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犠牲~終わりの始まり~
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「なっ何だお前たちは……ぎゃああ!!!」
「たっ助けてくれ!!!」
パーティー会場に乱入してきた白いローブを着た男たちによって、場は一気に混沌と化した。
あの白いローブは……カルマ教団!?
「フルトンさん……あなたは一体何を!?」
「先程も言ったでしょう? これは正義の鉄槌なのですよ? カルマ教団からこの国の真実を知った私は、あなたたちからこの国を開放するために立ち上がったのですよ!」
もうさっきからフルトンさんが何を言ってるのか全く理解できない。
カルマ教団からこの国の真実を聞いた?
真実って何? お母様が昨日私に話してくれたことが真実じゃなかったの!?
「何だこの騒ぎは!? おい、何者だ貴様らは!?」
その時、外でトラブルがあったと連絡があり席を外していたマイヤがパーティー会場に戻ってきて、白いローブの男たちによって繰り広げられる凄惨な現場を目の当たりにして叫んだ。
「マイヤ! フルトンさんが……!」
「エナ? フルトン……!?」
「これはこれはマイヤ殿! 表に出たという盗賊の討伐は終わったのですかな?」
「盗賊などいなかった! ……まさかあなたが流したデマか!?」
マイヤがフルトンさんを鋭く睨みつけながら、腰の剣を引き抜いた。
「あなたをうまく分断出来たおかげで、この状況を作り出すことが出来ましたよ……ここはお礼を言っておきます」
「貴様……!」
フルトンさんに向けて真っすぐに駆け出したマイヤを、白いローブを着た男たちが立ちふさがった。
「邪魔だっ!!」
「その調子です、そのダークエルフをこちらに近づけてはいけませんぞ」
いくらマイヤと言えど、あれだけの数の敵に囲まれたら簡単には突破できない。
足止めされるマイヤに一瞥をくれたフルトンさんが、再び倒れている父とその傍らにいる母を見降ろす。
「さて……では手早くことを済ませるとしましょう」
「フルトンさん……あなたはカルマ教団から何を言われたのですか?」
気丈にもフルトンさんを睨みつけながら、母があくまでも冷静に尋ねた。
「先程も言ったでしょう? この国に邪神の力の一端を封じた石があることを……」
「そこではありません……あなたは教団に何を言われたのですか?」
「……この国の王族の考え方はもう古い……もしもそこに少しでも不安を感じているのなら、あなたこそが王に成り代わるべきだと……ね」
「そう……」
その言葉を聞いた母が、とても悲しそうに顔を伏せた。
父と母のフルトンさんへの信頼はとても厚かった。
それをこうした形で裏切られたのだ……母の心境はさぞ複雑であるはずだ。
「それがあなたの隠していた本心なのですね?」
そう言って立ち上がった母が光に包まれ、いつか見た天使のような姿へ変貌した。
その姿はとても神々しく、こんな時であってもその美しさに目を奪われる。
「とっ……とうとう正体を現したな、この化け物め!!!」
「黙りなさい」
母がフルトンさんに右手を向けると、そこから魔法による衝撃が発生し、フルトンさんが後方に大きく吹き飛ばされ壁に激突し口から血を吐き出した。
「ぐふっ!?」
「フルトン様!?」
吹き飛んだフルトンさんに一瞬とはいえ気を取られた白いローブの男たちは、マイヤを攻める手を緩めてしまった。
「はああ!!!」
「なにっ!? ぐああああ!?」
「しまっ……ぎゃああああ!!!」
その一瞬の隙をついたマイヤが、取り囲んでいた白いローブの男たちを一瞬で斬り伏せて、私たちの元へと駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか、女王様?」
「私は大丈夫です……それよりもあなたは王とエナを安全な場所に避難させて下さい」
「しかし……!」
「命令です! ……私なら大丈夫ですから」
なおも食い下がろうとしたマイヤだったが、母の気迫に押されて根負けしたらしく、倒れている父を担ぎ上げる。
「行くぞエナ」
「でもお母様が……!」
「いいから!」
「逃げられると思っているのか!!」
フルトンさんの合図を受けた白いローブの男たちが、私たちの元に向けて一斉に突撃してくる。
「絶対に逃がします!」
その瞬間、母の身体から光があふれだし、その光が突撃してきた白いローブの男たちを吹き飛ばした。
凄い……いつも大人しく優しい母がこんなにも強かったなんて……!
「さあ早く!」
「はい! 行くぞエナ!!」
「行かせませんよ」
私の手を取り走りだそうしたマイヤの前に現れたのは、私がよく知るあの人物だった。
「ロイ!」
「お前、なんのつもりだ!?」
「フルトンさんは僕に「エナ王女の相手を任せる」と言いました。だからエナさんに逃げられるのは困るんです」
目の光を失い焦点のあってない瞳をしながら、まるで操り人形のようにロイがそう言った。
「こいつまさか、洗脳魔法で操られているのか?」
「そんな……ロイ、お願い目を覚まして!!」
「いいぞロイ! そのままその三人を抑えておけ!」
「はい」
ロイの生気のない瞳が、私たち三人を睨みつける。
まさかロイまでがこんな……!
「仕方ない、邪魔するのであれば斬り捨てるしかない」
「待ってマイヤ! お願いロイを傷つけないで!!」
「そんなことを言っている場合じゃないだろう!? 早く王の手当をしないと間に合わなくなるんだぞ!」
「そっそれは……!」
マイヤがロイを強引に突破できないと踏んだフルトンさんが、三度母を睨みつける。
「さて……これで邪魔者は入りませんな?」
「……いくらあなたが何を企んでいようと、今の私を殺すことはできないはずです」
「確かにその通りですな……ですが何の勝算もなく私がこうして行動を起こしていると本気で思っているのですかな?」
そう言ってにやりと笑ったフルトンさんが、懐から何やら小さな真っ黒な石を取り出した。
何だろう、あの石どこかで見たことがあるような……?
「それは……まさか!?」
「あなたが思っている通りの物ですよ? 天使である女王様に対抗するために教団が私にくれた物です!」
「だけどそれを使うためには【器】となる存在が必要なはず……もしかして!?」
驚愕の表情で、母が私たちと対峙しているロイに振り返った。
「ロイがこの国に流れ着いて私の元で保護した時から、いつかこうなる運命だったのかもしれませんなあ」
「止めなさい! そんなことしたらこの国だけでなくあなたも!!」
「私は死にませんよぉ!? 私のことは邪神カルマ様の意志が守ってくれますからねぇ!!!!」
何かの衝動に身を任せるように、フルトンさんが手にした小さな黒い石を床に叩きつけてると、破裂音と共にその石は砕け散った。
「うっ……うあああああぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ロイ……!?」
石が砕け散った瞬間、ロイが突然苦しみだしたかと思うと、足元から黒い邪悪な感じのするオーラみたいなものが噴き出てきて、ロイの中へと吸い込まれていく。
なんなの……さっきから一体何が起こっているの!?
「さあロイよ! 封印されていた記憶を解き放ち、自分に課せられた使命を思い出せ!!!」
「しめい……ぼくの……しめい?」
「ロイ! しっかりしてロイ!!」
この謎の黒い邪悪なオーラには心当たりがあった。
間違いなくこの城の地下のあの部屋にある黒い石から出てきている物だ!
「……そうか……僕は……器だった」
「どうやら思い出せたようだな」
「いけない! 三人とも私の傍に!!」
母がそう叫ぶのと、ロイの身体がから先ほどの黒いオーラが噴き出るのはほぼ同時だった。
「くっ!!」
黒いオーラが私たちの眼前に迫ったその時、突如目の間に現れた母が私たちを光の結界で包んだ。
「お母様!?」
「せめてあなたたちだけでも……!」
そう言って私たちに向けてほほ笑んだ母を、黒いオーラが包み込んでいく。
ここで一度私の意識は途切れることになった。
「サリア様!!」
誰かが必死な様子で母を呼ぶ声で意識が急速に戻っていく。
目を開けて視線だけで周囲を見回すと、会場はあちこちがボロボロになっており、そこかしこにこの国の要人たちや白いローブを着た男たちが横たわっていた。
「しっかりしてください! サリア様!!」
跳び起きた私が声のした方に顔を向けると、身体の部分部分が黒く変色した母が倒れており、その傍らにいたマイヤが必死な声で呼びかけている光景があった。
「おかあ……さま……?」
立ち上がった私は、おぼつかない足取りで母の元へと歩いて行く。
「エナ……よかった……無事だったのね」
「お母様……そんな……」
「マイヤ、王は……?」
母のその言葉に、マイヤは悲痛な表情で首を小さく左右に振った。
さっきは気が付かなったが、私の寝ていたすぐ隣に父が倒れていたみたいだった。
マイヤの首を振るアクションを見た私は、嫌な予感が心臓を激しく打ち付ける中、恐る恐る父の倒れている場所を振り返る。
そこにはもう呼吸すらしておらずピクリとも動かなくなっていた父が横たわっていた。
「そんな……お父様……」
あまりの突然の事態に、声も涙も出てこない。
「マイヤ……私を王の元に……」
「……はい」
母に肩を貸す形で立ち上がらせたマイヤが、その足でゆっくりと父の元へと歩いて行く。
そして父の元までたどり着くと、マイヤがそっと母を父の傍に横たわらせた。
「あなた……ごめんなさい……力を持っていながらあなたを……この国を……何も守れなかった……」
「サリア様……」
「お別れの挨拶すら言えなかったわね……でも多分私もすぐに……そっちにいく……から……」
「サリア様、諦めてはいけません! きっとまだ治療すれば間に合います!!」
そんなマイヤの言葉に、母は目を伏せて小さく首を横に振ることで応えた。
「自分の身体のことは自分が一番わかっているわ……私はもう助からない」
「そんな……諦めては……」
「エナ……こっちへ来て?」
「お母様……」
絞り出すような声で呼ばれて、私は父と共に倒れる母の傍らに、まるでへたり込むように座り込んだ。
母の顔からは完全に血の気が失せてしまっていた。
「良かった……最後の最後にあなたを守ることが出来て……本当に良かった……」
「やだ……お母様……死んじゃやだぁ……」
母の力ない笑顔を見た私の瞳から、とめどなく涙があふれてきた。
「最後に謝らせて……全てをあなたに背負わせてしまって……ごめんなさい……」
「謝らないで……謝らないでよぉ……!」
「あなたは何としても生き抜いて……そしてこのことを……シオンせんせ……うぐっ!?」
「サリア様!!」
言葉を最後まで言い切ることが出来ず、母が突然苦しみだした。
「エナ……いつまでもあなたを……愛している……」
最後にいつものようなあの慈愛に満ちた笑顔で私に微笑みかけた母は、静かに目を閉じて決して覚めることのない永遠の眠りへとついた。
「おかあ……さま……嘘だよね……?」
最後の最後まで、母は笑顔を絶やさず逝ってしまった。
どうして……どうしてこんなことになったの?
今日は私の誕生日じゃなかったの?
これが神様からの誕生日プレゼントなの?
夢だった方がまだましだと言えるような、こんな残酷な現実が私への贈り物なの!?
いらない……こんな現実なんていらない!!
「エナ……行くぞ」
「……いや……ここでお父様とお母様の傍にいる」
「サリア様は最後にお前に何と言った? 生き抜いてと言ったんだぞ?」
「逃げるなら、マイヤ一人で逃げればいいじゃない……」
「馬鹿やろう!!!!」
怒号と共に、マイヤが私の横っ面を張り倒した。
恐らく痛みがあったはずなのに、なぜだかちっとも痛いと感じなかった。
殴られた勢いで地面に倒れた私の胸倉をつかみ、マイヤが私を無理やり起こした。
「アタシはお前の守護騎士だ! 王も女王も亡き今、お前だけは絶対に死なせるわけにはいかないんだ!!!」
「私だって……私だって大好きだった二人がいきなりいなくなって、どうしたらいいのよ!? 二人の笑顔を見られない世の中なんて生きていけない! それに二人だけじゃない……お城も……ロイも……!」
「だからって、お前までが死んでしまったら意味がないだろう!? 何のために女王が身を挺してお前を守ったかわからないのか!?」
10秒ほど睨み合った私たちだったが、大きく息を吐きだしたマイヤが突然私を担ぎ上げた。
「マイヤ!?」
「あいつらがどこの行ったのかわからないが、ここにいては危険だ……安全な場所に避難するぞ」
「嫌よ!! 私ここを絶対に離れないんだから!!」
そう言って泣き叫ぶ私を無視して、マイヤは私を担いだまま走り出した。
「たっ助けてくれ!!!」
パーティー会場に乱入してきた白いローブを着た男たちによって、場は一気に混沌と化した。
あの白いローブは……カルマ教団!?
「フルトンさん……あなたは一体何を!?」
「先程も言ったでしょう? これは正義の鉄槌なのですよ? カルマ教団からこの国の真実を知った私は、あなたたちからこの国を開放するために立ち上がったのですよ!」
もうさっきからフルトンさんが何を言ってるのか全く理解できない。
カルマ教団からこの国の真実を聞いた?
真実って何? お母様が昨日私に話してくれたことが真実じゃなかったの!?
「何だこの騒ぎは!? おい、何者だ貴様らは!?」
その時、外でトラブルがあったと連絡があり席を外していたマイヤがパーティー会場に戻ってきて、白いローブの男たちによって繰り広げられる凄惨な現場を目の当たりにして叫んだ。
「マイヤ! フルトンさんが……!」
「エナ? フルトン……!?」
「これはこれはマイヤ殿! 表に出たという盗賊の討伐は終わったのですかな?」
「盗賊などいなかった! ……まさかあなたが流したデマか!?」
マイヤがフルトンさんを鋭く睨みつけながら、腰の剣を引き抜いた。
「あなたをうまく分断出来たおかげで、この状況を作り出すことが出来ましたよ……ここはお礼を言っておきます」
「貴様……!」
フルトンさんに向けて真っすぐに駆け出したマイヤを、白いローブを着た男たちが立ちふさがった。
「邪魔だっ!!」
「その調子です、そのダークエルフをこちらに近づけてはいけませんぞ」
いくらマイヤと言えど、あれだけの数の敵に囲まれたら簡単には突破できない。
足止めされるマイヤに一瞥をくれたフルトンさんが、再び倒れている父とその傍らにいる母を見降ろす。
「さて……では手早くことを済ませるとしましょう」
「フルトンさん……あなたはカルマ教団から何を言われたのですか?」
気丈にもフルトンさんを睨みつけながら、母があくまでも冷静に尋ねた。
「先程も言ったでしょう? この国に邪神の力の一端を封じた石があることを……」
「そこではありません……あなたは教団に何を言われたのですか?」
「……この国の王族の考え方はもう古い……もしもそこに少しでも不安を感じているのなら、あなたこそが王に成り代わるべきだと……ね」
「そう……」
その言葉を聞いた母が、とても悲しそうに顔を伏せた。
父と母のフルトンさんへの信頼はとても厚かった。
それをこうした形で裏切られたのだ……母の心境はさぞ複雑であるはずだ。
「それがあなたの隠していた本心なのですね?」
そう言って立ち上がった母が光に包まれ、いつか見た天使のような姿へ変貌した。
その姿はとても神々しく、こんな時であってもその美しさに目を奪われる。
「とっ……とうとう正体を現したな、この化け物め!!!」
「黙りなさい」
母がフルトンさんに右手を向けると、そこから魔法による衝撃が発生し、フルトンさんが後方に大きく吹き飛ばされ壁に激突し口から血を吐き出した。
「ぐふっ!?」
「フルトン様!?」
吹き飛んだフルトンさんに一瞬とはいえ気を取られた白いローブの男たちは、マイヤを攻める手を緩めてしまった。
「はああ!!!」
「なにっ!? ぐああああ!?」
「しまっ……ぎゃああああ!!!」
その一瞬の隙をついたマイヤが、取り囲んでいた白いローブの男たちを一瞬で斬り伏せて、私たちの元へと駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか、女王様?」
「私は大丈夫です……それよりもあなたは王とエナを安全な場所に避難させて下さい」
「しかし……!」
「命令です! ……私なら大丈夫ですから」
なおも食い下がろうとしたマイヤだったが、母の気迫に押されて根負けしたらしく、倒れている父を担ぎ上げる。
「行くぞエナ」
「でもお母様が……!」
「いいから!」
「逃げられると思っているのか!!」
フルトンさんの合図を受けた白いローブの男たちが、私たちの元に向けて一斉に突撃してくる。
「絶対に逃がします!」
その瞬間、母の身体から光があふれだし、その光が突撃してきた白いローブの男たちを吹き飛ばした。
凄い……いつも大人しく優しい母がこんなにも強かったなんて……!
「さあ早く!」
「はい! 行くぞエナ!!」
「行かせませんよ」
私の手を取り走りだそうしたマイヤの前に現れたのは、私がよく知るあの人物だった。
「ロイ!」
「お前、なんのつもりだ!?」
「フルトンさんは僕に「エナ王女の相手を任せる」と言いました。だからエナさんに逃げられるのは困るんです」
目の光を失い焦点のあってない瞳をしながら、まるで操り人形のようにロイがそう言った。
「こいつまさか、洗脳魔法で操られているのか?」
「そんな……ロイ、お願い目を覚まして!!」
「いいぞロイ! そのままその三人を抑えておけ!」
「はい」
ロイの生気のない瞳が、私たち三人を睨みつける。
まさかロイまでがこんな……!
「仕方ない、邪魔するのであれば斬り捨てるしかない」
「待ってマイヤ! お願いロイを傷つけないで!!」
「そんなことを言っている場合じゃないだろう!? 早く王の手当をしないと間に合わなくなるんだぞ!」
「そっそれは……!」
マイヤがロイを強引に突破できないと踏んだフルトンさんが、三度母を睨みつける。
「さて……これで邪魔者は入りませんな?」
「……いくらあなたが何を企んでいようと、今の私を殺すことはできないはずです」
「確かにその通りですな……ですが何の勝算もなく私がこうして行動を起こしていると本気で思っているのですかな?」
そう言ってにやりと笑ったフルトンさんが、懐から何やら小さな真っ黒な石を取り出した。
何だろう、あの石どこかで見たことがあるような……?
「それは……まさか!?」
「あなたが思っている通りの物ですよ? 天使である女王様に対抗するために教団が私にくれた物です!」
「だけどそれを使うためには【器】となる存在が必要なはず……もしかして!?」
驚愕の表情で、母が私たちと対峙しているロイに振り返った。
「ロイがこの国に流れ着いて私の元で保護した時から、いつかこうなる運命だったのかもしれませんなあ」
「止めなさい! そんなことしたらこの国だけでなくあなたも!!」
「私は死にませんよぉ!? 私のことは邪神カルマ様の意志が守ってくれますからねぇ!!!!」
何かの衝動に身を任せるように、フルトンさんが手にした小さな黒い石を床に叩きつけてると、破裂音と共にその石は砕け散った。
「うっ……うあああああぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ロイ……!?」
石が砕け散った瞬間、ロイが突然苦しみだしたかと思うと、足元から黒い邪悪な感じのするオーラみたいなものが噴き出てきて、ロイの中へと吸い込まれていく。
なんなの……さっきから一体何が起こっているの!?
「さあロイよ! 封印されていた記憶を解き放ち、自分に課せられた使命を思い出せ!!!」
「しめい……ぼくの……しめい?」
「ロイ! しっかりしてロイ!!」
この謎の黒い邪悪なオーラには心当たりがあった。
間違いなくこの城の地下のあの部屋にある黒い石から出てきている物だ!
「……そうか……僕は……器だった」
「どうやら思い出せたようだな」
「いけない! 三人とも私の傍に!!」
母がそう叫ぶのと、ロイの身体がから先ほどの黒いオーラが噴き出るのはほぼ同時だった。
「くっ!!」
黒いオーラが私たちの眼前に迫ったその時、突如目の間に現れた母が私たちを光の結界で包んだ。
「お母様!?」
「せめてあなたたちだけでも……!」
そう言って私たちに向けてほほ笑んだ母を、黒いオーラが包み込んでいく。
ここで一度私の意識は途切れることになった。
「サリア様!!」
誰かが必死な様子で母を呼ぶ声で意識が急速に戻っていく。
目を開けて視線だけで周囲を見回すと、会場はあちこちがボロボロになっており、そこかしこにこの国の要人たちや白いローブを着た男たちが横たわっていた。
「しっかりしてください! サリア様!!」
跳び起きた私が声のした方に顔を向けると、身体の部分部分が黒く変色した母が倒れており、その傍らにいたマイヤが必死な声で呼びかけている光景があった。
「おかあ……さま……?」
立ち上がった私は、おぼつかない足取りで母の元へと歩いて行く。
「エナ……よかった……無事だったのね」
「お母様……そんな……」
「マイヤ、王は……?」
母のその言葉に、マイヤは悲痛な表情で首を小さく左右に振った。
さっきは気が付かなったが、私の寝ていたすぐ隣に父が倒れていたみたいだった。
マイヤの首を振るアクションを見た私は、嫌な予感が心臓を激しく打ち付ける中、恐る恐る父の倒れている場所を振り返る。
そこにはもう呼吸すらしておらずピクリとも動かなくなっていた父が横たわっていた。
「そんな……お父様……」
あまりの突然の事態に、声も涙も出てこない。
「マイヤ……私を王の元に……」
「……はい」
母に肩を貸す形で立ち上がらせたマイヤが、その足でゆっくりと父の元へと歩いて行く。
そして父の元までたどり着くと、マイヤがそっと母を父の傍に横たわらせた。
「あなた……ごめんなさい……力を持っていながらあなたを……この国を……何も守れなかった……」
「サリア様……」
「お別れの挨拶すら言えなかったわね……でも多分私もすぐに……そっちにいく……から……」
「サリア様、諦めてはいけません! きっとまだ治療すれば間に合います!!」
そんなマイヤの言葉に、母は目を伏せて小さく首を横に振ることで応えた。
「自分の身体のことは自分が一番わかっているわ……私はもう助からない」
「そんな……諦めては……」
「エナ……こっちへ来て?」
「お母様……」
絞り出すような声で呼ばれて、私は父と共に倒れる母の傍らに、まるでへたり込むように座り込んだ。
母の顔からは完全に血の気が失せてしまっていた。
「良かった……最後の最後にあなたを守ることが出来て……本当に良かった……」
「やだ……お母様……死んじゃやだぁ……」
母の力ない笑顔を見た私の瞳から、とめどなく涙があふれてきた。
「最後に謝らせて……全てをあなたに背負わせてしまって……ごめんなさい……」
「謝らないで……謝らないでよぉ……!」
「あなたは何としても生き抜いて……そしてこのことを……シオンせんせ……うぐっ!?」
「サリア様!!」
言葉を最後まで言い切ることが出来ず、母が突然苦しみだした。
「エナ……いつまでもあなたを……愛している……」
最後にいつものようなあの慈愛に満ちた笑顔で私に微笑みかけた母は、静かに目を閉じて決して覚めることのない永遠の眠りへとついた。
「おかあ……さま……嘘だよね……?」
最後の最後まで、母は笑顔を絶やさず逝ってしまった。
どうして……どうしてこんなことになったの?
今日は私の誕生日じゃなかったの?
これが神様からの誕生日プレゼントなの?
夢だった方がまだましだと言えるような、こんな残酷な現実が私への贈り物なの!?
いらない……こんな現実なんていらない!!
「エナ……行くぞ」
「……いや……ここでお父様とお母様の傍にいる」
「サリア様は最後にお前に何と言った? 生き抜いてと言ったんだぞ?」
「逃げるなら、マイヤ一人で逃げればいいじゃない……」
「馬鹿やろう!!!!」
怒号と共に、マイヤが私の横っ面を張り倒した。
恐らく痛みがあったはずなのに、なぜだかちっとも痛いと感じなかった。
殴られた勢いで地面に倒れた私の胸倉をつかみ、マイヤが私を無理やり起こした。
「アタシはお前の守護騎士だ! 王も女王も亡き今、お前だけは絶対に死なせるわけにはいかないんだ!!!」
「私だって……私だって大好きだった二人がいきなりいなくなって、どうしたらいいのよ!? 二人の笑顔を見られない世の中なんて生きていけない! それに二人だけじゃない……お城も……ロイも……!」
「だからって、お前までが死んでしまったら意味がないだろう!? 何のために女王が身を挺してお前を守ったかわからないのか!?」
10秒ほど睨み合った私たちだったが、大きく息を吐きだしたマイヤが突然私を担ぎ上げた。
「マイヤ!?」
「あいつらがどこの行ったのかわからないが、ここにいては危険だ……安全な場所に避難するぞ」
「嫌よ!! 私ここを絶対に離れないんだから!!」
そう言って泣き叫ぶ私を無視して、マイヤは私を担いだまま走り出した。
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楽しく読んでます!
更新を楽しみに待ってます。
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楽しく読んでます!応援してます!