無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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上書~魂に刻む理~

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「うわっ、こりゃ酷いな、大惨事やんか」

 ロイを追ってアーデンハイツの城下町を駆ける俺たちの目に、人工神獣によってあちらこちらを破壊された光景が飛び込んでくる。
 あらかじめ対策を立てておいたと言うのにこれなんだ、もしも何も対策してなかったらと思うと……考えたくもないな。

「あっ、皆さん!!」

 走る俺たちを見つけて、兵士の一人が呼び止めてきた。この人はたしか昨日からなにかと俺たちと縁のある城の兵士の一人だったな。王様が呼んでることを知らせに来てくれたり、矢文が飛んできたことを知らせに来たりと。
 見た目ちょっと頼りないイメージだけど、町の警護班に回っていたんだな。

「皆さんの読み通りあちこちで化物が発生していしまいましたね」
「対処の方はどうなってますか?」
「今のところは何とかなってます! 冒険者の方々も協力してくれているので」

 そこそこの被害は出ているものの、ギリギリ対処は出来ているらしいな。
 ついでだし聞いておくか。

「大きな龍と一緒に飛んで行った男を見なかったか?」
「それならたしか……」

 兵士がそこまで言いかけた時、少し離れたところから轟音が鳴り響くと共に地響きが起こった。
 そちらに目を向けると、今までとは比較にならないほどの大きさの人工神獣が出現していた。
 その傍らには宙に浮く青龍とロイの姿……くそっ一足遅かった!

「でっでかい……!?」
「あの巨大な奴と龍については俺たちが相手するから、あなたたちはあれ以外の残りの敵を頼みます! あとできるならあの周囲には誰も近づけないでくれ!」
「わっわかりました! 御武運を!!」

 それだけ言い残し、俺たちはひと際巨大な人工神獣へ向けて走り出した。

「間に合いませんでしたわね……!」
「それならそれで倒すだけですよ!」

 エナの言う通りだ、起きてしまったことを悲観している暇なんて俺たちにはないのだ。
 今できることはあの巨大な人口神獣倒して青龍を鎮めることだ。……そしてできることならロイの顔面を一発全力でぶん殴りたい。
 そんなことを思いながら走っていると、スチカが立ち止まり通信機を取り出した。

「なんやねん、おっちゃんまたこんな時に! ……はあ!?」

 その大声に驚いて、全員が立ち止まりスチカへと振り返った。
 なんだ、今度は何が起きてるんだ?

「とりあえず分かった、見つけたら保護しとくわ! んじゃ急いどるからほなな!?」

 通信機を切ったスチカが、なにやら深刻な顔で俺たちを見る。

「……えっとな、いい知らせと悪い知らせがあるねん」
「悪い方から頼む」
「……いい方からじゃないの?」

 レリスに背負われたフリルが怪訝な表情で首を傾げた。
 もうすでに最悪な事態になってるから、先にそっちを聞いておいて後からいい知らせ聞けば少しでも気がまぎれるからな。気休めにもならないだろうけど。

「ティアがいなくなった」
「ティアちゃんが!?」

 なんでも王室に避難していたらしいが、王様が目を離した隙にいなくなっていたらしい。
 城中を探しているが未だに見つかってはいないとのこと。

「マジかよ……それでいい知らせってのは?」
「城に発生した人工神獣はメイシャのおかげで討伐できたらしいで」
「さすがですわね……」

 さすがメイシャさんだが、さすがに一人で倒したわけじゃないよな? いや、ルカーナさんと同格って話だし本物には届かない人工神獣くらいなら一人でも倒すかもしれないな。

「それだけでも良かったよ……ティアについてはもし道中で見かけたら保護する方向でいこう」

 本当なら探してでも見つけ出しておきたいが、生憎今はそんな時間も人手も足りないのだ。
 それにティアには青龍の分け身も付いていることだし、ある程度の事態ならなんとか対処してくれるだろう。

「本当なら探しに行きたいですけど、今は仕方ないですよね」
「そういうこと! それに俺たち以外青龍を止められないしな」

 心の中に少ししこりを残しつつも、俺たちは再び巨大人工神獣の元へと走っていく。
 さっきから例の黒い電撃が幾度となく発生しているのを見るに、恐らくもう暴れ始めてるだろうから、急がないと!

