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15歳・啓蟄 ー傷跡ー

1.ペアはきみと

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ーーー…


卒業式を間近に控えた、3年生の生徒たち。


仲の良いクラスメイト同士で日帰り旅行に行く者もいれば、お揃いのものを買いに出かけたり、写真を撮りに行ったりーーなどと、残りわずかな中学生活の思い出作りを、各々で楽しんでいた。


「ーー……卒業祝いのパーティ?」

下校する二人。夕人は上履きから靴に履き替えながら、速生に聞き返した。

「そう、俺のクラスのやつで、レストラン経営してるオーナーのお父さんが、卒業祝いってことで貸切パーティ開くらしいんだ。
それで、仲の良いやつたくさん、呼べって言われてるみたいで…」

「へぇ……いいじゃん、楽しんでこいよ。」

夕人はそっけなく返事をして、家路をスタスタと歩く。案の定、全く興味を示さない。

「いや…だから、それにさ…夕人も一緒に行かねえかなーって!」

「………ええ?
いや、俺、まずそいつと面識ないんだけど。行ったところで気まずいだけじゃん」

夕人の言葉に、速生はとにかくどうにか説得しようと顔を覗き込む。


「なぁー!いいじゃん、行こうぜー!
タダだぞ⁉︎フランス料理だったかイタリア料理だったか忘れたけど……。
パーティって…なんか、すっげーご馳走とか出るんだって、絶対!な~~お願いだから!」


ーーフレンチとイタリアン、全然違うけどな。


夕人はそう思いつつ、なぜ速生はこんなに自分をしつこく誘うのか謎だった。


「ーーなんでそんな、俺にこだわるわけ?
俺とご飯食べに行っても、はっきり言って楽しくないと思うよ。自分で言うのもなんだけど」

無愛想で、気遣いもさしてする気もない、食べることにそんなに楽しみを見出しているわけでもない…そんな自分と食事に行きたいなんて。

そんなやつ、いるとは思えない。


「だってさぁ……実は、ペアで来いって。」

「ペア?」

「おう。仲良いやつ連れて、ペアで来るってのが参加条件。彼女でも、友達でも、最悪、親でもいいらしいけどさ。」

人数合わせの関係か…?はたまた店の宣伝効果か。
確かに貸切ということなら、人数が多い方が主催側もなにかしら得があるのかもしれない。
 

ーー仲の良いやつなら、他に、伊勢くんでも誘えよ?…と言いかけて、夕人は立ち止まって速生の顔を見た。

「…………な?俺、夕人と行きたいんだよ。
俺の仲の良いやつって言ったらーー…夕人じゃん……」

いつも、自分の考えを押し通し折れることなどまず無い夕人に合わせてくれる速生が、今日はかなり強情だった。
とても拗ねた瞳で、口を尖らせたまま、その場を動かない。


夕人はため息をついて、“仕方ないなぁ”と呟いた。


「わかったよ。行くよ。
ーーーけどさ、俺、そんな気遣いとか、テーブルマナーとかも全然だし。ほんっと、楽しくないと思うけど、いい?」

その言葉に速生は、一瞬でパァッと明るい表情で頷く。


「おう!そんなの俺だって知らねーから大丈夫!
よっしゃー!じゃ、行くって返事しとくな!
………夕人、」

「なに?」

「……へへ、いや、やっぱ何でもない。よし!じゃあ走って帰るぞ!」


「は?意味わかんねぇ…
俺歩いて帰るから1人で走れば?」


相変わらず~とニヤニヤしながら速生は、駆け足の真似をしながら、夕人の前を早歩きした。




道路沿いに均等に植えられた桜の木は、ちら、ほら、と蕾が桃色に色づき始めていた。


夕人は上を見上げる。


「春……かーーーーー」




やっと、寒い冬が終わって…暖かい季節が近づいてきた。


だけど、暖かい春が近づくに連れ、気温の上昇に合わせ身体は、思い出そうとしていた。




とてつもなく暑い時期に起こった、あの、忌々しい出来事をーーーー。



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