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天力~聖なる十字架~
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「ルオオオォォォ―――!!」
エナに電撃を防がれたのが癪に障ったのか、雄たけびを上げながら人工神獣がエナに向けて突進していく。
見た目玄武と同じ巨大な亀の癖に中々のスピードだ。
「いかせないよ!」
エナに迫っていく人工神獣へ向けて、テレアが体内の気を活性化させながら走り寄っていき、地を蹴って高く飛び上がったとかと思うと、人工神獣の横っ面に向けてドロップキックをぶちかました。
「ルオオォォ!?」
テレアの小さな体から放たれたと思えないほどの衝撃が人工神獣の顔面に伝わり、その衝撃で大きく体制を崩す。
そのまま着地したテレアが人工神獣の股下を低い姿勢ですり抜けていき、尻尾に身体ごとしがみ付いた。
「ん―――……ええい!!」
テレアの身体が気の力で大きく発光した瞬間、巨大な人工神獣の身体がふわっと浮き上がる。
……ってまさかテレアの奴、あの巨体を投げ飛ばす気なのか!?
「ルッルオオオオォォォ!!??」
恐ろしいことに、俺の想像通り人工神獣はテレアによって投げ飛ばされて、腹を見せながら仰向けに地面に叩きつけられた。
衝撃で辺り一面に衝撃が走り、軽い地震が起きた。
気の力をある程度操れるようになったとは聞いていたけど、ここまでパワーアップ出来るもんなのか!?
こりゃぜひとも俺も覚えないといけないな……!
「レリスお姉ちゃん!」
「わっわかりましたわ!!」
どうやらレリスもこの光景に度肝を抜かれていたらしく茫然としていたものの、テレアの呼びかけで我を取り戻し朱雀の魔力を纏いながら空高く飛び上がった。
「朱雀……力を貸してくださいませ」
『任せなさい!』
地面に仰向けに転がる人工神獣へ、レリスが自身の魔力と朱雀の力を集中させた剣を向けて狙いを定めた。
「フレイム・スティンガー!!」
レリスの剣の切っ先から、依然朱雀が使ってきたあの熱線が放たれて、直撃した人工神獣のどてっぱらに大きな風穴を空けた。
あの熱線って直撃したらあんなことになるのか……あの時はレリスに当たらなくて良かったな。
しかし意外なほどあっさり勝負がついてしまったな、もっと苦戦する物だとばかり……。
「ルオオオォォォ!!!」
人工神獣がひときわ大きな雄たけびを上げると、黒い霧が穴の開いた部分に集まっていき、瞬く間に穴を塞いでしまった。
そういや暴走した玄武はしつこいくらいに再生を繰り返したけど、大量の神獣薬によって作られたこの人工神獣もそれに近い力を持っているということか……だとしたらクッソ面倒くさいぞ!?
「なんとまあ……」
朱雀の力で宙に浮かぶレリスがその光景を見て思わず声を漏らす。
振り子の要領で、地響きを立てながら反動により起き上がった人工神獣が、レリスを憎しみの籠った眼で睨みつけ、周囲に黒い霧を集めていく。
「これは……!?」
『ちょっとちょっと! これまずいわよ!?』
レリスの周囲に集まった黒い霧が帯電し始め、今にも電撃を発射できる状態へとなっていく。
「させません! フル・プロテクション!!」
黒い霧が電撃を放つものの、エナの張ったバリアによってその全てが防がれた……ように見えたが。
電撃のうちの一本がエナのバリアを突き破ってレリスに直撃した。
「あぐあああ!!」
『レリス!!』
宙に浮くことを維持できなったレリスが落ちていくが、あわや地面に激突するという瞬間、テレアによって受け止められてどうにか最悪の事態だけは免れた。
「レリスお姉ちゃん大丈夫!?」
「うぐ……だっ大丈夫……ですわ」
苦痛で顔を歪めつつ額に冷や汗が伝うレリスの表情は、とても大丈夫には見えなかった。
そんな二人の元へエナが勢いよく駆け寄っていく。
「レリスさん大丈夫ですか!?」
「ごめんなさい……油断していたわけではなかったのですが……」
『私の力でダメージを軽減したけど、まずいわねこれ……!』
「今傷を治しますから!!」
エナが魔力を活性化させていき、回復魔法を使うための準備をしていくが―――
「ルオオオォォォ!」
そうはさせないとばかりに、エナたちの頭上に帯電した黒い霧が集まっていく。
「二人とも上や!!」
スチカの叫びにいち早く反応したテレアが、気を纏いながらエナとレリスを抱えてその場から一気に跳ぶと、今までレリスの倒れていた場所に黒い雷が落ちて地面を黒く焦がした。
間一髪だった……もう少し遅れていたら三人そろってやられていたな……!