 それから5分ほど走り続けて、俺たちはようやくロイと青龍のいるところへとたどり着くことが出来た。

「ようやくご到着ですか、遅かったですね?」
「うるせえよ! これでも全力疾走してきたんだよ!!」

 宙に浮いたロイが俺たちを見降ろしながら小さくため息を吐いた。
 周囲を確認すると、応戦してたらしき兵士と冒険者たちが倒れて動かなくなっており、周囲の建物もほとんどが破壊されてがれきの山が出来上がっていた。
 倒れている人の中に町の住人が見当たらないのを見るに、避難だけは完了しているみたいで、そこだけでも安心した。

「その辺の冒険者や城の兵士程度ではまったく歯ごたえがありませんでしたからね……君たちが来てくれたおかげでようやく本番というところですよ」
「いい加減にしなさい、ロイ!」

 何がおかしいのかけらけらと笑うロイに対し、エナが激高する。

「……それで、皆さんはどうするつもりですか? 青龍と人工神獣の二体を同時に相手取れるんですか?」

 悔しいけど実際問題ロイの言う通りだ。ただでさえ神獣だけでも厄介なのに、巨大な玄武型の人工神獣までいる。
 しかもこちらは唯一神獣を鎮めることのできるフリルが動けない状況だ……分が悪いどころの話じゃない。

「まあ、お手並み拝見と行きましょうか?」
「お前はちょっかい出してこないのか?」
「実は今まで強引に青龍を操っていたので、これでも結構消耗してるんですよ? だから少し休ませてもらいます」

 そう言ったロイが、まだ無事な建物まで飛んでいき腰かけた。文字通り高みの見物としゃれ込むつもりらしい……ほんと忌々しい奴だ。
 しかしロイがこちらに干渉してこないなら、まだ少しなんとかなるという希望は出てきた。

「皆は人工神獣の相手をしてくれ! 青龍は俺が食い止めるから!」
「お兄ちゃん一人で!? そんなの無理だよ!!」
「俺なら大丈夫だよ、わかるだろ?」

 俺のその言葉を聞いたテレアが、顔を赤らめてさっと顔を逸らした。
 そう……全裸になって無敵状態になってしまえばとりあえず死ぬことはない。
 無敵状態の俺が一人で神獣を相手にし、残るみんなで人工神獣を相手する……現状打てる手はこれしかない。
 一瞬逆の方がいいかとも考えたが、あの竜巻攻撃を撃たれてしまったら一気に全滅してしまうことも考えられるからな。

「皆なら巨大人工神獣を倒せるって思ってるからな」
「プレッシャー半端ないですね」
「ですがシューイチ様の期待には応えませんと」
「うん……テレアも頑張るよ!」

 うちの戦闘要員であるエナとテレアとレリスの三人に気合が入る。

「スチカはなるべくフリルを護ってやってくれ。そんでフリルは一秒でも早く歌魔法が使えるように魔力回復に努めるんだ」
「了解やで! 何が来てもフリルには指一本触れさせんわ!」
「……頑張る」

 よし、今この場で出せる指示は全て出せたから、いよいよ戦闘開始だ!

「厳しい状況だけど、それぞれが出来ることをやりきるんだ! 行くぞみんな!!」
「なんか凄くカッコいいことを言ってますけど、シューイチさんこれから全裸になるんですよね……」
「まあ現状それしかありませんし……」

 折角かっこよく決めたのに、余計な茶々が入ってきて台無しだった。
 まあ全裸になるんだけどさ!!

「とっとにかく戦闘開始だ!!!」

 俺の号令にみんなが頷いて、今度こそ本当に戦闘が開始された。
 戦闘部隊であるエナたち三人が巨大人工神獣へと駆け出したのを確認した俺は、急いで服を脱いでいく。
 段々とこういう状況で全裸になることに抵抗がなくなってきたな……慣れというのは本当に恐ろしいもんだ。
 ほどなくして全裸になると、俺の身体に蓄積されていた疲労と、消費してた魔力が瞬時に回復したのがわかる。俺の準備は完了だ!

