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15歳・啓蟄 ー傷跡ー

3.違和感 -1-

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夕人は首を振った。

ーーそういう卑屈な考えは、もうやめよう。

きっとこれから、少しでも、明るい未来が待っている。

これまでに出来なかったこと、何だって、取り戻すように……

そのための一歩をこれから踏み出すんだ。





夕人はそれから、塾へと通い始めた。

初めは1人で慣れない電車通学も、何度か通う内に駅周辺の景色にも見慣れ不安は払拭されていった。

こんなにも、きらびやかな店、雑踏……何よりも、楽しそうに街ゆく人たちの中ーーー。


自分がに1人でいることが、何より不思議で……少しでも、自立したと思える自分が誇らしかった。

病弱で頼りなく、いつもどこか不安な想いを背に立っていた頃の自分とは違う。

それだけの事でも自信が持てた。
どこか、強くなれたような気がしてーー…嬉しかった。






担当の塾講師の風間は、夕人に、

「僕のことは、“先生”とは呼ばず、“さん”付けで呼んでね」と言い聞かせていた。

果たして塾講師のマニュアルで決まっていたのかどうか定かではないが、マンツーマンという関係性を大切にする指導法の上、少しでも関係性を深めるのが目的だったのかもしれない。


ただでさえ人見知りで、誰か大人の名前をさん付けで呼ぶ機会など今までになかった夕人は、初めは少し戸惑った。


「はい……風間、さん………」

それでも、週2~3回塾へ通い、風間に勉強を教えてもらい、会話をする中で、
少しずつ、打ち解けていった。

「相模くん。
きみ、とても飲み込みが早いから、来週からはこっちのコースに変更しよう。大丈夫、僕に任せて。まだまだきっと伸びるよ」


風間の指導は細かく丁寧で、とてもわかりやすく思えた。

実際に、夕人は塾に通い始めて2週間足らずに行われた模試テストで、とても良い成績を残し、父も母も、『あの塾にして、正解だったね』と絶賛した。




ただ一つ、気になることを除いては。





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