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17歳・霜降 ー告白ー
2.市立総合病院
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どれだけの時間走り続けただろうか。
薄暗い空、“M市立総合病院”の看板が見えてくる。
夕人はおぼつかない足取りと乱れた呼吸で、病院の夜間救急入口に辿り着いた。
「はっはぁっ、はぁっ……はぁっ」
立ち止まった途端、額から汗が吹き出て、全身がまるで内側から炎で焼かれてるように熱い。
ふらふらと救急入口のドアを押して中へ進み受付と書かれたガラス張りの小窓の前、職員に向かって切れ切れの息と口調で話す。
「あの……っはぁっ……ここに運ばれてきた……っ…高校生の……っ玖賀、………はっ」
「あ……っ玖賀さんのご家族さんですか?
そちらの第2処置室にーー……、だ、大丈夫ですか?」
相槌を打つことすらもせず夕人は振り返り、額から流れた汗の滴が床に落ちる。
受付の職員が右手で誘導した『第2処置室』の案内プレートを目にして最後の力を振り絞るように走って駆け寄り、ノックすることも忘れてスライドドアを勢いよく開けた。
「速生ーーーー……っ!!」
ーーーガラッ!!
エタノールの香りが立ち込める、病室の奥。
そこには、ひとり、診察台ベッドの上に腰掛けている速生がいた。
「⁉︎
えーーー…?ゆ、夕人ーーーー…?
なんで…」
右足首に包帯を巻いた速生は、突然現れた夕人の姿に目を見開く。
「はぁ…っ……はぁっ……、なんで、って、それは………こっちのセリフだろっ!……速生、お前なに……はぁっ……何やって……っ」
息を整えようにもうまくいかない。
額から汗が滝のように流れて、止まらず、顔は火照ってまるで真夏の炎天下にいるように熱くて仕方ない。
夕人は両膝に手をついて下を屈むとはぁ、はぁ、と苦しそうに息を吸っては吐いてを繰り返した。
今までに見たことのない夕人の様子に速生は驚きつつも、はっと現状を理解した。
「もしかして……夕人、走ってきたのか……?ここまで……」
「…………はぁっ………はぁっ…」
少しの沈黙の後、速生は気まずそうに口を開く。
「ごめん、実はーー…いろいろあって。
図書館の前で、転けそうになったおばあちゃんを助けたんだけど、その拍子にバイクが歩道に乗り上げて来て……咄嗟に庇ったら、足、グキッちゃってーー…。
あ、あの、これ、ただの捻挫だから…」
「な、なんで…っ救急車でーーー…」
「いや、断ったんだぜ?大丈夫だって…。
けどとにかく乗れって言われてさ…!
おばあちゃんもタンカに乗せられてるし……もしかして俺、そのおばあちゃんの孫と思われたのかな?はは……ほんと、参るよな……」
動揺した様子で、変に作り笑いをする速生。
「なんだよ……それ………っ」
やっと少しずつ呼吸が落ち着いてきた夕人は、制服の袖で額から滴り落ちる汗をごしごしと拭った。
安心したせいか、思わず、例えようのないものが胸に込み上げてくる。
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