「あっありがとうございますテレアちゃん!」
「……テレアが一人で頑張ってみるから、エナお姉ちゃんはレリスお姉ちゃんのことよろしくね」
「テレアちゃん……無茶です……わ……!」
レリスの制止を振り切って、テレアが人工神獣の眼前へと躍り出た。
いくら気の扱いを覚えて飛躍的にパワーアップしたテレアと言えど、一人であの巨大人工神獣を相手にするのは無理だ!
助けに入ろうと思い青龍を閉じ込めている結界を解除しようとしたが、もし俺がここで青龍の動きを止めるのをやめてしまったら俺以外が全滅する可能性が頭をよぎったことで、結界の解除を思いとどまった。
くそっ! どうすりゃいいんだ!?
「お師匠様にはまだ早いって言われてるけど……!」
テレアが体内の魔力を活性化させて身体強化を発動したかと思うと、さらに体内に気を練り上げてそれを身体強化へと上乗せしていく。
「うっぐ……! うあああ!!」
相当の負担が掛かっているのか、テレアの顔が苦痛にゆがむが、それを雄たけびで誤魔化しながらテレアが地を蹴って人工神獣へと恐ろしい速度で飛びかかっていく。
今までのテレアのスピードとは段違いだ! あれも気の力のなせる業か!?
「ええい!!」
「ルオオォォ!?」
飛びかかったテレアが人工神獣の顔面を蹴り飛ばすと、先程のドロップキックとは違い体勢を崩すだけでは留まらず、その巨体を大きく吹き飛ばした。
地面に着地したテレアは、そのままの勢いで横ばいに吹き飛ぶ人工神獣へと跳んで追い縋っていき、ありったけの力を込めた右ストレート神獣の腹へとをぶち込んだ。
それだけは飽き足らず、一撃また一撃と拳を打ち込んでいくテレアの周囲に例の帯電した黒い霧が集まっていく。
だがそれを瞬時に察したテレアが、両足で神獣を蹴りつけた反動で大きく後方へ飛んでいきその場を離れた。
それからやや遅れてテレアのいた場所へ黒い霧が無数の電撃を放つが、それはテレアに当たらなかったばかりか、そのうちのいくつかが神獣の腹へと打ち込まれた。
「ルゴオオオアアアァァァ!!」
スゲーな、回避と攻撃を同時にこなしてる……さすがテレアだ。
そのままテレアは地面に転がっていた大きな瓦礫を持ち上げて、それを勢いよく人工神獣へと投げつけた。
迫りくる瓦礫を人工神獣が電撃によって破壊するが、その影に隠れるようにして目の前へと迫って来たテレアのアッパーが顎に直撃して、再びその巨体を宙に浮かせた。
さっきから凄いなぁ……ひょっとしてこのままあの巨大な人工神獣を倒せるんじゃ……?
だがそんな俺の期待とは裏腹に、浮き上がった神獣に追撃をしようとしたテレアが胸を抑えてうずくまってしまった。
「はあはあはあっ! ……まだ……なのに……!」
身体強化が途切れ、そのまま膝から崩れ落ちテレアが動かなくなってしまった。見たところかなり身体に負担が掛かっているようだったし、ついに耐えられなくなってしまったのか!?
呼吸してるのが辛うじて見えるから生きてはいるだろうが……まずいぞこれ!?
