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親戚~意外な再会~

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 前を歩くラトルさんとルカさんの後に続くように、蒸気に包まれた独特の匂いのする街の中を歩いて行く。
 凄いな……スチカの言っていた通りどこもかしこも蒸気機関だらけだ! まさしく、ネットの画像とかでしか見たことのないスチームパンク世界だ……異世界感半端ない。

「おお……蒸気を動力とした車まであるのか……!」

 俺たちの横を蒸気を動力としてるであろう車がゆっくりと通り過ぎた。
 見れば車だけじゃなくバイクもあるみたいだ。車と同じでどちらもあまりスピードは出ないみたいだが。

「ふふ……そんなに珍しいの?」

 物珍しさにあっちこちキョロキョロしてたら、いつの間にか顔だけこちらに振り向いていたルカさんに笑われてしまった。

「ええ……まあ」
「なんだなんだ? シューイチはまだ子供だな?」
「ラトルだって初めて来たときは今の彼と同じ状態になってたじゃない」
「……そうだったっけか?」

 ラトルさんがとぼけた表情でそう言って誤魔化した。
 さすが夫婦だけあって仲がいいなぁ……益々シルクス夫妻を思い出す組み合わせだ。
 しかし……ルカさんを見てるとなんかあの人の良さそうなヤクトさんを思い出すな……どことなく雰囲気が見てるというか……。

「どうかした?」
「いえっなんでもないです!」

 じっと見てたらルカさんと思いっきり目が合ってしまった。言うまでもないけどめっちゃ美人さんなので、真正面から見つめられてしまうと照れてしまう。

「おっなんだ? ルカに見惚れてたのか? 悪いがルカはお前さんみたな若造にはやらんぞ?」
「そんなつもりないですよ! こう見えても俺婚約者いますし!!」
「そうなのか? 見かけによらずやるじゃないか!」

 まさか現時点で婚約者候補が三人もいるとは口が裂けても言えないな。
 しかもそのうちの一人はまだ少女と言っても差支えのない年齢だし……ここが現代日本なら俺は確実にロリコンの烙印を押されていたな。

「シューイチ君、女の子にもてそうな顔してるものね」
「その台詞、前にもどこかで言われた気がするなぁ」

 あれから随分と長い年月が……ってなんでやねん。

「着いた着いた! そんじゃサクッと報告してくるか!」
「シューイチ君はどうするの? ここで待ってる?」
「いえ待ってても仕方ないので俺も行きますよ」

 ギルドに行けば、割とその国の情勢とか近隣の情報とかわかるから、もしかしたらエナに繋がる情報もあるかもしれないしな。
 エナの行方に全く見当がつかない今、些細な情報でも喉から手が出るほどほしいのだ。
 ギルドへと入っていく二人に続いて、俺も入り口を潜る。
 エルサイムほどではないが、ここもそこそこの数の冒険者がいるな。
 おっ? ここのギルドは喫茶店も併設されてるのか。

「この機会にお前さんもギルドに登録しておいたらどうだ? 旅してるなら必要だろ?」
「大丈夫ですよ、こう見えてもちゃんとギルドには加入してますから」

 さらに言うとマグリドとリンデフランデからの推薦状も持っているが、現在は全裸状態なので二枚ともアーデンハイツに置いてきてしまっている。

「まあ、あれだけの魔法の使い手なんだし、ギルドに入ってるのは当然と言えば当然か」
「ギルドに加入してる冒険者なら、さっきの依頼も手伝ってもらった形にして報酬を山分けすることもできるけど……」
「そんなに気を回さなくてもいいですよ! 二人が報告してる間、俺ちょっと情報収集してますから!」

 実は全裸状態だからギルドカードを持ってないんだよなぁ……それにお金には困ってないし色々と面倒臭い処理も必要になるだろうから、気持ちだけもらっておこう。

「そっか、それじゃあ報告に行ってくるから少し待っててくれよ」

 そう言って、二人は受付カウンターへと向かっていった。
 さて俺はどうしようか? 喫茶スペースでお茶してる人たちにエナのことを尋ねてみるかな?

「あれ? どこかで見た顔だと思ったら、シューイチさんじゃないっスか!?」
「はい?」

 後ろからやたらと元気な声で名前を呼ばれたので、振り返るとなんかどこかで見たことある顔があった。
 なんだろう……前にどこかで見たことある顔だな?

「私のこと覚えてないっスか? ほら、ライノスの冒険者ギルドで!」
「ああっ! 俺のギルド登録してくれた受付さん!?」

 思い出した! エナと共にライノスの冒険者ギルドに冒険者登録したときに、俺の担当してくれたリンカさんだ!
 なんか特徴的な話し方をする人だから辛うじて覚えてたぞ。

「お久しぶりっスねぇ! あれから色々とシューイチさんの噂は聞いたっスよ! 大活躍してたみたいで担当した私も鼻が高いっスよ!」

 どうやらギルドの持つネットワークを介して、俺の活躍は耳に届いていたようだ。
 しかし相変わらず声の大きい元気な人だな……少しだけ注目を集めてしまっている。

「ていうかあなたライノスのギルドの受付でしたよね? なんでこの国に?」
「ここ、うちの地元なんスよ。人手が足りないってんで里帰りがてらここのギルドに移籍してきたんス!」

 なるほどね……しかしライノスからだと結構な距離があるだろうに。

「シューイチさんは今日は何しにこのギルドへ?」
「ちょっと人探し……あっ」

 そう言えばこの人、エナと顔見知りだったよな? ちょっと訪ねてみるか。

「実はエナがこの国にいると聞いて探してるんですけど、リンカさん知らないですかね?」
「エナさんが? ここの配属になって一か月経ちましたけど見てないっスねぇ」
「そうですか」

 まあそう簡単に見つかるわけもないし、地道に探すしかないよな。

「あれ? そういえばシューイチさんたちって今5人パーティーだったはずっスよね?」
「そんな情報まで伝わってくるんですか?」
「普通の冒険者ならそんなことはないんスけど、シューイチさんたちのパーティーは有名なんで……それでたしか四日くらい前にアーデンハイツで起きた、神獣暴走の解決に貢献したと聞いてたんスけど……」

 あっやべ。
 アーデンハイツからクルテグラまでは馬車と船で一か月は掛かる距離なのに、それがこんなところにいたら疑問に思うよな……うっかりしてた。

「にゅふふ……色々と事情がありそうっスね? 詳しく聞きたいところっスけど、生憎今は職務中なので今度時間がある時にでもゆっくりと……」
「えっと、すいません失礼しました!」

 俺は踵を返し、大慌てで喫茶スペースへと逃げて行った。
 後ろで何やら茶化すようなリンカさんの声が聞こえてくるが、悪いけど無視だ!
 しかしうっかりしてたな……こんなところで知り合いに会うなんて。もう少しで面倒なことになるところだった。

「さてと……予想外のアクシデントがあったが、色々と情報収集をせねば」

 そんなわけで俺は気持ちを入れ替えて、喫茶スペースでお茶をしてる人たちにエナのことを聞くために向かっていった。



「目新しい目撃情報は何もなしか……」

 粗方聞いて回ったが、何の成果も得られなかった。
 一人くらい目撃していてもいいと思うんだけどなぁ……やはり魔術師たちの塔とやらに行ってみるべきかな?
 あーでもその前に一旦アーデンハイツに戻って皆を連れてくる方が先かー、そういう約束だもんな。

「やることいっぱいで目が回っちゃうねぇ」
『それはこっちの台詞なんだけどね』

 暖かいお茶を飲みながらテーブルでリラックスしてると、不意に朱雀に話しかけれらた。

『いくらあんたから魔力を無尽蔵に提供してもらえるとは言え、幻覚魔法を維持するの結構大変なのよ?』
「そういや今は朱雀の力で服を着てるように見せてるんだっけか」

 色々とあってすっかり忘れてたが、俺は今魔法で誤魔化しているだけで、絶賛全裸状態なのである。
 そろそろ頃合いだし、一旦アーデンハイツに戻るかな。

「おっここにいたのか! 待たせたなシューイチ」
「二人ともお帰りなさい」
「ごめんなさいね、色々と話し込んでいたら遅くなっちゃったわ」

 朱雀と話していると、依頼報告を終えたラトルさんたちが俺のいるテーブルまでやって来た。

「それにしても……受付で聞いてきたぞ? お前さんかなり有名な冒険者なんだってな?」
「……はい?」
「あなたほどの魔法の使い手なら有名な冒険者かもしれないって思って受付でシューイチ君のことを尋ねたのよ」

 ちょっと! 個人情報駄々洩れじゃないっスか! 責任者出て来いよ!!

