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15歳・立夏 ー初めての夏ー
1.シャッター
しおりを挟む普段、通っている高校とは違う沿線。
いつもと反対方面へわずか10分ほどしか走ってないというのに、あたりには全く見たことのない景色が広がっていた。
「ここってーー………?」
速生に導かれるまま、バスを降りる。
二人は、日陰を探しながら、一緒に歩いた。
「あのさ、もし疲れたりしたらすぐ言えよな?
今からいろんなところ歩いて、夕人が夏っぽい!って思ったものがあれば、すぐに写真を撮るんだ。いい?」
夕人は速生の言葉に頷いたが、見知らぬ土地の景色に戸惑いつつ、周りをきょろきょろと見回す。
「普段来ないからこの辺、全然道分かんないけど……」
「大丈夫だって。
よし、まずは……こっち!」
速生が夕人を連れてきた場所は、大きな道路に架かる歩道橋の上。
「わぁ…………」
おそらくここ一帯の中で一番広く有名な、大きな川を見下ろしていた。
広い河川敷。
少し離れたところには、熱気の立ち込める芝生の少年野球グラウンドが見える。
水辺の近くのためか、あまり暑さを感じない。
「ここ、いいだろ?
夏といえば……涼しげな水辺かな?って。川の近くって、ほんと涼しいしいいんだよ」
目の前に広がる大きな川を、夕人はただ黙って、見渡した。
青空のブルーが映る澄んだ水面には、照る日差しが反射してきらきら、とまばゆく光る。
「うんーーー……すごく、いい」
夕人はデジカメを構えた。
『ーーカシャ、カシャ……』
速生はその夕人の姿を、黙って見ている。
ーーー速生、なんだか、すごいな。
ーーーなんでこんなに、いろんなことを知ってるんだろう。
それから二人はまた、ゆっくり歩き始めた。
初めて通る、見知らぬ住宅街。
雑木林の横の、壁の落書き。
街路樹に止まる、蝉のつがい。
町の外れの、神社の鳥居。
夕人は一つ一つ、見つけるたびに目を輝かせては、シャッターを切った。
速生はただそれを黙って見ながら、後ろからついて歩く。
ほとんど話すことはなかったが、まるで子供のように、はしゃぐようにただカメラで風景を撮りつづける夕人の姿が、とても微笑ましく………
ずっと、見ていたいとすら思った。
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