無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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山神~荒らされた雪山~

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 ルカさんと一旦別れた俺たちは、雪山へ向けて大急ぎで急行していく。
 早まったことをしてなければいいと思っていたのに、まさかの手遅れとは恐れ入った。

「エナお姉ちゃん大丈夫かな?」
「神獣と真っ向から戦って無事で済むとはとても思えませんが……」

 しかし朱雀の話だと、エナは無事に逃げおおせているとのこと。しかも白虎に深手を負わせてからというから驚きだ。
 恐らくまた天力を使ったのではないかと不安になる。

「多分転移で逃げたんだろうけど、天力使ってるはずだからその反動で逃げた先で寝てるかもしれないな」
「もしそうなら、早めに探し出してやらんとまずいやんか」
「……うい」

 早くエナの元に急行したいのに、やはりまだエナの元に転移することはできない。
 あの子は一体何を意地になってるんだ?

「テレア、しんどいだろうけど雪山に着いたら、エナの気の流れを探知してもらってもいいかな?」
「うん! テレアもエナお姉ちゃんのこと心配だし、がんばるよ!」

 魔力で探知することが出来ないなら、もう頼れるのはテレアの気を探る探知能力しかない。
 テレアの負担が増えてしまうが、事は一刻を争うのでここは頑張ってもらわないとな!
 そうして30分ほど走ると、なにやら詰所のような小屋が見えてきた。
 外を見張っていたと思わしき兵士が詰所から出てきて、俺たちの前に立ちはだかる。

「すまないな、ここから先は許可のない物を入れることはできん」
「えっと……俺たちは国からの依頼を受けた冒険者です! ラトルさんとルカさんと一緒に俺たちも依頼を受けたことになってると思うので、確認してもらってもいいですか?」
「あの二人の? ちょっと待ってろ」

 兵士が詰所に戻り、通信機でギルドへと連絡を取り一言二言交わした後、再び俺たちの元に戻って来た。

「代表者の名前はハヤマ=シューイチで間違いないな?」
「はい」
「わかってるとは思うがこの時期の雪山は危険だ、くれぐれも気を付けてくれ」

 兵士がそう言って後ろの大きな扉を開けてくれたので、俺たちは軽く会釈をしながら扉を抜けていく。
 もうちょっとしっかりお礼を言っておきたかったがこちらは大急ぎなので、もしも帰ってくるときにもいたらその時に改めてお礼をしておこう。
 申し訳ない程度に整備された道を走っていくと、大きく開けた場所に出た。

「さすがに寒いですわね……」
「防寒服買ってなかったら凍え死んでかもしれんな」

 走っている間は身体が温まっていたから気が付かなかったが、雪山はクルテグラとは比じゃないくらい気温が低かった。
 まだ雪がないのにこの寒さだ……上の方は雪が積もっているみたいだったしどんどん寒さは厳しさを増していくだろう。

「……どうやって探すの?」
「できれば二手に分かれたいところだけど、現状エナを探せるのがテレアしかいないんだよなぁ……」

 そうなると非効率ではあるが全員で固まって動くしかない。
 まあ山の天気は変わりやすいというし、ここで無理してパーティーを分断してもミイラ取りがミイラになりかねないからな。

「全員で固まって動こう! 何が起こるかわからないから、みんな油断だけはしないようにな?」

 俺の指示に全員が大きく頷いた。

「早速だけど頼めるかテレア?」
「うん任せて! えっと……」

 テレアが目を閉じて意識を集中し始めるのを、俺たちは固唾を飲んで見守る。
 10秒ほどそうしていたが、目を開いたテレアが山の上の方を指さした。

「結構上の方にいるみたい」
「動きはあるか?」

 俺の問いに、テレアが首を横に振ることで応えた。
 どうやら俺の予想通り白虎に天力を使って深手を負わせた後、転移で逃げたのはいいけどそこで気を失っているんだろう。

「結構遠いんか?」
「うん……結構遠いし、それになんだかすごく静かな場所にいるみたい」
「静かな場所?」
「えっとね……なんかすごく外とは違うひんやりした冷たい空気が漂ってる」
「テレアちゃん、そんなことまでわかるのですか!?」

 どうやら気の流れとやらを読むことで周囲の環境まである程度わかるらしい。
 テレアの進化が日々止まらないなぁ……。

「……洞窟?」
「多分そんなところだと思う」
「洞窟ならひとまず安心……とは言えないよなぁ」

 上の方は雪も積もっていて寒さは麓の比じゃないだろうし、洞窟なんてもしかしたら冬眠中の熊みたいな魔物だっているかもしれない。
 いずれにせよエナが危険な状況に置かれているのは間違いなさそうだ。

「それじゃあテレアに負担をかけて悪いけど、案内を頼めるかな?」
「うん! どこから行ったほうがいいかな?」

 そんなわけで俺たちはテレアを先頭にし、登山を開始していく。
 標高が高くなるにつれて景色が高くなっていき、空気も薄くなっていく。
 周囲にはうっすらと雪も積もっており、山を登っていく度に雪を見かける頻度も高くなっていき、それに比例して気温もどんどん下がっていく。
 防寒服を着ていても寒いので、仕方なしに朱雀にお願いして薄い炎の結界を俺たちの周りに張ってもらうほどだった。

「ある程度の寒さは予想してましたが、少しばかりわたくしたちの認識が甘すぎましたわね」
「この寒さはアカンて……余裕で死ねるわ」

 スチカじゃないが、確かにこの寒さは何の対策もしてなかったら普通に死ねるな。

「……マジでふぁっきんくーる」
「気持ちはわかるけど、あんまりそういう言葉遣いしたらダメだぞフリルー?」

 ていうかお前やっぱりスチカから俺の世界のネットスラングとか仕入れてるだろ絶対?
 朱雀に寒さをしのぐ結界を張ってはもらっているものの、レリスの魔力消費を考えて必要最低限の物なので割と寒さが結界を貫通してくる。
 動いていれば気にならないんだけど、小休憩のために立ち止まったりすると身体が冷えてしまって全く休憩にならないから困ったもんだ。

「大体どのくらい近づいたのでしょうか?」
「まだまだ全然遠いよ……」

 エナの奴どこまで行ったんだよ……探す方の身にもなってくれ。

「しかしもっと魔物と遭遇するかと思ったけど、さっぱりやな?」
「小動物みたいなのはちらほら見かけるけど、基本的に害のなさそうなのばっかりだったな」

 スノウレイヴェのような強力な力を持った魔物は軒並み白虎によって追い出されているのだろうか?
 こちらとしては大助かりなんだけど、生態系のバランスを考えるとどうなんだろうなこれ。
 食物連鎖の頂点だった奴らがいなくなって、淘汰されるだけだった魔物にとっては住みやすくなるだろうが、それならそれでまた新しい食物連鎖が始まるだけだろうし……結局は何も変わらないんじゃないか?
 いやでもそうなってくると肉食でない奴らばかりが生き残って今度は山の恵争奪戦が始まって、貴重な果実などが軒並み食われてしまって……ああダメだ、この辺の難しいことを考えると頭がこんがらがってくる。
 とにかく結論としては、この山や麓のクルテグラににとってはあまり良くないというわけだな。
 ていうか寒さで上手く頭が回らん。

「とりあえず休憩はこの辺してそろそろ……」
「皆さん待ってください! ……何かに囲まれてます」
「マジか!? いつの間に囲まれたんや!?」

 レリスの言葉で俺たちは一瞬にして警戒態勢になり、周囲に気を配るといつの間にか濃い霧が俺たちの周りに発生していた。
 たしかにレリスの言う通り何かに囲まれてるな……でもなんだろう、あまり明確な敵意を感じないな?

「聞こえるか? 神の獣に守護されし強き人間たちよ?」

 人の声……いや違うな……? 人の言葉に聞こえるんだけど……なんていうか上手く説明できないんだけど、人間味を感じない不思議な声だ。

「どうした? 我の声は聞こえているのだろう? 返事をしないか」
「……聞こえてるよ。何者だ?」

 返事を求められたので、一応俺が代表して声を上げたのだが……。

「我も人族の言葉を扱いなれておらぬので、通じておらぬのかと思ったぞ。まず初めに言っておく、我らに敵対の意志はない」

 本当か? さっきからこちらが感じる圧倒的な威圧感は半端じゃないぞ?

「むしろ神の獣に守護されしお前たちに頼みたいことがあって、こうしてやってきたのだ」
「……とりあえず敵対する意思がないのはわかったから、姿を見せてくれないか?」
「わかってもらえたようだな……では」

 その刹那霧の中に巨大な影が揺らめいた。
 凄いでかいな……ていうかこの影の形からして……。

「突然の来訪で驚かせてしまったようだな、我はこの山の神である」

 思わず見上げてしまうほどの大きさの真っ白な狼が霧の中から姿を現した。
 なんつーでかさだ!? ざっと見積もって三メートルくらいあるんじゃないのか!?

