107 / 189
17歳・霜降 ー交わされるきみへの想いー
2.握手会と瀬戸
しおりを挟む「ーーーあっちょっと見て!美術部室,相模先輩が受付してる!」
「ーーーほんとだ!王子先輩!きゃあ~っ!かっこいい!ねぇ!ちょっと握手してもらおう!」
夕人の姿に気づいた下級生の女子たちが、美術部室の受付にわらわらと集まってくる。
「美術部室の前!王子が握手会してるんだって!」
「え!マジ⁉︎握手会⁉︎レアすぎ!いこいこ!」
美術部室の前にズラリと女子たちの謎の行列が出来上がり,夕人は顔をあげて目を疑う。
「え、あ、あのーーー…」
「相模先輩!あの!一生の思い出にします!握手してください!」
普段ならば絶対に他人の手になど触れてたまるかというスタンスの夕人だが、
ーーーまあ、今日くらいはいいか……。
そう思い、
「じゃあ、握手したら展覧会観て帰ってね?」
微笑んで、後輩女子の手を優しく握った。
「きゃあ~~~~!超カッコいい!あっありがとうございます!!」
何人と握手を交わして美術部室へ誘導しただろうか。
まるで“客寄せパンダ“にでもなったような気分で、目の前に差し出された最後の1人の手を握ろうとして顔をあげたその時。
「ーーーーあっ………」
「やあ。俺とも握手してくれる?相模くん」
そこには、元美術部部長で、夕人が唯一心を許していた先輩、瀬戸和樹が立っていた。
にっこり笑って、右手を差し出している。
「……瀬戸さん、来られてたんですね。お久しぶりです」
夕人は瀬戸の差し出した右手をスルーしたまま、受付票とペンを差し出し「こちらに記入お願いします」と涼しい顔で伝える。
「………はは…。相模くん、変わってないみたいで安心したよ。
これ、書けばいいんだね」
瀬戸はそういって苦笑いすると、受付票にサラサラと名前を書き入れる。
「ーー…瀬戸さん、大学の方はどうですか?今は東京にいらっしゃるんですよね?」
瀬戸はあれからT芸大を現役で合格し、今では東京に住んで通学しているという話を聞いていた。
「あぁ、おかげさまで楽しくやらせてもらってるよ。
実は俺いま、守江ーー…幼馴染でこの高校の元バスケ部のやつとルームシェアしててね。
そいつはN体大だから、お互いの大学のちょうどあいだくらいのところに家を借りてるんだよ」
「へぇ……あ、じゃあ今日はその守江さんって人と一緒に?」
夕人の問いかけに、いや、実はね…、と後ろを振り返る。
「ーーーこんにちは。
君が、相模くんーー…だね。はじめまして」
瀬戸の後ろには、黒いスーツを着た年配男性が立っていた。
首からは、入場受付で配られる“来賓者”と書かれた赤い紐のカードを下げている。
「この人、僕の叔父なんだけど。
M美大油絵専攻科の教授でね…相模くんに会って話したいってことで、今日は一緒に来たんだ」
「M美大のーーー?そう、なんですか……。
初めまして、相模です」
夕人はその瀬戸教授を一瞥する。
黒いスーツに白髪混じりの髪の毛は綺麗にセットされておりとても紳士な印象で、歳は50代半ばだろうか、目尻に刻まれた皺からは優しさの中にもどこか厳格さを感じられる。
ーーーT芸大の次に有名ともいえる名門校M美大の教授が、俺に、何の話が…?
「相模くん。少し、二人だけで話せないかな?
そこの中庭でも歩きながら……」
瀬戸教授の問いかけに夕人は「あ、でも俺…この受付が」と言いかけたところで、瀬戸が手をポンと叩く。
「相模くん、行ってきなよ。俺受付の当番代わるから。ここに座ってたらいいんだよね?楽勝楽勝」
「あーー…じゃあ、すみません。少しだけ……」
夕人は席を立ち瀬戸教授とグラウンド横の中庭へ向かった。
「うーん…暇だし、そろそろ守江でも呼んでやるかな。ーーあ、もしもし?いまどこ?
………え?アイスが溶けて大惨事でトイレ待ち?……ぷっ、あ、いや…ドンマイ守江。
じゃ、落ち着いたら美術部室来てよ」
瀬戸は笑いを堪えながら、受付のパイプ椅子に腰掛けた。
応援ありがとうございます!
25
お気に入りに追加
157
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる