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I◆15歳・小寒 ー出会いー

3.病弱な少年と絵描きの夢 -1-

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ーーガチャ…

「ごめん、ほんと大したもの見つからなくて…カモミールティー飲める?……って、おい!ちょっと、何勝手に見てんだよ!」


手に持ったティーカップを慌てて下に置くと夕人は速生の手からスケッチブックを奪い取った。


「ーーー絵、上手なんだな」

「………べ、別に、下手だし。こんなの、落書きレベルだろ」

夕人は顔を真っ赤にして目を逸らす。


「いや、すげえよ。ほんと、感動した…、
けどさ、なんで、このスケッチブック、ほとんど同じ絵が多いのかなって。
風景画とか、それだけ上手ならさ……もっといろんなの描けそうなのに」

まさか自分のプライベートの物を断りもなく見られているとは思わず…恥ずかしさのあまり夕人は速生の顔を見られなかったが、ただ黙って返事を待つその様子に観念したように、静かに答え始めた。


「………それ、全部、病院で描いたものだから。」

「え、病院…?」


不思議そうにする速生を横目に、続ける。


「俺、子供の時から体弱くて。“喘息ぜんそく”ってわかる?ここ、喉のとこ…気管支が狭くなって息が苦しくなるんだ。原因はいろいろあるらしいんだけど。
それで、しょっちゅう入院してたから。
入院中暇でさ……絵描くくらいしか、やることなくて」

「………」


「で、病室の窓から見える景色ばっか描いてたから。年何回も入院するもんだからーー、もう常連だよな。
毎回同じ景色でさ、いいかげん飽きてきたら、お見舞いでもらった花とか、コップとか、身の回りのものの絵、色々描いてた」


「そう、だったのか。大変だったんだな…」


「いや、言っとくけど中学上がってからはほとんど入院してないからな?
喘息だって、そんなに発作も出なくなったし、だから、別に……そんな哀れな目で見んなよ」


速生は、別に憐れんでるわけじゃ…と言おうと思ったが、夕人からしてみればきっと同じだ。


きっとこれまでに、何度も、こんな風に周りから同情されたり心配されて、望んでいない贔屓や、差別を受けてきたのかもしれない……そう思った。



「でもさ……じゃあ、さっき……。
あの時、バス停で苦しそうになってたのは…?
あれは大丈夫だったのかよ?」



速生の言葉に、はっとした。


確かに、あの時の自分の体調はおかしかったーー。

ただ、あの不調は、喘息の発作の苦しさとは明らかに違っていたのもわかる。




ここ数ヶ月前から、たまに起こっていたこの息苦しさ、胸の動悸や、パニック症状。それが起こり始めたのは、


ーーーあの事件の後からだ………。



「うん、まあ……。その、さっきはほんと助かったよ。
ーーあのさ、これ、飲める?母さんのよく飲んでるやつしか見つからなかったんだけど。ちょっとは温まるかなって……」


夕人は話を逸らして、ティーカップを速生に手渡した。

まだ温かいそのカップの中には、檸檬色に浮かんだカモミールの茶葉、ほのかに蜂蜜の香りがした。


「ーーなんでも飲むよ、せっかく夕人が淹れてくれんだから。ありがとう」

そう優しく笑って、速生はティーカップに口をつけた。




すると一階から、声が聞こえた。



「夕人ぉーー、速生くんーー!
お昼の準備できたわよ、2人ともーーーー!」



「そっか、忘れてた……うどん、だっけ?」
夕人が速生の顔を見る。

「そう……香川のばあちゃんのおかげでさ、年末からずぅ~~っと昼飯うどんだぜ?
もう正直うどん見たくねぇわ……
夕人!是非とも我が家のうどん消費にご協力を」


そう言ってやれやれ、と立ち上がった速生の後を、夕人はくすくすと笑いながら、2人は階段を降りて行ったーーー。








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