129 / 189
18歳・冬至 ー君と、僕の未来ー
2.涙が出そうなキスマーク
しおりを挟む自宅の中に入って程なくして、バイク便の男性がインターホンを鳴らした。
母から頼まれた書類を封筒ごと渡して、「お願いします」とだけ伝えた夕人は、一息つき、自室へと戻る。
「ーーーーはぁ………」
部屋の中、ひとり、小さくため息をつく。
ふと姿見に映る自分が気になり,鏡に少し近づいた。
頸から鎖骨、その下にかけて…なぜか、チクチク、ヒリヒリと皮膚が痛む。
「えっ……なんだ、これーーー…」
ニットセーターを少し右肩の方へずらして驚いた。
頸から首筋……そこから鎖骨の周りにかけて。
そこには、1cm大ほどの薄赤色い内出血のような跡が、いくつもあるのが見える。
速生の唇で強く吸われた時についたものだった。
ーーーこんなの、誰かに見られたらどうするんだよーーー…。
これまでに全く経験もなくそういうことに疎い夕人でも、これがキスマークと呼ばれる、恋人が束縛の印に相手へ付けるものだというのは何となく知っていた。
その小さく痛む箇所に、指で触れる。
ーーーまるで、刻印みたいだ。
「俺だけの、夕人だ。」そう聞こえてくるようで。
その行為に対して、恥じらいや困惑………それよりも、なぜかーー…
涙が出そうになる。
この何にも表せられない思いは何だろう。
どうして、こんなにも不安なんだろう?
速生はーーー…なにか、俺に隠している。
ここ何日かーー…
いや、いつからかはわからないが、最近ずっとーー…感じていた違和感。
ふとした時の速生の態度の違い。
戸惑う表情。
“N体大”の文字。
本人に直接きけばいいだけの話なのに……それができないのは、速生の反応を見るのが怖いから?
違う、それだけじゃない。
自分の中にもあるからだ。
速生にも誰にも言えない、心の奥底に隠した、小さな迷いを。
ーーー俺にもあるからだ。
速生に言えていないことが。
応援ありがとうございます!
50
お気に入りに追加
157
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる