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17歳・霜降 ー交わされるきみへの想いー
4.軽音部ライブスタート -1-
しおりを挟む「ーーーわぁ………」
ステージ前には来賓客用のパイプ椅子が20席ほど置かれ、それより後ろは全て立ち見席、自由に好きな場所で観覧OKとされていた。
舞台上のステージに目をやる。
舞台後ろの緞帳の前には、夕人たち美術部の製作した、大きなファブリックパネルが堂々と飾られており、ステージには既にドラムセット、ギターアンプ、スタンドマイクなどが設置されていて、本当にどこかの有名バンドのライブに来たような雰囲気に圧倒される。
「夕人っ!すごいじゃん、舞台のパネルーー…マジで超かっこいい、さすが美術部だな」
「ははーー…そんな。
けどさ、これを作ったのは俺たち美術部だけじゃないよ、速生だって、手伝ってくれただろ?」
「ま、言われてみれば?ーーあんなに身を挺してそのための資料を借りに行くことになるとは俺も思いもしなかったわ」
「はは……言えてる」
今となっては笑い話だ。
開演の16時まであと数分のところ、どんどん会場に入る観客は増えて体育館内は密度が高くなる。
人混みのなか、速生は夕人の姿をちら、と気にする。
「……夕人、大丈夫か?」
「ーーーえっ?………何が?」
「いや、なんか少し……戻ってきてから元気ないなって…。
ーーーー疲れた?」
速生は心配そうに、夕人の顔を見下ろしている。
ーーー俺、そんな風に見えたのか……。
実は、複雑な気分に陥っていたのは嘘ではなかった。
それは、瀬戸教授からの話を聞いてから……。
この、行き場のない、喩えようのない不安な気持ちは何なのか。自分でもよくわからなかった。
「ーー…別に、何もないよ。
……速生、ありがとう」
そう言って夕人は、速生の顔を見上げて微笑んだ。
優しく、穏やかに……だけどどこか、切なく…どことなく、哀しさの滲み出る笑顔。
速生はその笑顔を見て瞬時に「この表情を知っている」と思った。
あの時ーーーー…二年前の。
……放課後、夕暮れの、美術部室。
1人椅子に座ってカンバスに向かい、筆を構える夕人の姿。
思わず写真を撮ってしまった、あの、儚く、美しくて、消えてしまいそうなーーー…
あの時と、同じだ。
不安な思い、迷っている心があらわれた、夕人の表情。
「なぁ、夕人ーーー……さっき、美術部室でもしかして何か…」
速生が言いかけた時、
『ビィーーーーーーーー』
体育館内に開演を知らせるブザー音が鳴り響く。
時計はついにライブ開始の4時を指していた。
『ワアアアアアアーーーー』
『パチパチパチパチーーー』
ステージに、軽音部ライブのメンバーが現れ、観客たちは一斉に歓声を上げる。
「お待たせしましたーーー…軽音部ライブステージ、これより始めさせてもらいます!
1曲目はーーー…」
ギターとドラムのスローな演奏が始まり、遂にライブがスタートした。
『パチパチパチパチーーー』
『♪~~♪~♪~~Ahーーー…』
軽音部部長の綺麗な歌声が響き渡る。
流暢な英語の歌い出しにみな、聴き惚れる者,カッコいいーー!と声を上げる者。
観客たちが興奮するなかーー……
「………………」
速生も夕人も、声を出すことはなく。
夕人は、ただ、速生の言いかけた言葉を聞こえないふりをして、前を向き軽音部の演奏に集中しているかのようにただ黙っていた。
体育館前へ来るのが遅くなってしまった理由を速生に説明するのには、まだーー…どうしても、言葉が見つからない。
M美大の瀬戸教授が自分に会いにきたこと、そして、その理由をーー……平然と話せる自信が無かったからだった。
それは果たしてどうしてなのかーーー…
自分でも分からず、ただ、忘れたふりをしようと目を背けた。
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