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18歳・冬至 ー君と、僕の未来ー

2.速生の秘密

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ーーーはっ。

夕人は我に返った。目の前の、鏡を見つめる自分の姿…そしてふと気付く。


「ーーーあっ……、コート………」


上着を脱いで速生の部屋に置いたまま帰ってきてしまったことに気が付いた。


階段を降りながら、速生の携帯に電話をかける。


『プルルルル………』


ーーー速生……出ない……。


鳴り続けるコール音。電話に出ない速生を不思議に思いながら、玄関を出て隣家の門の中に入る。




ーーーどうやって取りに行こう……。



ついさっき、ーーー…帰宅してから本当にまだ30分も経っていない。また速生の家へ戻るのはどうしても躊躇われた。

どんな顔をして、速生の母に、速生にまた会えばいいかわからなくて。


ただ、忘れ物を取りに行くだけだというのに。




夕人は、速生の家の玄関ドアの前に佇んでいた。

インターホンを押そうか、迷ったその時。



「ーーーちゃんと説明しなさいっ!!」

家の中から、テーブルをドン!と叩くような大きな音、同時に速生の母の怒声が聞こえた。





ーーーいまの………おばさんの声………?


こんな怒った声……、今までに……聞いたことない……









外まで漏れてきた言い争う声に、ただ事ではない雰囲気を感じ取り……夕人はつい、玄関ドアのノブに手をかけた。



ーーカチャ…



恐る恐る、ノブを手前に引き、中を覗く。

ドアの隙間から見える誰もいない廊下、その奥。リビングの中から、速生の声が聞こえてきた。



「ーーー…だからーーー…何度も言わせんなよ。
もう、終わったことなんだって。気にしなくていいから」


「良くないわよっ!
ハヤ、あんた、そんな大事なこと……誰にも言わないで勝手に決めてっ…!」




ーーーなに……?


速生とおばさんは、何の話をしてるんだ………?





「どうしてハヤからきちんと言ってくれなかったのよ!?
さっき担任の先生から電話で聞かなかったらーー…
ずっとお母さん知らないままだったのよ⁉︎」


「もう、3ヶ月も前の話だよ。今さら、もういいだろ……」


「今さらじゃないでしょ!?なんで黙ってたのか聞いてんの!
Nーー…それを勝手に断ってるなんて…そんな大切な話……っ
どうして話してくれなかったの?」





ーーーえ…………?



ーーー何だよ、それ………



ーーーそんなの………そんな話……速生、ひとことも………














「だからさぁっ…言ってるだろ。
オファーもらったってさ、受験する気がないのに……そんなの母さんに言ったって無駄だろ?
黙ってたんじゃないよ、本当に、言う必要ないから、言わずに……担任に断ってもらっただけーー」


「そんな…っ!
だけどーー……あんた、ハヤ……。
N体大、行きたいって言ってたんじゃーー…
“バスケで認められてもし声がかかったら”って…あれだけ言ってーーー…」


「それは、昔の、夢の話だろ?
夢と現実は、また別だよ。

ーーー俺は、東京になんて行きたくない。
今、ここから離れるわけにいかない理由があるんだ。
ごめん、母さん。黙っててーーー…」



「ハヤ………その、理由って?」


「今は,言えない。
けど、何よりも一番……大切なことなんだ。
いつか、落ち着いてちゃんと話せる時がきたら……話すから。
だからごめんーー…今は、俺の好きにさせて欲しい。」




ーーガチャ…

「ーーー!」

沈黙の中。速生は玄関から聞こえた微かな物音に、リビングから出る。




廊下から続く玄関、入り口ドアを見渡す。





ーーーそこには誰もいなかった。




「ーーー気のせい……か……」 










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