「しかも四日前はアーデンハイツにいたんだってな? どうやってこの短期間でこの国まで来たんだ?」
「あーうー……えっと……それは……」
「言いにくいことなら無理に言わなくてもいいわ? 何か事情もあるみたいだし」
「ただ、シューイチには危ないところを助けられたからな! その恩返しをする意味でも力になれることがあるなら手伝うぞ?」

 どうしよう……二人とも悪い人ではないのは勿論だし、善意で言ってくれてるのもわかる。
 ただ色々と事情が事情だし、下手したら俺たちの事情に巻き込みかねないんだよなぁ……。

「あっ……」

 そうか、恐らくエナもこういう気分だったのだろうな……俺たちもそれはもう複雑な事情を抱えているが、ロイや青龍も言う通りエナの抱えてる事情もそれに匹敵するものらしいし、そりゃあ巻き込みたくないよなぁ……。
 こんな形でエナに共感してしまうとは……だからと言ってその後のエナが取った行動まで俺が真似をする事もないはずだ。

「恐らく、俺たちの事情に巻き込んでしまうことになると思うんですけど……?」
「これは私の勘なんだけど、いまこのクルテグラ周辺で起こっている異変と、あなたの抱えている事情は繋がっているんじゃないかって思うの」
「それにお前の探してる子は魔術師たちの塔の関係者なのかもしれないんだろ? 俺たちの依頼主もそこにいるから紹介してやれるぜ?」

 なるほど……それならばこちらとしても都合がよさそうだ。
 とはいえ俺一人で全てを決めるわけにはいかない。

「えっとそれじゃあ一旦アーデンハイツに戻って皆を仲間たちを連れてきますんで、ここで待っていてもらってもいいですか?」
「今からアーデンハイツに帰るのか!? そりゃ無理ってもんだろ!?」
「……もしかしてシューイチ君、転移魔法を使えるの?」
「実はそうなんですよ」

 これから俺たちの事情に少なからず巻き込むのだ、これくらいの情報は提示しても問題ないだろう。

「でも転移が使えると言っても、アーデンハイツまでの距離を転移するには相応の魔力が必要になるはずなんだけど……」
「そこはまあ色々と企業秘密がありまして……そんじゃサクッと行ってきますから、待っていてください」

 俺は二人にそう言い残して席を立ち、一度ギルドから出て誰もいない路地裏へと入り込んだ。

『随分あっさり巻き込んだわね?』
「まあ協力者は多い方がいいからな? それに俺らはこの国に関して何も知らないし?」

 朱雀はこの国を知っているみたいに言っていたが、何分古い情報だからあまり役に立たないだろうしな。
 この国に詳しいあの二人に協力してもらえるなら、エナを探すのもずいぶん楽になるだろう。

「そんじゃアーデンハイツへと帰りますか!」
『ようやくあんたのお守から解放されるのねぇ』

 お前は俺のオカンか?
 そんなどうでもいいツッコミをしつつ、俺はアーデンハイツへと転移で飛ぶのであった。


「……ということなんだけど」

 転移でアーデンハイツのほぼ俺の自室と化したお城の客室へと戻った俺は、皆と合流した後ここまでの経緯を掻い摘んで説明した。

「シュウも大概やけど、その二人も結構なお人好しやな?」
「……類は友を呼ぶ的な?」
「失礼だな二人とも」

 まあ自覚はしてるけどさ。

「シューイチ様の話を聞く限り悪い人たちではなさそうですし、協力者が多い方がいいという意見についてはわたくしも賛成ですわ」
「それじゃ決まりだな! ……どうしたテレア?」
「あっ、えっとね……」

 皆と話し合いをしている間、ずっと何かを思い出そうと眉間にしわを寄せているテレアが気になったので声を掛ける。

「お兄ちゃんが知り合ったその人たちって、ラトルさんとルカさんって名前なんだよね?」
「そうだぞ?」
「やっぱりそうだ……!」

 あの二人に心当たりでもあるんだろうか?
 喉の奥に何かがつっかえていたようなテレアの表情がパッと明るくなった。

「お兄ちゃん、その人たちテレアの叔父さんと叔母さんだよ」
「そりゃあテレアからしたらそうかもだけど」
「そうじゃなくてね? ルカさんはお父さんのお姉ちゃんなの」
「……ルカさんがヤクトさんの……お姉さん!?」

 こりゃまたなんとも不思議な縁だな……おい。
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