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18歳・冬至 ー君と、僕の未来ー
3.真実を知る
しおりを挟む夕人が急いでたどり着いた先は、学校だった。
冬休みに入っていたが、部活が行われているためバレー部顧問を担う夕人たちクラスの担任はおそらく学校にまだいるはずだと、夕人は校舎の中を探してまわる。
「ーー相模くんっ!」
美術部室近くの渡り廊下を通った時、声をかけられた。
「あ………部長……」
「そんなに急いでどうしたの?
俺今日2年の生徒に部長の仕事引き継ぎしてるんだけどさ……これまでの作品持って帰れるみたいだから、良かったら部活寄っていきなよ?」
美術部部長はそう言って夕人の顔を見る。
青白い顔で、校内といえど少し身震いしそうな寒さの中上着も羽織らず薄着の夕人に、少し不安そうな表情になる。
「相模くん、顔色悪いよーーー…?大丈夫?」
「えっ……?あーー…う、うん。
何でも無いんだ………ちょっと、うちのクラス担任を探してて…」
少し考えて、思い出したように美術部部長は続ける。
「バレー部顧問の先生だよね?
たしかーー…職員室裏で、用務員さんと話してるの見かけたよ。」
「そうなんだ、わかった。……行ってみるよ。
ごめん、部には後で……顔出すから。部長、ありがとう」
夕人は駆け足で職員室の方へ向かった。
「部長」
美術部部長が振り返ると、そこには一年の矢代が部室から出てきて立っていた。
「あの……いま、相模先輩の声、しませんでした?今日、来られてるんですか?」
「え、ああーー…うん。
クラス担任に話があるみたいだよ、ちょっと急いでそうだったな。
もしかして……進路の話かもね」
「そう、ですかーーー…」
「ーーーーやっぱり、美大受けるのかなぁ、相模くん……」
「…………………」
夕人は知らなかった。
T芸大へ進学した元美術部天才と呼ばれる瀬戸の叔父にあたる、M美大の教授が夕人直々に会いにきたということが、どこから知られたのか噂になり始めていたことを。
「はぁ、はぁっ……
ーーー先生!」
「ーーー…ん?おお、相模。
どうした?こんな時間に。部活か?」
職員室の裏の中庭スペース。
翌日の校舎裏剪定作業の準備をしているクラス担任を見つけた夕人は、急いで駆け寄った。
「あ、あのーー…聞きたいことがあって……
あの………っ」
単刀直入に切り出した。
「速生ーー……、玖賀くんのことで……
東京の、N体育大学からスポーツ推薦の話があったってーー…本当なんですか?」
担任は不思議そうな顔をして、手に嵌めていた軍手を外し地面に置いた。
「ーーああ、もうだいぶ前の話だけどな。
今年の男子バスケ部、全国までいっただろう?玖賀は特に主将として優秀な成績収めたことを評価されたんだろうな。
手紙を貰ったんだよ、N体大から直接な。」
「………………なんで、それで…」
自分の知らないところで、いつの間にそんな話があったのか。
なぜ速生は、何も話してくれなかったのかーーー…
「まあなぁ…もう玖賀はその時、C大受験を決めてたみたいだからな。
”有難いけどその話は断ります”って。本当に一言で……あっさりしすぎてて驚いたよ」
「………………」
「なんだ、お前たち、いつも一緒にいるのになーー…?相模は知っているものだと思ってたよ。
そういえば玖賀、“東京の大学なんて、そんな遠いとこ行けませんよ”って、笑ってたな。
まあーー…C大だって十分優秀だし、そっちでも十分バスケは出来るだろうから…体育大学にこだわる必要だって無い。
進学先は近いに越したことないさ」
ーーーそんなの、速生にしかわからないことじゃないか。
どんな思いで、決意したというんだろう?
誰にもわからない。
わかったようなこと、言えない。
「あっーー…まずい、個人情報喋りすぎだわ。
まあお前たちくらい仲良いんなら……後は本人に直接聞きなさい、いいな?」
「ーーーーーー…はい………。」
「もうこんな時間か……そろそろバレー部見にいかないといけないな」
担任は校舎の隅に剪定の用具を置くと、「冷えてきたし早めに帰るんだぞ?」と夕人に伝えると、足早に去って行った。
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