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15歳・啓蟄 ー傷跡ー

3.風間

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受講初日、夕人は母と一緒に塾へ向かい面談を受けた。

個別指導を行うにあたり苦手分野・教科を塾講師と話し合い、授業のカリキュラムを作るためだった。



そして、夕人の担当講師となったのが、風間かざまだった。


「こんにちは、担当講師の風間です。
ーーーー相模くん、よろしく」


黒髪に眼鏡をかけ、痩せ型の30代半ばに見えるどちらかというと地味な印象を受ける風間は、夕人の母と、夕人本人から聞き取りを丁寧に行い、几帳面そうな字でメモを取る。


「相模くんは、理数が少し苦手ということだね、ではこちらのコマは、30分とーー…」


「あの、すみません。この子……持病の喘息で、1年の頃はよく欠席してたので、基礎が抜けてしまってるのかもしれないんです。そのあたり、しっかり指導して頂けると……」


風間は“喘息”の言葉に、視線を上げ目を開くと、ペンを書く手を止める。


「そうですか……喘息、つらいですよね。
ーー相模くん、僕も、子供の頃は喘息持ちだったんだよ。あれって、すごく苦しいよね。
あぁ、いや、そんなきみみたいにしょっちゅう入院するほどでは無かったけどーー…。
だけど、喘息は持病の中でも大人になってかなり良くなることが多いんだ…だから、きっと相模くんも大丈夫だよ。
………一緒に頑張って行こうね」


そう言って、風間は目の前に座る夕人の手を握った。

「あ……はい、…ありがとうございます」


突然手を握られて少し違和感を感じたが、初対面にも関わらず同じように持病で苦しんでいたという自らの過去を話し、こんなにも、親身になって励ましてくれるなんてーー…

きっと信頼できる講師なのだろうと、安心をしていた。



だけど、どこか。
その時はわからなかったが、風間の話した口ぶり、言葉の端に、何か違和感を感じたのを覚えている。



ーーーということを、彼に話しただろうか………?







帰りの電車の中。 


「あの先生なら大丈夫ね、真面目そうな先生でよかったわ…最近、塾の講師って、こう、派手でチャラチャラした、面白さで売ってる、みたいな人が多いイメージだったから」

母もそう言って安心していた。

「うん…」




「ーーねぇ、見て、あそこの男の子…中学生?すっごい綺麗な顔…」
「うわ、ほんと…。モデルとか、もしかして芸能人かな?」

近くに座った女子大生二人組が、夕人を指さしてヒソヒソと話す。


「…………」

夕人も母も、聞こえないふりをするが、その声を聞いた他の乗客たちも、夕人へと視線を向ける。


「ーーイケメン…というか、美少年?羨ましいよね、あんな綺麗な顔だったら人生楽しいだろうなぁ~」
「ーーだよね~、絶対モテモテだよ、男からも女からも!」



ーーー聞こえてるんだよ。
この顔で、人生楽しいと思ったことなんか一度もねぇし。


夕人は俯いて耐えた。

侮辱されてるわけではないのに、悔しさと、恥ずかしさで、早く電車から降りたくて仕方なかった。

顔が整っているというだけで…何がそんなに羨ましいんだって言うんだ。

普通に……健康な体で、人並みの生活を送れるってことが、どれだけ幸せなことか…




そういうの、わかってないんだろうな……。




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