91 / 189
17歳・霜降 ー交わされるきみへの想いー
1.狸寝入り
しおりを挟む一階から、母が話す声が聞こえる。
「ーー…ええ、“脚が痛くて休む”って…どんなすごい運動したのかしらね?
ーーーあら、速生くん……その足,どうしたの?」
ーーーー!
速生!?なんで…学校行ってるはずじゃ……?
「ーーいやー…ちょっと、この足、捻挫で……病院行ってから、昼から行こうかなと思っててーー……あの、ちょっと上がっていいっすか……?」
どことなくよそよそしい速生の物言いに夕人の母は“いつもは聞かずに上がってるのに?”と不思議に思いつつ……
「ーー助かるわ、様子見てあげてくれる?私、これから仕事の打ち合わせで出かけるから……ゆっくりして行ってねーー…」
ーーーガチャ,バタン……
母が玄関を出ていく音。
その少し後に、躊躇うような足取りで、
ーータン、タン、タン、タン…
階段をゆっくりと、上がる音が聞こえてくる。
ーーーえっ、こ、こっち来る!
どうしよう⁉︎まだ、心の準備が………!
夕人は慌ててベッドに戻り、布団の中に潜り込んだ。
『ーーーコンコン…』
不自然に響く、夕人の部屋のドアのノック音。
「ーーー夕人……?
起きてるか?……入ってもいい………?」
ーーー今まで、ノックはおろか、入室の許可なんて聞いてきたことすら無いくせに………
こんな時に限って、白々しいやつ………
「………………」
ーーーガチャッ……
「夕人……………?」
速生が部屋に入ってくる気配を感じて、夕人はただ静かに、息を殺して……この場をどう切り抜けたらいいか考えるが、何も思いつかない。
ーーー“あ、おはよ。”と、あたかも今目覚めたかのように、布団から出てしまおうか?
無理だ。
ここまできて、いつもとまったく違う態度の速生を見て……何も無かったかのように普通に接することなんて、できない。
狸寝入りを決め込むことにした夕人は、布団にくるまり静かに沈黙していた。
応援ありがとうございます!
30
お気に入りに追加
157
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる