上 下
128 / 189
18歳・冬至 ー君と、僕の未来ー

2.キスしてよ

しおりを挟む





「ーー…ごめん、ちょっと帰らないといけなくなった……」

そう言って振り返ろうとした瞬間。




ーーーギュッ…

突然背後から、速生に抱きしめられた。




「ーーー…あっ……は、速生………?」



「離してほしい?」

そう言って、柔らかい黒髪に顔をうずめる。

夕人の、大好きな香り……。ずっとこうしていたいと思いながら。


「ーー…………バカ、な、何言って…」




そして一度腕を緩めると正面にまわり、大きな手で、夕人の頬に触れた。

指先で、優しく、耳の下…うなじから首筋を撫でる。



その手の感触からは、とても口惜しくて…名残惜しい。まだ一緒にいたい。そう伝わってくるようで。



「夕人から、キスして?
ーーーそしたら、帰ってもいいよ」


「………………」



恥ずかしくてずっと逸らしていた目を、夕人は速生に向ける。


至近距離で顔を見るのはまだまだ慣れなくて………速生はどうしてこんなに積極的に出来るのか,不思議で仕方ない。


「………………」


長い睫毛で縁取る瞼の奥。大きく透き通った瞳でみつめて、無意識にも速生をどきりとさせる。



屈んでこちらに顔を寄せているその口元へと、少し、かかとを上げた。




ーーーちゅっ……









「ーーー……こ、これでいいんだろ…」


「…………………っ…!…」


まさか本当にしてくれるとは思わず、速生は瞬時に顔を赤らめて唇を手で押さえた。



「ゆ、夕人ーーー………」


ーーー自分からやれって言っといて。なにを今さら乙女な反応してんだよ、ムカつく……



「じゃっ、じゃあ俺、帰るから!ケーキ、ご馳走様…!それじゃ」



夕人はそれだけ早口で言うと、急いで速生の部屋を出て階段を降りていく。


ーーータン、タン、タン、タンッ…



ーーーガチャッ!

「ただいまぁ~~っ!って、あら!夕人くん!」

玄関の扉が勢いよく開き、ちょうど速生の母が仕事から帰ってきたところに出くわした。


「あっ……お、おばさん。お邪魔してます…」

「来てたのね~、いらっしゃい!
そうそう、今日はありがとうねぇ、うちのお父さんから、元気な顔が見られて嬉しかったって、連絡きてたわ!
面倒なことに付き合わせちゃって悪かったわねぇ、夕人くん、しっかり遠慮せず食べられた?」

「あっ、いえ……、はい。
たくさんご馳走になって、ケーキまで買ってもらったんで……ありがとうございました。またお礼、伝えといてください」


夕人は目を逸らしたまま伝えた。
 

速生の母の顔が、どうしても見られない。 





ついさっきのーー…


速生の部屋の中で行われていたことを思い出してしまい、胸の中を覆うのは気恥ずかしさに、そして、それを上回る罪悪感ーーー…。



「いいのよ~!…あら?夕人くん、なんだか顔赤いわよ?風邪?大丈夫?」


「ーーーえっ?い、いえ……な、何でもないです、大丈夫です。
あの俺、ちょっと用があってもう帰らないといけなくてーー」

「あら、そうなのぉ?ま、隣なんだからいつでもまた来れるしねぇ~……」


速生の母がそう言った瞬間。



『TRRRRRRRーーー』

廊下の奥、リビングの中から鳴り響く電子音。


「あら!家の電話鳴ってるわ、…もう誰かしら珍しい~~。
ま、夕人くんまたいつでも来なさいねぇ!」




「ーーー…ありがとうございます、お邪魔しました」

『TRRRRRRR……』


電話を取るため急ぎ足で家の中へ向かう速生の母とすれ違いに、夕人はそそくさと玄関を出た。










しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】透明の石

N2O
BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:315

幸せになりたい!ー兄と塔から逃げ出して自由に生きてやる!ー

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,186

婚約破棄

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:6

オメガバース スパダリの彼に愛されています!

BL / 連載中 24h.ポイント:319pt お気に入り:218

全部、抱きしめる

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:585

天涯孤独になった僕をイケメン外国人が甘やかしてくれます

BL / 連載中 24h.ポイント:4,771pt お気に入り:2,787

逆行令嬢は何度でも繰り返す〜もう貴方との未来はいらない〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:851

処理中です...