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15歳・啓蟄 ー傷跡ー

3.風間の真意 -2-

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「ーー相模くん、着いたよ」

「ーーーー……ん……」



風間の声に、夕人は目を開けた。自宅マンションの玄関前に車は停められていた。




「あの、本当に、ありがとうございました…。いろいろと、すみませんでした」


窓から覗く見慣れた景色に安心して、夕人が身体を起こして助手席から降りようとした時だった。

ーーガシッ

風間が夕人の左腕を掴んで、引き留めていた。


「気にしなくていいよ。
僕は、きみにしてあげられること…当然のことをしたまでだから。
だけどね、一つ約束してくれるかい?」

「……はい、何でしょうか……?」


夕人が風間を見る。




「きみは、決して1人で無理をしないこと。
何かあったときは、すぐ言うんだよ。
これからは、頑張っていこう。約束してくれるかい?」



風間は一見笑顔に見えたが、なぜだろう。その表情からは、言葉の真意が読み取れなかった。


一刻も早くその場を逃れたかった夕人は、風間の目を見て、


「はい……わかりました……。よろしくお願いします……」

と、力無く答えた。



「ーーーーお大事にね。また金曜日、待ってるよ」

風間の手は離された。




夕人がマンションのエントランスに入ると、ちょうど夕人を出迎えるのに降りてきた母に出くわした。

「夕人、おかえりなさい。
あら、風間先生はーーー?」

「あぁ……その、もう、帰ったよ。
連絡、あったんだよね?」

母は“また、ご挨拶の電話入れなきゃね”とだけ言うと、


「“進路の相談を受けていたら遅くなってしまって、自宅の場所が同じ方向だから送らせてもらいます”って。
ありがたいけど…夕人、そういうことは先に言っておいてよ?お母さん、電話いただいて初め何かあったのかとびっくりしちゃったわよ」


「……え…………?」


話が違う。ーーーーどうして?



「あの、母さん……それって………」

「え?……どうかした?」


夕人は母に本当のことを話そうとして、躊躇った。
本当は”熱中症になりかけて倒れてしまった”ことが理由だと、もし今話せばーーー、母の心労を煽るだけだと。これ以上、心配をかけたくなかった。


「ううん……何でもない。その…今日、暑かったからさ、ちょっと疲れちゃって…少し休んでいい?」


夕人は不安を抱えたまま、部屋へと戻った。



一体、風間がどういう意図で、母に嘘をついたのか……夕人にはわからなかった。

ただ、あの時の、帰り際の風間の、まるで、よう仕向ける暗示のような言葉。



これから一体、自分の身にどんなことが降りかかるのか………夕人は考えもしなかった。





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