「ルオオオォォォ……」
そのまま地面に地響きを立てながら着地した人工神獣が、怒りの形相でテレアを睨みつけ、その頭上に帯電した黒い霧を集めていく。
「テレアちゃん!!」
「させるかぁ!!」
叫びと共にスチカがテレアの元へ足をもつれさせながらも勢いよくすっ飛んでいき、テレアを抱え上げて電撃が発生する前にその場から離脱した。
轟音と共にテレアの倒れていた位置に電撃が落ちる様子を見て、スチカが冷や汗を流した。
「あっ……あぶっあぶな!?」
「す……スチカお姉ちゃん……ありがとう……」
「おっおう! うちに任せておけば大丈夫やで!?」
そう言いながらもスチカの声は震え声である。
なんにせよスチカのおかげで九死に一生を得たな……ナイス判断だぞスチカ。
「スチカお姉ちゃん……テレアを置いて早く逃げて……」
「あほか! こんな状態のテレアを放っておいて逃げるなんて出来るわけないやろ!!」
そんな二人の頭上に再び黒い霧が集まっていく。
「ちょっ!? 少しくらいインターバル入れろや!!」
テレアを抱えたまま再び走り出そうとしたスチカだったが、足がもつれて体勢を崩しテレアを抱えたまま地面に転んでしまった。
「やばっ……!」
「プロテクション!!」
エナが魔法を唱えると同時に、スチカたちの頭上に魔法壁が発生し電撃を防いだ。
「大丈夫ですか二人とも!」
倒れている二人のもとへ、エナが走り寄っていく。
「あっありがとなエナ」
「エナお姉ちゃん……レリスお姉ちゃん……は?」
「応急処置は済ませました……起き上がるほどの回復は出来ませんでしたが今は落ち着いてます」
かなりのダメージを負っていたレリスだが、エナの回復魔法のおかげで一応の回復はしてるようだ。
しかし完全にダメージは回復してはいないようで、まだ起き上がれないらしい。
攻撃の要であるテレアとレリスが動けないのでは、はっきり言って状況は圧倒的に不利だ。
少しの間俯いていたエナが、意を決したように顔を上げて、倒れているスチカとテレアを庇うように二人の前に立つ。
「……スチカちゃん、テレアちゃんを連れてレリスさんのところへ避難してください」
「何言うてん! こうなった以上うちも力の限り戦うで!?」
「お願いします……巻き込みたくありませんから」
今までにない真剣な表情でエナがスチカに促す。
あの表情は何時だったか見たな……あれはたしか……。
「シューイチさん、ごめんなさい」
青龍の動きを止め続けている俺に向けて、エナが申し訳なさそうな顔して謝ってきた。
なんで謝るんだよ……謝らなきゃいけないことをこれからするつもりなのか……?
やめさせろと俺の心が警笛を鳴らすものの、今ここで青龍から目を離すわけにはいかないという思いが邪魔をして、俺は声すら出せずにいた。
「スチカちゃん、早く……!」
「わかった……!」
再度エナに促されたスチカが、テレアを背負ってレリスの元へと走り寄って行った。
倒れているレリスのもとに、いつの間にかフリルもいるのを見るに予めエナの指示を受けていたのだろう。
その様子を横目で確認したエナが、人工神獣を真っ向から睨みつける。
「エナさん……使う気ですか」
ロイがそんなことを呟いたが、その声は俺はおろかエナにも届くことはなかった。
目を閉じて何やら集中したエナの身体を、以前リンデフランデで玄武と戦った時に見せた……そしてアーデンハイツ城の地下室でも見せた神々しい光が包み込んだ。
「大いなる創造主よ、目の前の不浄なる物を穿つ聖なる十字架を、我に与えたまえ―――」
人工神獣へと突き出された両手に、前にエナの言っていた天力が集まっていき、次第に目を開けてられないほどの光へと変わっていく。
そんなエナに向けて人工神獣が目の前に帯電した黒い霧を集めて、そこから極太の電撃ビームを放つが、エナを護るかのような光の結界が周囲に展開されて、電撃ビームを完全に防ぎ切った。
「ルオオォォ!?」
それを見た人工神獣が再び黒い霧を集めていき、もう一度電撃のビームを放ったその瞬間―――
「サザンクロス!!!」
エナの両手に溜まった天力がその手を離れて、光の十字架をかたどっていき、人工神獣の電撃ビームなど比べ物にならない大きさの光線を放った。
その十字架型の光線は電撃ビームをあっさりと飲み込み、そのまま人工神獣に襲い掛かる。
「ルオオオオオオォォォォォ―――……」
その光はまさにエナの詠唱の中にあった「不浄なるものを穿つ」光そのものだ。
光が収まった時には、文字通り人工神獣は跡形もなく消えて、そこには何も残っていなかった。
もしかしてまた復活するかもと思ったが、どうやらその様子も見られない……今のエナのサザンクロスという魔法で完全に勝負がついたようだった。
「よかった……無事にたおせ……ました……」
全てを出し切ったのか、そのままエナが膝から崩れ落ちて地面に倒れこんだ。
「エナっ!!!」
青龍を足止めすることなど忘れて、俺はエナへと駆け出していた。
エナに電撃を防がれたのが癪に障ったのか、雄たけびを上げながら人工神獣がエナに向けて突進していく。
見た目玄武と同じ巨大な亀の癖に中々のスピードだ。
「いかせないよ!」
エナに迫っていく人工神獣へ向けて、テレアが体内の気を活性化させながら走り寄っていき、地を蹴って高く飛び上がったとかと思うと、人工神獣の横っ面に向けてドロップキックをぶちかました。
「ルオオォォ!?」
テレアの小さな体から放たれたと思えないほどの衝撃が人工神獣の顔面に伝わり、その衝撃で大きく体制を崩す。
そのまま着地したテレアが人工神獣の股下を低い姿勢ですり抜けていき、尻尾に身体ごとしがみ付いた。
「ん―――……ええい!!」
テレアの身体が気の力で大きく発光した瞬間、巨大な人工神獣の身体がふわっと浮き上がる。
……ってまさかテレアの奴、あの巨体を投げ飛ばす気なのか!?
「ルッルオオオオォォォ!!??」
恐ろしいことに、俺の想像通り人工神獣はテレアによって投げ飛ばされて、腹を見せながら仰向けに地面に叩きつけられた。
衝撃で辺り一面に衝撃が走り、軽い地震が起きた。
気の力をある程度操れるようになったとは聞いていたけど、ここまでパワーアップ出来るもんなのか!?
こりゃぜひとも俺も覚えないといけないな……!
「レリスお姉ちゃん!」
「わっわかりましたわ!!」
どうやらレリスもこの光景に度肝を抜かれていたらしく茫然としていたものの、テレアの呼びかけで我を取り戻し朱雀の魔力を纏いながら空高く飛び上がった。
「朱雀……力を貸してくださいませ」
『任せなさい!』
地面に仰向けに転がる人工神獣へ、レリスが自身の魔力と朱雀の力を集中させた剣を向けて狙いを定めた。
「フレイム・スティンガー!!」
レリスの剣の切っ先から、依然朱雀が使ってきたあの熱線が放たれて、直撃した人工神獣のどてっぱらに大きな風穴を空けた。
あの熱線って直撃したらあんなことになるのか……あの時はレリスに当たらなくて良かったな。
しかし意外なほどあっさり勝負がついてしまったな、もっと苦戦する物だとばかり……。
「ルオオオォォォ!!!」
人工神獣がひときわ大きな雄たけびを上げると、黒い霧が穴の開いた部分に集まっていき、瞬く間に穴を塞いでしまった。
そういや暴走した玄武はしつこいくらいに再生を繰り返したけど、大量の神獣薬によって作られたこの人工神獣もそれに近い力を持っているということか……だとしたらクッソ面倒くさいぞ!?
「なんとまあ……」
朱雀の力で宙に浮かぶレリスがその光景を見て思わず声を漏らす。
振り子の要領で、地響きを立てながら反動により起き上がった人工神獣が、レリスを憎しみの籠った眼で睨みつけ、周囲に黒い霧を集めていく。
「これは……!?」
『ちょっとちょっと! これまずいわよ!?』
レリスの周囲に集まった黒い霧が帯電し始め、今にも電撃を発射できる状態へとなっていく。
「させません! フル・プロテクション!!」
黒い霧が電撃を放つものの、エナの張ったバリアによってその全てが防がれた……ように見えたが。
電撃のうちの一本がエナのバリアを突き破ってレリスに直撃した。
「あぐあああ!!」
『レリス!!』
宙に浮くことを維持できなったレリスが落ちていくが、あわや地面に激突するという瞬間、テレアによって受け止められてどうにか最悪の事態だけは免れた。
「レリスお姉ちゃん大丈夫!?」
「うぐ……だっ大丈夫……ですわ」
苦痛で顔を歪めつつ額に冷や汗が伝うレリスの表情は、とても大丈夫には見えなかった。
そんな二人の元へエナが勢いよく駆け寄っていく。
「レリスさん大丈夫ですか!?」
「ごめんなさい……油断していたわけではなかったのですが……」
『私の力でダメージを軽減したけど、まずいわねこれ……!』
「今傷を治しますから!!」
エナが魔力を活性化させていき、回復魔法を使うための準備をしていくが―――
「ルオオオォォォ!」
そうはさせないとばかりに、エナたちの頭上に帯電した黒い霧が集まっていく。
「二人とも上や!!」
スチカの叫びにいち早く反応したテレアが、気を纏いながらエナとレリスを抱えてその場から一気に跳ぶと、今までレリスの倒れていた場所に黒い雷が落ちて地面を黒く焦がした。
間一髪だった……もう少し遅れていたら三人そろってやられていたな……!
「あっありがとうございますテレアちゃん!」
「……テレアが一人で頑張ってみるから、エナお姉ちゃんはレリスお姉ちゃんのことよろしくね」
「テレアちゃん……無茶です……わ……!」
レリスの制止を振り切って、テレアが人工神獣の眼前へと躍り出た。
いくら気の扱いを覚えて飛躍的にパワーアップしたテレアと言えど、一人であの巨大人工神獣を相手にするのは無理だ!
助けに入ろうと思い青龍を閉じ込めている結界を解除しようとしたが、もし俺がここで青龍の動きを止めるのをやめてしまったら俺以外が全滅する可能性が頭をよぎったことで、結界の解除を思いとどまった。
くそっ! どうすりゃいいんだ!?
「お師匠様にはまだ早いって言われてるけど……!」
テレアが体内の魔力を活性化させて身体強化を発動したかと思うと、さらに体内に気を練り上げてそれを身体強化へと上乗せしていく。
「うっぐ……! うあああ!!」
相当の負担が掛かっているのか、テレアの顔が苦痛にゆがむが、それを雄たけびで誤魔化しながらテレアが地を蹴って人工神獣へと恐ろしい速度で飛びかかっていく。
今までのテレアのスピードとは段違いだ! あれも気の力のなせる業か!?
「ええい!!」
「ルオオォォ!?」
飛びかかったテレアが人工神獣の顔面を蹴り飛ばすと、先程のドロップキックとは違い体勢を崩すだけでは留まらず、その巨体を大きく吹き飛ばした。
地面に着地したテレアは、そのままの勢いで横ばいに吹き飛ぶ人工神獣へと跳んで追い縋っていき、ありったけの力を込めた右ストレート神獣の腹へとをぶち込んだ。
それだけは飽き足らず、一撃また一撃と拳を打ち込んでいくテレアの周囲に例の帯電した黒い霧が集まっていく。
だがそれを瞬時に察したテレアが、両足で神獣を蹴りつけた反動で大きく後方へ飛んでいきその場を離れた。
それからやや遅れてテレアのいた場所へ黒い霧が無数の電撃を放つが、それはテレアに当たらなかったばかりか、そのうちのいくつかが神獣の腹へと打ち込まれた。
「ルゴオオオアアアァァァ!!」
スゲーな、回避と攻撃を同時にこなしてる……さすがテレアだ。
そのままテレアは地面に転がっていた大きな瓦礫を持ち上げて、それを勢いよく人工神獣へと投げつけた。
迫りくる瓦礫を人工神獣が電撃によって破壊するが、その影に隠れるようにして目の前へと迫って来たテレアのアッパーが顎に直撃して、再びその巨体を宙に浮かせた。
さっきから凄いなぁ……ひょっとしてこのままあの巨大な人工神獣を倒せるんじゃ……?
だがそんな俺の期待とは裏腹に、浮き上がった神獣に追撃をしようとしたテレアが胸を抑えてうずくまってしまった。
「はあはあはあっ! ……まだ……なのに……!」
身体強化が途切れ、そのまま膝から崩れ落ちテレアが動かなくなってしまった。見たところかなり身体に負担が掛かっているようだったし、ついに耐えられなくなってしまったのか!?
呼吸してるのが辛うじて見えるから生きてはいるだろうが……まずいぞこれ!?
