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III◆23歳・穀雨 ー反対色ー

2.綾乃の期待

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「ーーー夕人先生。
次の懇親会の日程と場所、決まりましたんで。お店の情報と一緒に送っておきますね」


社会科担当の浅田が、夕人に向かってスマホをチラチラと顔の横で振ってみせた。
”見てくださいね?”とジェスチャーで伝える。

「ありがとうございます、助かります」

夕人はデスクの引出しからスマホを取り出し、浅田がメッセージで送ったURLをタップして、飲食店のホームページを開いた。

店の住所を確認すると、自宅マンションの最寄り駅からさほど距離のない場所にあるようで、少し安心する。

「へぇー、今回は韓国料理?浅田先生、相変わらずいろんな店知ってるわねぇ~」

英語科担当の大村がPCでホームページを確認しながら、”あ、しかもここ星4つじゃない?期待期待~”とグルメサイトの口コミを見て呟く。


「ははは……まあ、最近はもっぱら、おひとり様の食べ歩きが趣味になっちゃってるんで。
嫁さんも娘も、全然ついてきてくれないし…」

そう言って少し悲しそうにする浅田の、小学校高学年の1人娘は、現在反抗期真っ只中。
父親の僕とは最近ろくに口も聞いてくれないですよ……といつもぼやいている。



月に1~2回行われる、“懇親会”と称した教職員たち仲間内での飲み会。

大抵の幹事は浅田がつとめ、多い時ではほぼ全ての職員が参加するなど学校をあげての定例行事となっていた。


「ーー今回、校長先生来れないって?」

「ええ~~残念。じゃ、みんな自腹ね?
浅田先生、1人当たりいくらかまた連絡してくれる?」

大村の露骨な言い方に浅田は苦笑いしつつ、

「ーーーあ、でも教頭先生は行けたら行くって言ってましたよ?」

「マジ!?よっしゃあー!じゃ、飲みまくりましょ!」
「……大村先生、声が大きいです!」


校長と教頭のトップ2が参加の時は、全額飲み会費用は負担していただける…というのも恒例となっており、その時は特に、皆喜んで参加していた。







「ーーー夕人先生。来られるんですか?今回の懇親会」

綾乃が、隣で5時限目の授業の準備をする夕人に問いかけた。

「あーーー…そうですね。
ずっと声かけていただいてるのに、ここ最近ずっと行けてないので。
今回は参加させてもらおうかと…」



正直な話、参加しなくていいなら行きたくはないのが本音であった。


大人数でわいわいと談話することも、貴重な週末の時間をそこに割くことも、ついでに言うなら韓国料理も。

ーーーすべて苦手な部類だ。


20歳を超えて、お酒はなんとか少しずつでも飲めるようにはなったが、好き好んで飲むほどのアルコール耐性もなく。


それでも、こういった縦社会で生きていく上で、それは避けては通れない事柄だとわかっていた。

一昔前と比べ、”会社での付き合い”というものの概念が変わりつつある今でも、まだまだ、飲み会への参加は社会人の付き合いとして当たり前のことだと暗黙の了解になっている。




(夕人先生、来るんだ。
近くの席座れるといいなーー…、楽しみ…)



綾乃は1人考えながら頬を染めてふふ、とにやける。

視線を感じてふと顔を上げると、黙ったままじっと見つめる大村と目が合った。




その瞳からは
”任せて!誘導してあげるわ、good luck綾乃先生”と語りかけているように思えてーー……



綾乃は顔を赤くすると、いたたまれず俯いた。






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