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23歳・夏至 ー邂逅ー
1.あの日に戻れるなら
しおりを挟む「いやぁ、褒めすぎだよ。
俺なんて所詮は、まだまだ親の脛齧り野郎だよ?叔父さんから言わせてみれば……大学卒業後にすぐ、東京で教師として頑張ってる相模くんの方が、よっぽど凄いって。いつも言ってるんだよ?」
「そんな………。俺なんて……」
ーーー俺なんて。
ただ、ここにいることしかできないから…
だから、ここに、何とか踏みとどまっているだけで。
何も、人に誇れることなんて……
「本当、相変わらず君は、自分のことを知らないんだねぇ……。
忘れたのかい?あの芸術文化祭の出展作品の、きみのあのーーー”自画像”。」
「…………………」
ーーーーなんて、懐かしい。
どれだけ経っただろう?
忘れるわけはない。
あの頃のことを、忘れたりなんてできるわけが………
「君のあの自画像が、なぜあんなに評価されたか…知らないんだろう?
俺にはわかるよ。
ーーー……それはね、」
瀬戸は静かに続ける。
「ーーーとても、美しかったからだ。
あの絵は、迷いながら、葛藤しながらーー…それでいて、自分を好きになろうと、
どこにも曝け出せない自分の中の、清らかさだけでない胸の中の穢れた部分ですら。
すべてを、愛したいと………。
そんな強い想いが伝わってくる絵だった。
それが、とてつもなく儚くて、淡くて…美しかったんだ。」
「…………………」
なぜ、瀬戸さんはいま、そんなことを言うんだろう。
俺に、どうして欲しいんだろう。
どうして今、こんな思いで、あの絵を描いたあの頃の自分と向き合わないといけないのか。
困る。
もうーー……頼むから、記憶の蓋をこじ開けようとするのはやめてくれよ。
戻りたくたって、どんなに願ったって。
あの頃に戻ることはできないのに。
もう、目を閉じたままでいたいんだ。
だから……
お願いだから…………
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