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23歳・夏至 ー邂逅ー
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しおりを挟む「夕人っ!!」
ーーーガッ!
「………………!!」
人混みをかき分けて、必死に何十メートルほど走っただろうか。
名前を呼ばれるのと同時に、後ろから腕を掴まれていた。
「はぁっ……はぁっ…」
立ち止まった夕人は、息を切らして、恐る恐る……後ろを振り返った。
「ーーーー、ゆ……うと……」
真剣な表情で、自分を見つめている。
そこにいたのは紛れもなく、速生だった。
まったく変わったと思えない。
本当に5年という月日が経っているのか、信じられないほど。
ーーーああ、速生。
ーーーお前さ。
少し、髪伸びたね……
なんだよ、スーツなんて着ちゃってさ……。
ネクタイ、結構似合ってるじゃん。
いいよな、背高いから。
革靴なんて履いて…変な感じ。
なんだよ、せっかくちゃんとセットしてる髪の毛、そんな振り乱して。
汗までかいて……。
何て顔してんだよ。
そんな表情で、俺のこと見ないでよ。
「…………………」
ただ黙って歩道に佇む二人の姿。行き交いすれ違う人々が、「なに、ケンカ?」「なにかトラブってんじゃない?」と、噂しながら通り過ぎていく。
その間も、速生は夕人の腕を、強く掴んで離さない。
「ーーーー…なんで、逃げるんだよ………」
先に声を発したのは、速生の方だった。
ただ真っ直ぐこちらを見つめて、少し息を切らせて……。
すぐ近くで耳にしたその声も、全然、変わっていなくて。
つい、安心してしまう。こんな時だというのに、全然空気の読めない、この頭の中。
「に、逃げてない………し…」
5年ぶりに交わした言葉。それだけ言って夕人は、すぐに目を逸らした。
怖くて……前を見られない。
腕はその速生の手に強く掴まれたまま……まだ、放される気配は無い。
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