、静かに酒を口にした。
夕人はずっと黙っていたが、内心、やけになっていた。
この居た堪れない状況を、
いっそ、酒の酔いに任せてしまえば打破できるのかと。
ーーーやっぱり、普通になんて、出来ないのかもしれない。
ーーー相変わらず、ブレブレの俺。
バカみたいで、ほんと、嫌いだ。
大嫌いだ。
そんな想いを胸にーーー…半ば、やけくそに。
飲んだこともない焼酎をロックで、無理やり流し込むように、ぐいっ、と飲み続けたーーー。
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