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15歳・啓蟄 ー傷跡ー

3.油断 -1-

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ーーー…



それは、とても暑い日だった。


テレビで流れる天気予報では、”過去最高の気温上昇の恐れあり”と注意喚起が出され、熱中症予防に努めるようにという声があちらこちらで聞こえていた。

学校が夏休み中の夕人は、夏期講習という名目で、普段夕方以降で通う塾の時間を午後1時から4時の長時間指導枠に変更することになった。


「じゃ、行ってきますーーー」

「ーー夕人、外、暑いわよ。帽子被って行ったら?」

母の心配する声に夕人は、”大丈夫だよ、そんなに外歩くことないから…”と断って、家を出た。


ジリジリと痛いほどに照りつける日差し。

マンションの玄関から最寄り駅までの道のりは徒歩3分もないというのに、アスファルトから照り返してくる熱気にまるで息が詰まるほど、次の一歩が出しづらく……とてつもなく遠い道のりのように感じた。


ーーまるで、砂漠の中を歩いてるみたいだな…

改札口に着き、急いで電車に乗り込む。冷房の効いた電車内で、とりあえず一息つく。

自販機かコンビニで、飲み物買って行こうーー…

この時期は、たとえ室内にいてもこまめな水分補給をしないと命に関わることがある、と教えられてきた。

その時だった。

『ーーーキキィーーッ‼︎ガタンッ…プシューッ…』

「ーー!」
突然の急ブレーキに車内の乗客たちは一瞬体を揺さぶられた。
電車がなぜか、突然停車していた。

『お客様にお知らせ致しますーーー、先程、踏切前の緊急停止ボタンが押されたためーーこの列車は緊急停車致しますーー。
ただいま速やかに安全確認をーーー
しばらくお待ちくださいーーー』


車掌のアナウンスに、車内がざわつく。


「ーー緊急停車だって……大丈夫かなーー?」
「ーーちょっとぉ、待ち合わせ遅れちゃうんだけど~!」
「ーーもしもし?お世話になってます!すみません、ちょっと電車でトラブルがありまして、約束のお時間が……」


車内の全員が、慌てふためいているのがわかった。

夕人は、腕時計に目をやる。


ーーあと授業開始まで、15分……ちょっとヤバいな……


5分ほど停車したところで、再び、アナウンスが流れた。

『大変長らくお待たせ致しましたーー
先ほどの緊急停止について、安全確認が取れましたーーー、
これより発車致しますーー、大変お待たせいたしましたーーー…』


ーー良かったーーー。事故とかじゃなかったんだな。

電車が走り始めて、1駅通過したところで、夕人は急いで出入口ドアから駆け降りた。



駆け足気味に塾へ向かう。改札を抜けて、駅を出た瞬間、ギラギラと照り付ける日差しに夕人の額には一瞬で汗が滲んだ。


『ガチャ!』

「遅れてすみません!」


はぁ、はぁ、と息を切らせた夕人を見て、講師の風間は驚いた様子で、

「どうしたんだい?何かあった?」


「はぁ……いえ、っ、ちょっと電車でトラブルがあって。遅刻しそうだったので、走ってきました…はぁっ…」

ーーーあっ。飲み物、買うの忘れた………。

夕人は一瞬頭をよぎったが、すぐにでも授業を始めようとしている風間の様子に、それ以上は何も言えなかった。


その時点で、夕人の体内からは、かなりと言っていい水分が失われていた。




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