「ルオオオォォォ……」
そのまま地面に地響きを立てながら着地した人工神獣が、怒りの形相でテレアを睨みつけ、その頭上に帯電した黒い霧を集めていく。
「テレアちゃん!!」
「させるかぁ!!」
叫びと共にスチカがテレアの元へ足をもつれさせながらも勢いよくすっ飛んでいき、テレアを抱え上げて電撃が発生する前にその場から離脱した。
轟音と共にテレアの倒れていた位置に電撃が落ちる様子を見て、スチカが冷や汗を流した。
「あっ……あぶっあぶな!?」
「す……スチカお姉ちゃん……ありがとう……」
「おっおう! うちに任せておけば大丈夫やで!?」
そう言いながらもスチカの声は震え声である。
なんにせよスチカのおかげで九死に一生を得たな……ナイス判断だぞスチカ。
「スチカお姉ちゃん……テレアを置いて早く逃げて……」
「あほか! こんな状態のテレアを放っておいて逃げるなんて出来るわけないやろ!!」
そんな二人の頭上に再び黒い霧が集まっていく。
「ちょっ!? 少しくらいインターバル入れろや!!」
テレアを抱えたまま再び走り出そうとしたスチカだったが、足がもつれて体勢を崩しテレアを抱えたまま地面に転んでしまった。
「やばっ……!」
「プロテクション!!」
エナが魔法を唱えると同時に、スチカたちの頭上に魔法壁が発生し電撃を防いだ。
「大丈夫ですか二人とも!」
倒れている二人のもとへ、エナが走り寄っていく。
「あっありがとなエナ」
「エナお姉ちゃん……レリスお姉ちゃん……は?」
「応急処置は済ませました……起き上がるほどの回復は出来ませんでしたが今は落ち着いてます」
かなりのダメージを負っていたレリスだが、エナの回復魔法のおかげで一応の回復はしてるようだ。
しかし完全にダメージは回復してはいないようで、まだ起き上がれないらしい。
攻撃の要であるテレアとレリスが動けないのでは、はっきり言って状況は圧倒的に不利だ。
少しの間俯いていたエナが、意を決したように顔を上げて、倒れているスチカとテレアを庇うように二人の前に立つ。
「……スチカちゃん、テレアちゃんを連れてレリスさんのところへ避難してください」
「何言うてん! こうなった以上うちも力の限り戦うで!?」
「お願いします……巻き込みたくありませんから」
今までにない真剣な表情でエナがスチカに促す。
あの表情は何時だったか見たな……あれはたしか……。
「シューイチさん、ごめんなさい」
青龍の動きを止め続けている俺に向けて、エナが申し訳なさそうな顔して謝ってきた。
なんで謝るんだよ……謝らなきゃいけないことをこれからするつもりなのか……?
やめさせろと俺の心が警笛を鳴らすものの、今ここで青龍から目を離すわけにはいかないという思いが邪魔をして、俺は声すら出せずにいた。
「スチカちゃん、早く……!」
「わかった……!」
再度エナに促されたスチカが、テレアを背負ってレリスの元へと走り寄って行った。
倒れているレリスのもとに、いつの間にかフリルもいるのを見るに予めエナの指示を受けていたのだろう。
その様子を横目で確認したエナが、人工神獣を真っ向から睨みつける。
「エナさん……使う気ですか」
ロイがそんなことを呟いたが、その声は俺はおろかエナにも届くことはなかった。
目を閉じて何やら集中したエナの身体を、以前リンデフランデで玄武と戦った時に見せた……そしてアーデンハイツ城の地下室でも見せた神々しい光が包み込んだ。
「大いなる創造主よ、目の前の不浄なる物を穿つ聖なる十字架を、我に与えたまえ―――」
人工神獣へと突き出された両手に、前にエナの言っていた天力が集まっていき、次第に目を開けてられないほどの光へと変わっていく。
そんなエナに向けて人工神獣が目の前に帯電した黒い霧を集めて、そこから極太の電撃ビームを放つが、エナを護るかのような光の結界が周囲に展開されて、電撃ビームを完全に防ぎ切った。
「ルオオォォ!?」
それを見た人工神獣が再び黒い霧を集めていき、もう一度電撃のビームを放ったその瞬間―――
「サザンクロス!!!」
エナの両手に溜まった天力がその手を離れて、光の十字架をかたどっていき、人工神獣の電撃ビームなど比べ物にならない大きさの光線を放った。
その十字架型の光線は電撃ビームをあっさりと飲み込み、そのまま人工神獣に襲い掛かる。
「ルオオオオオオォォォォォ―――……」
その光はまさにエナの詠唱の中にあった「不浄なるものを穿つ」光そのものだ。
光が収まった時には、文字通り人工神獣は跡形もなく消えて、そこには何も残っていなかった。
もしかしてまた復活するかもと思ったが、どうやらその様子も見られない……今のエナのサザンクロスという魔法で完全に勝負がついたようだった。
「よかった……無事にたおせ……ました……」
全てを出し切ったのか、そのままエナが膝から崩れ落ちて地面に倒れこんだ。
「エナっ!!!」
青龍を足止めすることなど忘れて、俺はエナへと駆け出していた。
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