無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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逃避~想いの重さ~

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「レリスお嬢様……それはあまりにも」

 甘すぎる……と言いたいんだろうな。
 正直な話俺もそう思うけど、どうやらレリスの話にはまだ続きがあるようだ。

「罪は問いません……ですがそれはわたくしを裏切った件についてだけですわ。あなたがこの国にしたことはとても許されるものではございません」

 ソニアさんを厳しい表情で見つめながら、レリスがさらに言葉を続けていく。

「あなたがその罪を少しでも償いたいと言うのであれば、今後アグレス教団とは手を切ってください」
「アグレス教団と……それは……」
「わたくしからすればカルマ教団もアグレス教団も、手段は違えど神獣の力を手に入れるために己の利だけ考えているという部分は同じです。恐らくアグレス教団も青龍の復活に際してこの国が受ける被害など度外視だったのでしょう?」

 レリスのその言葉に、ソニアさんがそっと目を逸らした。暗にそれはレリスの指摘を肯定していると同義だ。
 ソニアさんの話から、アグレス教団は神獣の力によって世界を邪神から守ることを信条としてるようだが、神獣を復活させることだけに重点を置いてそうで、それによる被害など全く考えてないようにもとれる。

「あなたがアグレス教団からどのような任を受けているか詳しいことはわかりませんが、今回の結果だけを見ればカルマ教団と根本的にやっていることは同じだと思いましたわ」
「なあソニアさん、あなたはアグレス教団からどんな命を受けてたんだ?」
「……エレニカ財閥に取り入り、あらゆる手段を尽くし青龍を復活させろと仰せつかっておりました」

 随分大雑把な指令なんだな……多分各々の力量に任せる方針なんだろうが。
 となると、グウレシア家やカルマ教団の両方と手を組んでいたのもソニアさん独自の判断ということになるのか?

「ですがここ二・三年は随時細かい指令を与えられ、それに準ずるように動いたのも確かです。カルマ教団やグウレシア家に取り入るのもアグレス教団からの指令の一つでした」
「そうでしたか……では尚更アグレス教団とは手を切ってください」

 レリスがソニアさんにアグレス教団と手を切ってほしいという思いもわかるなぁ……だって結果的にやってることがカルマ教団と同じだもんな。
 いくら世界を護ることを信条としていても、そのために手段を選ばず周りに被害を出すことすら厭わないというなら、それはもう立派な邪教だ。
 正義を掲げれば何をやっても許されるかといえばそうじゃないからな。

「……わかりました。簡単に手を切れるかどうかはわかりませんが、善処はします」
「善処ではダメです、約束してくださいませ」
「……約束します」
「はい、約束ですわ」

 そう言ってレリスがニッコリと微笑む。

「それでアグレス教団と手を切った後、私はどうすればよろしいのでしょうか?」
「簡単なことですわ、わたくしがあなたを雇います」
「レリスお嬢様が私を……ですか?」
「今までわたくしたちは後手に回ることが多かったので……今回も完全に後手に回ってしまったからこそここまで被害が拡大したと言えますわ」

 レリスの言う通り、基本的に俺たちはカルマ教団に先手を取られてばかりなんだよな。
 それというのも相手の情報が不足しているからなんだけど……なるほど、レリスの思惑がわかって来たぞ。

「ですがソニアさんのような優秀な諜報係がいれば、そう言った事態を避けることができるかもしれませんわ。そういうわけで、今後あなたはエレニカ財閥ではなくシューイチ様のパーティーの諜報係として働くことで、自身の罪を償っていってください」
「もしもそれに従えないと言った場合は?」
「容赦なくこの国に突き出しますわ」
「そこを引き合いに出されたら、私はレリスお嬢様の提案に首を縦に振るしかできませんね」

 まるで観念したかのようにソニアさんがレリス向けて首を垂れた。

「それにソニアさんはわたくしのお世話係ですもの! きちんと最後までわたくしのお世話をしていただかないと!」
「……そうでしたね……レリスお嬢様は昔も今も危なっかしいところがございますので、私がしっかり見ていないといけませんね」
「そんなことはありませんわ! 昔は確かに無鉄砲なところもありましたが、今は……!」
「騙されちゃいけませんよソニアさん……レリスはこう見えてもかなり無鉄砲なところありますからね?」
「存じておりますよ」

 俺の言葉に、薄く微笑みながらソニアさんが返してくれた。
 この人が笑うところを俺は初めて見た気がして、少しだけ得をした気分になってしまうのは、俺が単純だからだろうか?

「シューイチ様! わたくしとソニアさんのどちらの味方なのですか!?」
「何を今更! 俺は何時だってレリスの味方だよ! そういえばソニアさん、ある筋から入手したレリスのとっておきの情報があるんですが」
「ぜひお聞かせください」
「二人ともなんなんですのー!!」

 レリスの絶叫が室内に高々と響き渡った。



「本当にあれでよかったの?」

 あれから怒ったレリスに説教されて、そこから逃げるように「では私はこれからカーマベルクへと赴き、アグレス教団と手を切ってこようかと思います」と言い残してソニアさんが例によってスウッと消えてしまった。

「シューイチ様は甘いと思いますでしょうか?」
「んー……収まるところに収まったって感じではあるけど、エナがこの場にいたら「レリスさんもシューイチさんも甘いです!」って怒られてただろうね」
「そうですわね……」

 本来ならソニアさんは今回の事件を引き起こした一党の一人として国に裁かれるべき重罪人でもある。
 それをレリス個人の判断で結果的に許してしまったばかりか、逃がすような真似をしてしまったのだ。
 せめてソニアさんが完全に俺たちの敵だったのならこんな処置は取らないんだけど、そうじゃないから難しいところだよなぁ……。
 そんなことを思いながらレリスを見ると、なんだか表情が若干沈んでいるような気がする。
 なんだろう、まだ何か気になることでもあるのかな?

「シューイチ様、前々から聞きたかったことがあるのですが……聞いてもよろしいでしょうか?」
「なになに?」
「シューイチ様は……エナさんをどのように思っていらっしゃるのですか?」

 レリスのその言葉が俺の心臓を強く打ち付けてきた。

「どう……って?」
「実は前々から思っていたのですが、シューイチ様はもしかしてエナさんを」
「いやいやいやいや! ないないない!! それはないよ!!!」

 自分でも力が入りすぎた否定だとは思ったけど、なぜだかそれを止めることが出来なかった。

「エナはなんというか……俺がこの世界に来て初めて出会った人でずっと俺の世話を焼いてくれて……あれだ! いわばレリスとソニアさんみたいな関係だから!」
「……本当ですか?」

 早口でまくし立てる俺の瞳を、まっすぐに見つめてくるレリスの視線から思わず逃げそうになってしまうが、どうにか踏みとどまり、俺は逆にレリスをまっすぐに見つめながら言葉を紡いでいく。

「エナは俺にとって大切な仲間の一人だよ? それ以上でもそれ以下でもないよ」
「シューイチ様、嘘をついてませんか?」
「ついてないよ! 嘘なんかついてないって!」

 レリスがきっちり5秒俺を見つめた後、そっと目を閉じて顔を伏せる。

「ごめんなさい、変なことを聞いてしまって」
「いや……レリスが謝ることじゃ……ないよ」

 俺たちの間を沈黙が支配する。
 この空気はダメだ……なにか言わないと……何を?
 未だにレリスとの関係をはっきりさせていない俺が何を言えばいいんだ?
 俺は確かにあの時レリスに一年待ってくれと言ったが、それを免罪符にしてダラダラと答えを出さずにレリスを苦しめて良い理由にはならない。
 レリスは俺に告白してくれてから、自分なりに俺との距離を少しでも縮めようと努力してくれていたのを俺は知っているのに、俺はそれに答えるばかりか逃げてばかりいたような気がする。
 これじゃダメだ……こんなことを続けていたら俺は何時かレリスに愛想を付かされる。

「それではわたくしは自分の部屋に戻りますわ。明日も忙しくなりそうですから」
「え? ああ……お休みレリス」
「おやすみなさいませ、シューイチ様」

 俺に一礼してから、レリスは扉を開けて部屋から出て行ってしまった。
 なんだか少しほっとしたな……ってほっとしてたらダメだろ!!
 自己嫌悪で消えてしまいたくなるな……俺って奴はどうしてこうはっきりさせられないんだろう……。
 思わず大きなため息が漏れる。

「エナとの関係か……」

 これについてはたしかテレアにも聞かれたことがあったな。二人は付き合ってるの?と。
 あの時は特に何も意識することもなく否定できたけど、さっきはどう考えても不自然な否定しかできなかった。
 あれじゃレリスが不信感を募らせるのも当たり前だ。

