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18歳、立春 ー別れー

さよならが言えなくて

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ーーー…





卒業式も終わり、進学、就職……。
各々が、それぞれの道へと進み始める。






ついに、夕人が東京へ発つ日がやってきた。


ーーーゴロゴロゴロ………


夕人はスーツケースを引き、新幹線駅のホームへと降り立った。



母と父が、見送りに来てくれている。 






「夕人、気をつけるのよ。着いたら、連絡してね」

母はそう言うと、紙袋を夕人に手渡した。

中を覗くと、使い捨てのプラ容器に、日持ちのしそうな常備菜が詰められていた。



「うん…ありがとう。助かるよ」

自分の好きなものばかりで揃えられた母の手作り弁当に、夕人は心から感謝した。


きっと暫くの間、母の手料理を口にすることもなくなる…そう思うと、とても、感慨深く。

母から常に感じていた愛。

感謝の想いは、何にも代え難くーー…

ただ、“今までたくさん心配かけてごめん”と伝えたかった。


「マンションに着いたら、ちゃんと冷蔵庫入れて、3日は保つから。
お米も自分でちゃんと炊いて、しっかり食べるのよ。あと、水分もしっかりとって、それと埃も体に悪いから、掃除もこまめに……」


涙ぐんだ母の、その心配する声を、父が遮った。

「まあまあ、大丈夫だって。
もう、子供じゃないんだからさ…な?夕人。
うまく、やれよ?体だけ、気をつけてな」

「うん、わかってる」



父は、上着のポケットから封筒を出して、夕人に手渡した。

“餞別”と書かれている。

「気持ち多めに入れてるから、何かあったらすぐ、それ使って帰ってこい。
何もなくても、寂しくなったらーーーいつでも帰ってきたらいいぞ」


なんだかんだ言いつつ、父も母も………2人ともずっと、子供扱いだ。




「うん……。ありがとう。
…………………じゃ、行ってくる」










『ーーー番ホーム常盤線ーーー東京駅行きーー間もなく出発します……』


アナウンスに、夕人はスーツケースを引いた。
父と母を一瞥してから、列車に乗り込む。







平日に出発の日を選んだおかげで、車内は空いていた。

グリーン席のチケットをわざわざ予約してくれたのは、電車への恐怖心を拭い切れてないかもしれない自分への、母なりの配慮だと思えた。




指定席に座った夕人は、窓からホームを見つめた。




3年前ーー…あの頃は、まさか自分が1人で電車や新幹線に乗れるようになるなんて………思いもしなかった。





一生、あの事件の恐怖に怯えて、苦しんで、過ごしていくんだと思っていた。


したいことも、夢も捨てて…………


ただ悲観した人生を送っていくのかと。
不安を抱えながら…………






こんな風に、なれたのは……………

誰のおかげだった?







ーーーやめろ、考えるな。もう決めたんだ。思い出さないって。







窓に映る自分の表情かおと一瞬目が合い,夕人は視線を落とした。








あの日から、ぽっかりと穴が空いてしまった心。


そこには何の色も無く、くすんでよごれて、放ったらかしにしてきたは、まだ、忘れてはいけないと、叫んでいるようで。








たくさん、話して……

笑い合って……

ふれて、確かめ合った。




温かい手で包まれるように、ふれられて……


口づけ、囁かれた、愛のことば。






そんな美しい記憶を、

どこにも仕舞い込むことはできなくて。






鈍る決意に、情けなくなる自分。









「ーーーー大嫌いだ…………」






ひとり呟いた、その時だった。








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