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15歳・芒種 ー道標ー
1.嫉妬と期待ととまどう心
しおりを挟む夕人が1年の校舎の廊下を歩いて上がっていた時だった。
ーーーピトッ
「うおわっ!つめたぁっ!!」
後ろから両頬に缶ジュースを引っ付けられて、冷たさと驚きのあまり夕人は飛び上がった。
すぐさま後ろを振り返ると、缶ジュース2本を手に持った速生の姿が。
「ーーー速生お前っ…本気でビックリするだろ!いきなり何すんだよ!」
「……やる。好きなの選んで、どっち?」
速生は真顔で一言。
「えっ?あぁ、あ、ありがとう……って、ポカリとアクエリアス……?え、ど、どっちもそんな変わらないんだけど……。
あ、じゃあポカリで……」
「あの、さ……夕人………」
速生が何か言いたそうな顔で見つめるも、まったくもって伝わってない様子できょとんと不思議そうに見返される。
それはそうだ。ただでさえ他者の感情に鈍感気味な夕人が、速生から放たれる謎のモヤモヤが、まさか自分へ向けられたものだなんて考えもしない。
「え?なに?あ、さては英語のノートだろ?
仕方ないな、ほら、写すなら先持って行く?」
「………そんなんじゃねぇって」
「…………え?」
ーーー速生、なんか怒ってる?
あれ、俺、何かした………?
「ど、どうした?速生?」
「………………っ」
(ああああぁーー俺のアホバカクソバカアホ!
夕人にこんな態度とってどうすんだよ!
そうだ、あの時のあれはきっと……多分三年のなんか美術のすごいやつが、
『相模くんって絵上手だね~♪』的な感じで、
夕人が
『あっそれはどうもー⭐︎』的な、それ系のやり取りしてただけだ!そうに違いない!)
速生はふと我に帰り、頭をぶんぶん横に振った。
「なーんちゃって!てへっ。じゃあ遠慮なく英語のノート借りて行………
……!」
そう言いかけて顔を上げた瞬間、速生は目の前の光景に驚き思わず動きが止まる。
夕人が、とても悲しそうに……今にも泣き出しそうなつらく切ない瞳で速生を見つめていたからだ。
「あの、俺…………
速生……俺、何か…気に障ることしたかな…」
夕人は内心焦り戸惑っていた。
いつも明るく優しい速生の、まるで行き場のない怒りを噛み締めているような不機嫌な表情と話しぶり。
普段は特別激甘な態度をとってくるはずの、速生のその初めて見る姿に自分の一体なにが悪かったのか、疑ってみても何も思い浮かばない。
「あわわ……ななななに言ってんだよ‼︎なにもしてねぇよ!なにもされてねぇし!いやしてほしいわけではなくて、その……、
いやごめんっあの、夕人!違うんだ!勘違い!
俺の勘違いだから!」
「………なにが勘違いなんだよ?」
「いやぁあははは、その、ちょっと、お腹痛くて!あ、アクエリアス飲んだら治るかも!
な?夕人一緒に飲もう?」
(ダメだ、言ってること支離滅裂だーー……)
「……なんだよ、速生、意味わかんねぇ。
もういいし。1人で飲めば?」
夕人はそう言うと思いっきりフン!と顔をそっぽに向けて、足早に歩いて行く。
(あー…もう、めっちゃ怒らせたーー…何やってんだ、俺ーーー)
本当は一番よく分かっていた。
この思いは、腹立たしさは……
独占欲、妬視、焦燥ーーーー。
それは完全に、夕人へ向かう自分勝手な感情から溢れ出した、ただの嫉妬心であると。
そんなことで、こんな変な態度をとって怒らせて、一体何になるって言うんだよ………。
速生が俯いて後悔の念に駆られていたその時。
ーーピトッ
「うえあ冷た!!」
顔を上げると、そこにはむすっとした顔の夕人。よく冷えたペットボトルジュースを首元にひっつけられていた。
「………お腹痛いんだったら、りんごジュースのがいいと思うけど?
ーー…これ飲んで、機嫌直せよ」
「えっ……」
(ーーわざわざ自販機に買いに行って戻ってきたのか?)
「夕人………」
「フンッ!言っとくけど、もう英語ノートは貸さないからな、自分でなんとかしろよ?」
そう言ってもう一度、つん!とそっぽを向いて拗ねた態度を見せる。
その強がった横顔から見受けられるのは、『何怒ってるのかとビックリした』『いつもの速生に戻って良かった』と言いたそうな安堵の想い。
「んん……わかった。………ありがとう、夕人…」
(なんでそんな、優しいんだよ………?)
ーーーなぁ夕人。
なんで、きみは、こうも俺の心をかき乱すの?
きみと、二人でいると。
楽しくて、嬉しくて。何だって面白くて。
いつだって、心が躍って。
何だってできるような気がしてくるほどに。
だけどその分。
はらはら、ずきずきと。
時にはきゅうっと締め付けられるように胸が痛んで。
こんなの、生まれて初めてなんだ。
今までずっと……
誰と一緒にいても、こんなふうに思ったことなんて、なかった。
もっとたくさん、
笑ったり、怒ったり、照れていたり。
もっともっと、たくさん、いろんなきみを見たいなんて、そう思ってしまう俺は………
どこかおかしいのかな………?
なぁ、夕人ーーーーー。
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