「これなら神獣とかと戦ってるときの方がよっぽど気楽だよなぁ……はあぁ」

 そんなことを呟きながら、俺はベッドへと潜り込んだ。



 俺はベッドに潜り込んだ……そう潜り込んだはずなのに、なぜか俺は全裸でエルサイムにある家の自室に立っていた。

「……何をやっているんだ俺は」

 なぜ全裸かというと、転移を使うためである。
 今の俺の魔力量ではアーデンハイツからエルサイムまで転移で飛ぶには全裸にならないといけないからな。……違うそうじゃないだろ。

「宗一さん、帰ってくるなら帰ってくると連絡をくださいよ……」

 その声と共に突然部屋の扉が開かれて、もうすっかりおなじみとなったメイド服を纏ったシエルが入って来た。

「……よく気が付いたね?」
「そりゃ気が付きますよ、私を何だと思ってるんですか? とりあえず服を着てください」
「ああ、ごめん」

 服を着た俺は、シエルと一緒に拠点の中庭へと移動し、二人並んで芝生の上へと腰かけた。
 夜風が俺の頬をそっと撫でていく。

「コランズの様子はどう?」
「よくやってくれてますよ? お仕事を覚えるのも早いですし、私も楽させてもらってます」
「そっか、それはよかった」
「何かあったんですか?」
「転移を覚えたからさ、練習がてら試してみようと思って」
「そうじゃなくてですね……はあ、どうせまたレリスさん絡みなんでしょう?」

 さすがシエルだ、エナに次いで付き合いが長いだけはある。

「私思うんですけど、宗一さんって比較的思慮深く……それでいてきっぱりと決断するタイプなのに、恋愛が絡んでくると途端にポンコツになりますよね?」
「それは、今痛いほど自覚してるよ」

 力なくそう答える俺を見たシエルが「これは思った以上に重傷だ」と言った顔で俺を見てくる。

「何があったかは大体察することが出来ますが……要するに宗一さんは逃げてきたんですよね?」
「逃げ……そうだな……これって逃げだよなぁ……情けない」

 エナへの気持ちにもレリスの気持ちにも折り合いを付けられず、結局俺は衝動的に逃げ出したのだ。
 人から向けられる好意と言う物が……そして自分がその好意に応えようとする想いがこんなにも重くしんどい物だとは思わなかった。
 日本にいた頃は散々モテないことを悲観していたと言うのに、こうしていざ好意を向けられた途端このざまだ……。

「情けないと笑ってくれてもいいぞ」
「笑いませんよ? そこで私が宗一さんを笑う意味が分からないです」
「何でだよ……俺は逃げてきたんだぞ?」
「逃げることってそんなに悪いことですか? 戦略撤退って言葉もあるくらいですし、一概に逃げることが悪いことだとは思いませんよ」

 笑われることはないにせよ、怒られるくらいは覚悟していたので、その言葉に驚いてついシエルの顔を凝視してしまう。

「宗一さんってなんだかんだで真面目な人ですから、多分レリスさんの気持ちに完璧に答えようとするあまり、曖昧ではっきりしない態度しか取れない自分が許せないんでしょうね」
「……そうなのかな……?」
「もっと肩の力を抜いてください……世の中は上手くいかないのが普通なんですから、その普通のことでいちいち悩んでいたら、身体も心も持ちませんよ?」

 シエルの励ましの言葉が、俺の心に自然に入ってきて染み渡っていく。

「完璧に答えれなくてもいいじゃないですか。結局のところ人の心なんて移ろいやすく、正解なんてその時々であっさり変わるんですから……もしどうしてもわからなくなったら、それをそのまま言葉にして相手に伝えればいいんですよ?」
「それでレリスから嫌われたらどうするんだよ?」
「その時はその時ですよ? ……というかあのレリスさんがそんなことで宗一さんを嫌うだなんて思えませんけどね」

 そうなんだろうか? 俺が思っていることを正直に話してもレリスは俺を嫌わないだろうか?

「……そうですか……宗一さんは多分怖くなったんでしょうね。怖くなって逃げだしてきたんですね。なら今だけは存分にその想いに浸って行けばいいですよ。そして存分に浸って行ったらまたいつもの宗一さんに戻りましょう! 大丈夫です、今日は私が好きなだけ付き合いますから!」

 そう言って自分の胸をドンと叩いたシエルが、俺にはなんだかとても頼もしく見えた。
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