「さてどうしたもんかな……」

 恐らく倒すのは簡単だ、それこそ全裸状態の俺が全力でぶん殴ればそれだけで勝てるだろうし。
 だが俺の役目は青龍を倒すことではなく、可能な限り周りに被害を出さないように食い止めて、フリルの回復を待つことだ。

「ギャオオオオォォ!!!」

 そんなことを考えていると、青龍が雄たけびを上げて全裸になった俺に向けて冷気を含んだ風の弾丸を発射してきた。
 避ける必要はないので甘んじて直撃を受けると、弾丸が当たった部分が瞬時にして氷付いて行く。
 そのまま恐ろしい速度で氷が増殖していき俺の全身を包み込もうと浸食してくるが、それを意に介さずぺりっと氷を引きはがし魔力を流し込んでやると、あっさりと氷が砕け散った。
 この攻撃が俺以外の誰かに当たったら、抵抗する間もなく瞬時に氷漬けにされるだろうな……皆に当てさせないように気を付けないと。

「ギャオ……?」

 その様子を見ていた青龍が首を傾げた。まあ気持ちはわかるよ、うん。
 とりあえず色々と試してみないと……まずは!

「グラン・フル・プロテクション!!」

 ありったけの魔力を込めて、強固な結界を青龍を包み込むように作り出したが、その結界は青龍から発生した冷気を含んだ暴風によってあっけなく破壊されてしまった。
 どうやら神獣特有の魔法に対しての特攻効果は健在のようだな……って感心してる場合じゃないな!
 今までの俺ならこの時点で力押しでなんとか封じ込めようとしただろうが、生憎今の俺は自分のこの能力についての理解が少し深まっている。

「上手くいくかは賭けだけど……やるしかないよな!」

 精神を集中させて、俺自身の深いところに存在する『それ』に手を伸ばしていく。
 その最中、いつかしたシエルとの話を思い出す。

『いいですか宗一さん? 理を操作するその力は人の身を保っている今の宗一さんではかなりの負担となっているはずです。人の身を保つ理を書き換えてしまえばその限りではありませんが、あくまでその状態を保ちながら新たな理を定義するなら、上乗せしていくのではなく、上書をしてください』
『上乗せしていくとどうなるの?』
『自身の力をコントロールできなくなって最悪暴走するかもしれません。もしもどうしても理の上乗せをしたいのなら、今の宗一さんのキャパから考えて……後三つですね。それ以上は上書で対処してください』
『まあ肝に銘じておくよ』

 人の身を保ちながら定義できる理の数は三つが限界だ。早速だがそのうちの一つをここで使う。
 時が止まったかのような感覚の中、『それ』に手を触れながら、俺自身に強く理を紡いでいく。
 その瞬間、俺の魂に何かが刻まれた感じがした。

「グラン・フル・プロテクション!」

 再度、青龍を包むように結界を張った。

「ギャオオオオォォ―――!!!」

 それを破壊しようと青龍が再び冷気を含んだ暴風を放つが、先程とは違い結界はびくともしない。

「ギャオ!?」

 結界を破壊しようと何度も暴風を発生させるが、結界は壊れるどころかヒビ一つ入ることがない。
 「俺の魔法に対しては神獣の魔法特攻効果は発動しない」と新たな理を定義付けたが、どうやらうまくいったようだ!
 これで神獣を抑えることが出来るはず……!

「はあっ!!」

 レリスの声が聞こえたので、神獣に注意を払いつつそちらに注視すると、レリスの剣が人工神獣の甲羅を斬りつけている光景が展開されていた。

「堅いですわね……!」
『私の力もありったけ乗せてるんだけどねぇ……やっぱり青龍の目がなくなったから今までよりは剣に力が乗らないみたいね』
「それは困りましたわね」
『まあこの事態を上手く乗り越えられたら、私の力で新しい宝石を作るからそれまでは我慢ね』

 レリスの剣にはめ込まれた二つの宝石は、青龍の封印が解かれた時にその役目を終えて失われてしまった。
 やっぱりレリスの攻撃力の大半をあの宝石が担ってたんだな……。

「それならそれで、今は別のやり方をするだけですわね」
『剣で斬ることだけがレリスの仕事じゃないものね』

 そんなレリスに向けて、人工神獣が黒い電撃を放つ。

「プロテクション!」

 だがその電撃はエナの張った防御壁を突破することが出来ずに、霧散していった。

「どうやら人工神獣の攻撃は本家と違って魔法でも防げるみたいですね! これならいくらでもやりようがありますよ!」

 人工神獣には本家のような魔法特攻はないようだ。
 だが油断は禁物だ……青龍を抑えながらも、いざとなったら助けられるように俺は三人の戦いを見守っていく。
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