「先程も言った通り、お前たちに頼みがあってこうして姿を現した。聞いてはくれぬか?」

 なんか大げさな言葉遣いしてるけど、態度的には結構下手だなこの狼?
 ていうかさっき山の神って言ったよな? そんな大層な存在が俺たちに何の用だろうか?

「とりあえず聞くけど……その大きさどうにかならないのか? 見上げてると首が痛いんだけど……」
「むっ? これは失礼したな」

 俺の抗議を受けた山の神が、シュルシュルと大きさを縮めていき、俺たちとさほど目線の変わらない大きさまで小さくなった。

「これでいいか?」
「あっえっと……うん」

 なんか山の神様だなんて言う割には凄く下手な狼だなぁ……油断させてこちらを襲うつもりなんだろうか?

「何分人の前に姿を現すのは幾年ぶりでな……無礼があったのなら許してほしい」
「なんや神様なんて大層な存在の割には、腰の低い奴やな?」

 恐らくみんなが思っていたであろうその言葉を、物怖じしないスチカが率先して言い放ったのを見て、皆の表情に一気に緊張が走った。

「おい馬鹿スチカ!?」
「いや構わぬ。神の獣に比べたら我の存在などちっぽけな物だからな」

 とことん腰の低い神様だな……調子狂うぞ。

「……シューイチ、亀が出てきてもいいかって?」
「玄武が? いいぞ、多分今はいてもらった方が話がスムーズに行きそうだ」
「……うい」

 俺の言葉にフリルが小さく頷くと、光と共に玄武が顕現した。なんか久しぶりに見る気がするなぁ。

『見たところこの山を守護する神の眷属と見受けるが?』
「間違いない、我はこの山の守護を任されておる」
『我らに何の用だ?』
「……数日前に、この山に神の獣の一人と思わしき力をもった者が住み着き始め、この山を荒らし始めた」

 朱雀の話からするに、それは間違いなく白虎だろうな。
 しかし何で白虎がこんなところで山を荒らすような真似をしてるんだろうか?

『それで?』
「何度かその者の元へこうして姿を見せ、山を荒らすのをやめてもらえないかと懇願したが、終ぞ聞いてもらえなんだ……」
『ふむ……間違いなく白虎であろうな……しかしなぜこんなところに?』
「何度も理由を問うたものの、仕舞にはその強大な力を持って襲い掛かってくる始末……手を付けられずほとほと困っておるのだ」

 朱雀が言っていた白虎の特徴そのままだな……あんまり関わり合いになりたくないなぁ。

『事情は大体把握した、我らにそやつを何とかしてほしいと言うのだな?』
「神の獣の加護を受けた人間が二人もこの山に来たことを知り、天が与えた最後の望みと思い、こうして恥を忍んで姿を現した所存……」

 なんか声と表情から物凄く疲れているのが感じ取れてしまって、段々不憫に思えてきたな……まるで上司に毎日叱られて仕事してる平社員みたいだ。

『お主の願いを聞いてやるのはやぶさかではないが……その見返りとしてお主らは我らに何を差し出せる?』
「それは……」
「ちょっと待った! いくつか聞いてもいいか?」

 二人の会話を遮って、俺は一歩前に出る。

「例えばこの山に住み着いたその……まあいいや、白虎をなんとかしたとしてとして、この山の環境はすぐに元に戻るのか?」
「時間を掛ければ、再び以前の環境に戻っていくとは思うが……」
「ふむ……もう一つ聞きたいけど、あんたらが俺らに差し出せるものって例えばなによ?」
「そうだな……お主らがこの山に来た際に手を出させぬようにすることや、山の貴重な恵みを授けることくらいか……」

 正直、どっちもあまり魅力を感じないなぁ……ここが地元ならこの山には何度も登る機会はあるだろうが、生憎俺たちはこの国の住人じゃないし用が済んだらアーデンハイツに戻るしな。
 山の恵みをもらったところで扱いに困るだろうし……そうなると一つしかないな。

「それじゃあ、麓まで降りて行った魔物たちを再びこの山に呼び戻してやることはできるか?」
「この山で生まれた魔物たちはいわば我の眷属のような存在だ。我が強制すれば十分可能であろう」
「決まりだな。それじゃあ俺たちで白虎をなんとかするから、上手くいったら麓まで追いやられていった魔物たちを責任もって全てこの山に戻してくれ」
「そんなことでいいのか?」

 ていうかそうしてもらわないとクルテグラが大変なことになるしな。
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