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15歳・啓蟄 ー傷跡ー
2.記憶
しおりを挟む「ーーーうぅ…っ!!」
夕人は口を押さえて、しゃがみ込んだ。
「夕人⁉︎」
顔を真っ青にして、息を切らせる。
苦しそうに胸を押さえたまま立ち上がると、はぁはぁと切れ切れの呼吸で壁に手を伝いふらふらとホームの隅へ移動しようとする。
「夕人っ‼︎」
異様な様子の夕人をすぐさま速生は追いかけた。
「おいっ!ど、どうしたんだよ⁉︎
気分悪いのか?なぁっ!夕人!大丈夫か⁉︎」
「はぁ……はぁ……はぁ……っ…つぅ…っ」
返事もなくただただ苦しそうに息を吐くその姿に、どうしていいのかわからず混乱する速生。
だけど、この夕人の姿を見るのは初めてでは無いーー…瞬時にそう気付く。
小刻みに震える体、荒れた呼吸、青ざめた顔。
あの時、初めて会ったあの雪の日と、全く同じだーーーー。
「ごめん……っ、俺、やっぱり無理だ……」
堪えていた涙が、一気に溢れる。
なんとか、耐えようと思ったのに。
速生と一緒ならーー、きっと大丈夫だと。
「な、なにが無理なんだよ?やっぱりその…行きたくないのを無理して……?」
「ちが……違うんだ……はぁっ、
……俺…電車は……
駅の、ホームが……はぁっ」
「落ち着けよ、大丈夫だから…!
なぁ、ちょっと…こっち、とりあえず移動しよう。
歩けるか?」
夕人は頷いた。
速生は周りを見渡して、1番近くにあったベンチへと夕人の肩を担いで移動させた。
ズボンのポケットからハンカチを取りだして、夕人に渡す。
「はぁ……っはぁ…っ…ごめん、
……はや…み…」
ベンチに前屈みに座り込む夕人を、地面に膝をつき心配そうに下から見つめる。
「苦しいんだろ?無理して喋らなくていいから…
これって、またあの時みたいな……もしかして喘息の発作か?
とりあえず、病院……」
その言葉に、夕人は首を横に振った。
「違う……違うんだ………っ。
これは、喘息じゃない……苦しさが全く違う…から……」
「え….じゃあ、何のーーーー」
細く冷ややかな息を吐き、黙ったまま速生の顔を見る。
(夕人……………?)
涙で潤んだ瞳に、青白い顔。
言葉では言い表せられないその表情は、ただ、
“助けて”
と叫んでいるように見えた。
「なぁ………何があったんだよ?
夕人、話して?
俺にできることがあるなら……何だってするから、だからさ….」
きっと、何か…とてつもなく大きな何かを、夕人は心の中に抱えている。
そう感じた。
「速生…………俺……ーーーー」
真剣な表情でただまっすぐに、自分を見つめるその眼差し。
そこに、下心や偽善といった禍々しいものは一切感じない。
ーーただ知りたい、教えてほしい……
とにかく、
夕人のことが心配なんだ。
そう強く聞こえる。
「………………」
その速生の様子を目にした夕人は、決心をした。
あの日の、あの事件のことをすべて。
包み隠さず話そうとーーーーー。
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