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18歳・冬至 ー君と、僕の未来ー
3.矢代の告白
しおりを挟む「ーーー………相模先輩」
聞き覚えのある声に呼ばれ、夕人は力無く,ゆっくりと振り返った。
そこには、複雑な表情をしたーー……一年の矢代が立っていた。
「こんなとこで、何してんですか?そんな薄着で、寒いのに。風邪ひきますよ………」
夕人は視線を逸らし、俯いた。
その横顔からは別に気にかけてくれなんて頼んでない、とまるで聞こえるようで。
「別に、なにもーーー……。」
それだけ言って、立ち去ろうと踵を返すと、呼び止められる。
「あの……っ…、ちょっと話せないですか。
相模先輩……
聞きたいことがあるんです」
「…………………なに?」
「あの……、噂で聞いて。
相模先輩、C大を受験するって本当ですか。
相模先輩ほど、絵も上手くて才能ある人が、なんで美大に行かないのか、俺、不思議でしょうがなくてーー……」
「ーーーー…別に、なんでだっていいだろ…」
ーーーそんなこと、いま言われたって、答えられるかよ。
もうただでさえぐちゃぐちゃの頭の中を、これ以上引っ掻き回さないでくれよ。
「……玖賀さんと一緒にいたいからですか?」
「…………………え?」
その言葉に一瞬耳を疑った。
顔をゆっくり上げて、矢代の顔を、しっかりと、真っ直ぐ見る。
「俺、見てしまったんです。文化祭の日ーーー…
体育館裏で、キス……してましたよね。玖賀さんと。
はじめは見間違いかと思いました。
けどーーー…間違いじゃなかった……」
「………………」
まさか、見られていたなんて。
言葉が見つからず、困惑の表情で目を逸らす。
「玖賀さんも、N体育大の推薦辞退したって話聞きました。
同じ大学に行って……玖賀さんと一緒に居たいからーー…ですか?
将来を、大切な未来を、そんなことで決めてしまって良いんですか?」
「ーーー……………るさい……」
「二人で居られればそれでいい…なんて、そんな綺麗事。
そんなの、ただの共依存じゃないですか。
本当に大切に思うなら、相模先輩の美大進学を、普通は応援しないわけない……
俺なら、そんなこと絶対にーー……」
「うるさいって言ってんだよ!!」
夕人は矢代の話を割いて声を張り上げた。目に、大粒の涙を溜めて……
初めて見る今にも溢れ出しそうな思いを堪えた夕人の姿に、矢代は言葉を失う。
「“そんなこと”………?お前に、何がわかるっていうんだよ?なんでそんなこと言われないといけないんだよ、ほっといてくれよ……っ関係ないだろっ!!」
まるで自分の心の内をすべて曝け出されたようで。冷静に反論なんて出来ない。
ーーーわかってるんだよ、本当は。
そんなこと、誰に言われなくたって……
わかってるから、どうしたらいいかわからないんだよ。
教えてくれよ。何が正解なんだ?
速生にとって、俺にとって……
何を選ぶことが、一番の、幸せなんだーー…?
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