上 下
134 / 189
18歳・冬至 ー君と、僕の未来ー

3.矢代の告白

しおりを挟む







「ーーー………相模先輩」


聞き覚えのある声に呼ばれ、夕人は力無く,ゆっくりと振り返った。


そこには、複雑な表情をしたーー……一年の矢代が立っていた。


「こんなとこで、何してんですか?そんな薄着で、寒いのに。風邪ひきますよ………」


夕人は視線を逸らし、俯いた。

その横顔からは別に気にかけてくれなんて頼んでない、とまるで聞こえるようで。



「別に、なにもーーー……。」

それだけ言って、立ち去ろうと踵を返すと、呼び止められる。


「あの……っ…、ちょっと話せないですか。
相模先輩……
聞きたいことがあるんです」


「…………………なに?」




「あの……、噂で聞いて。
相模先輩、C大を受験するって本当ですか。
相模先輩ほど、絵も上手くて才能ある人が、なんで美大に行かないのか、俺、不思議でしょうがなくてーー……」



「ーーーー…別に、なんでだっていいだろ…」



ーーーそんなこと、いま言われたって、答えられるかよ。

もうただでさえぐちゃぐちゃの頭の中を、これ以上引っ掻き回さないでくれよ。




「……玖賀さんと一緒にいたいからですか?」


「…………………え?」



その言葉に一瞬耳を疑った。
顔をゆっくり上げて、矢代の顔を、しっかりと、真っ直ぐ見る。








「俺、見てしまったんです。文化祭の日ーーー…
体育館裏で、キス……してましたよね。玖賀さんと。
はじめは見間違いかと思いました。
けどーーー…間違いじゃなかった……」


「………………」


まさか、見られていたなんて。
言葉が見つからず、困惑の表情で目を逸らす。



「玖賀さんも、N体育大の推薦辞退したって話聞きました。
同じ大学に行って……玖賀さんと一緒に居たいからーー…ですか?
将来を、大切な未来を、で決めてしまって良いんですか?」


「ーーー……………るさい……」


「二人で居られればそれでいい…なんて、そんな綺麗事。
そんなの、ただの共依存じゃないですか。
本当に大切に思うなら、相模先輩の美大進学を、普通は応援しないわけない……
俺なら、そんなこと絶対にーー……」


「うるさいって言ってんだよ!!」



夕人は矢代の話を割いて声を張り上げた。目に、大粒の涙を溜めて……



初めて見る今にも溢れ出しそうな思いを堪えた夕人の姿に、矢代は言葉を失う。



「“そんなこと”………?お前に、何がわかるっていうんだよ?なんでそんなこと言われないといけないんだよ、ほっといてくれよ……っ関係ないだろっ!!」


まるで自分の心の内をすべて曝け出されたようで。冷静に反論なんて出来ない。





ーーーわかってるんだよ、本当は。


そんなこと、誰に言われなくたって……



わかってるから、どうしたらいいかわからないんだよ。



教えてくれよ。何が正解なんだ?


速生にとって、俺にとって……


何を選ぶことが、一番の、幸せなんだーー…?










しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】透明の石

N2O
BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:315

幸せになりたい!ー兄と塔から逃げ出して自由に生きてやる!ー

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,186

婚約破棄

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:6

オメガバース スパダリの彼に愛されています!

BL / 連載中 24h.ポイント:319pt お気に入り:218

全部、抱きしめる

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:585

天涯孤独になった僕をイケメン外国人が甘やかしてくれます

BL / 連載中 24h.ポイント:4,771pt お気に入り:2,787

逆行令嬢は何度でも繰り返す〜もう貴方との未来はいらない〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:851

処理中です...