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18歳・冬至 ー君と、僕の未来ー

1.メリークリスマス

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三人は、店を出て少しだけ路地を歩く。



「ーー…あの、ご馳走様でした。とても美味しかったです。今日は、ありがとうございました」


夕人がそう言うと、速生の父は微笑んで、


「いいんだよ、こちらこそ…一緒に食事ができて嬉しかったよ、ありがとう。な?速生。
ーーーあ、ちょっと、少しだけ。ここで待ってて」


二人をその場にとどまるよう言い聞かし,速生の父は足早に路地横の洋菓子店へと入って行った。




ほどなくして、店から出てきた父の手には,大きな白い正方形の箱が。



「少し早いけど、メリークリスマス。
持って帰って、二人で食べなさい。
ごめんな、こんなことしか思い付かなかったが。次に帰る時は、もっとちゃんと……な。」


そう言って父は速生の胸の前に“ほら、”と受け取るようにケーキを差し出した。


「ありがとうーーー…父さん。」



両手で受け取り、速生は笑った。

どこか申し訳なさそうに、照れくさそうに。少しだけ,心の中のわだかまりが抜け落ちたような……そんな表情で。



「タクシーでこのまま空港に向かうから、ここでお別れだ」と言い残し、速生の父は夕人たちとは反対の道を歩いて行った。









駅前のバス停へ向かう家路を二人は歩いた。



「なぁーー…………夕人」

「ーーー……ん?」



「そのーー……ありがとうな。」



速生は手に持つホールケーキの入った箱を目にしながら小さく伝える。


「別に俺、何もしてないよ。
隣に大きなぬいぐるみが座って一緒にごはん食べてただけ……みたいなもんだろ。
気にすんなよ」


「ははっ……なんだそれ。
可愛いぬいぐるみだなぁ……」



そして、空いた方の片手で、夕人の手をぎゅ、と優しく握った。



突然のことにドキッとして夕人は立ち止まり、速生を見る。


「あのさーー…このケーキ、今から俺の家で一緒に食べない?せっかく父さん買ってくれたんだしさ」



「えっ………。う、うんーー……」



少し迷ったが、断る理由もない。




胸の内にもやがかかったような、どうしても拭いきれない不安をまるで隠すように、見えないふりをするようにーー……


夕人は黙ったまま、速生について歩いた。






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