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騒然~揺れるアーデンハイツ~
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ロイの前に現れた青龍の核石が赤黒い光を発しながら、どんどん宙に浮かび上がっていく。
やがて核石を中心に大量の魔力が渦巻いていき、レリスの剣にはめ込まれていた青龍の目とロイが呼んだ二つの宝石が吸い込まれていく。
「ギャオオオオォォ―――!!」
腹の底に響くような雄たけびが聞こえたと思うと、魔力の渦の中から巨大な赤黒い色をした龍が姿を現した。
青龍なんて名前の癖に全身が赤黒いのは、邪神によって暴走させられているからだろうか?
「ほう、これが青龍ですか」
頭上に出現した青龍を見上げながら、ロイが満足げに呟く。
とうとう復活してしまったな……だが早々で悪いけど鎮めさせてもらう!
「フリル!」
「……おーけー」
鎮めの唄を歌うため、フリルが魔力を活性化させていく。
こっちには最初からフリルがいるんだ、何かする前に手を打つに越したことはない。
まさに今フリルの歌魔法が発動しようとした瞬間、青龍の赤く濁った瞳がこちらに向けられ、瞬時に魔力が膨れ上がっていく。
「シューイチさん! 今すぐフリルちゃんに玄武さんを呼び出してもらってください!!」
驚愕の表情でエナが俺に向けて叫ぶのと、青龍の周りに大量の魔力を含んだ数本の竜巻が発生するのは同時だった。
「いっ!? フリル、予定変更だ!! 玄武を呼んで観客を護るように結界を張るんだ!!」
「……らじゃっ!」
「エナは俺と一緒にみんなを護るために防御壁を!!」
「はい!!」
この場にいる全員になるべく近くに寄るように指示を出した後、エナが魔力を活性化させていくのに合わせて、そこへ俺の魔力を上乗せしていく。
「グラン・フル・プロテクション!!」
俺の魔力も合わさった、いつもよりも強力な防御壁を俺たちの周囲に展開された。
「……亀、お願い」
『心得た!』
同時にフリルから顕現した玄武がコロシアムの観客たちを護るように強固な結界を張っていく。
恐らくはこれで大丈夫なはずだ……!
「グオオォォォォ―――!!」
青龍が唸り声を上げた途端、数本の竜巻がまるで円を描きながらコロシアム全体を蹂躙するかのように周囲を滅茶滅茶に破壊していく。
壇上のタイルは強引にはがされ竜巻に巻き込まれて宙へと舞い上がって行き、エナと玄武の結界にガツンガツンとぶつかり粉々に砕けていく。
「こっ怖いのですよぉ……」
「レリスお姉様……!」
双子が目の前で起こる滅茶苦茶くな光景を前に、恐怖で震えながらレリスにより一層しがみ付き、二人を落ち着かせる意味を込めてレリスがしゃがみ込み二人をギュッと抱きしめる。
「なんなんこれ、結界が凍り付いていくで!?」
「うぅ……なんか寒いかも……」
どうやらこの竜巻には冷気が含まれているらしく、周囲を凍り付かせるとともに気温を急激に低下させていく。
「ううぅ……結界が持たない……!」
「エナさん、わたくしの魔力も使ってください!!」
レリスの魔力がエナの張った結界へと混ざっていき、ひびが入り今にも割れそうだった結界を修復させていく。
頼む、これでどうにか乗り切ってくれ!
そんな俺の願いが通じたのか、青龍が作り出した竜巻が霧散し場に静寂が訪れた。
「た……耐えきった!」
「ふう……まさかいきなりこんなことをしてくるとは……」
どうにか乗り切ったものの、大量の魔力を消費した俺とエナとレリスの三人が地面にへたり込んだ。
今の攻撃を防ぐだけでこれとは……早々に何としないとまずいな。
周囲を見回すと、冷気を含んだ竜巻に蹂躙されたせいで所々が凍り付いており、まるで氷の世界に来たかのような錯覚を与えてくる。
「……つかれた……」
『シューイチよ、まずいことになった! 今の攻撃を防ぐのでフリルの魔力が底をついた!』
「なにぃっ!!??」
思わず勢いよくフリルへと振り返る。
ちょっと待て、フリルの魔力が底をついたって……鎮めの唄を歌えないじゃん!?
「……ごめん」
「いや、むしろよく皆を護ってくれたよ……ありがとなフリル」
申し訳なさそうに謝るフリルの頭に手を乗せて優しく撫でる。
しかしまずいことになったな……何らかの手段でフリルの魔力を回復させないと青龍を鎮めることが出来ない。
「いやはやさすが神獣と言ったところでしょうか……今の不意打ちはさすがに驚きましたよ」
俺たちと同じように結界を張って身を護っていたロイが、やや疲れた口調で言いながら額の汗をぬぐった。
さっきの青龍の攻撃で凍り付いてどこへでも飛んで行けばよかったのに……全く忌々しい。
「さてと……青龍がまた動き出す前に一仕事終えてから、撤退するとしますか」
「また逃げる気かよ! お前ほんといい加減にしろよ!?」
「前にも言いましたが私だって命は惜しいですからね」
自分でこんな事態を引き起こしておいて勝手な言い草だなほんと。
今日という今日は一発くらい殴らないと気が済まない。
「あなたたちはどうやら教団が国中にばらまいた神獣薬を回収していたらしいですが……それ意味ないですよ?」
「なんですって……?」
こちらを小馬鹿にするような口調のロイに対して、エナが反応し睨みつける。
「せめて神獣薬を粉々にして焼却でもしておけば、もう少し事態も変わっていたかもしれませんが……まあ手遅れですね」
そう言いながらロイが右手を高々と上げると、青龍から赤黒い色をした魔力がロイの右手へと集まっていく。何をしようとしているのかわからないが、今すぐ止めないと!!
「マジック・ニードル!!」
急いで魔力を活性化させて放ったので、精度も威力も足りないがこれで少しでも邪魔出来れば……!
「無駄なことをしますね」
だがロイへと飛んで行った魔力針は何かに阻まれるかのように、ロイの目前で弾け飛んでしまった。
「はあっ!!」
「おやっ!?」
その一瞬の隙をついて、ケニスさんが手にした剣でロイに斬りかかるも、ひらりとかわされてしまった。
俺の思考を読んでいち早く動いてくれたのだろうが、あと一歩のところだった……!
「何をするつもりか知らないけど、このままお前を放っておくことはできない!」
「グウレシア家次期当主のケニスさんですか……お噂は妹さん方から聞いてますよ? こうして話すことが出来て幸いですよ」
「どうせろくでもない話なんだろう?」
「まあ決して耳当たりのいい話ではありませんでしたね」
そう言ってロイが少し小さくため息を吐いた。
あんまりわかりたくないが、あんなのが三人もいたんだからさすが鬱陶しかったんだろうな……。
「よくも妹たちを誑かして悪事に手を染めさせたてくれたな」
「私が言うのもなんですが、彼女たちにそんな義理立ては必要ないと思いますがね」
「あれでも僕の妹たちだ!」
ケニスさんが再び剣を構えて斬りかかっていくが、それをあざ笑うかのようにロイがひらりひらりとかわしていく。
見てないで俺も加勢しないと……そう思って立ち上がった瞬間、遠くの方でなにやら轟音が鳴り響いた。
「なんだ、何の音だっ!?」
「お兄ちゃん、あれ!!」
テレアが指さした方角を見ると、なにやら巨大なシルエットがいくつか町中に現れていた。
これってまさか予想してた最悪の事態なんじゃ……!?
「ふむ……思ったよりも数が少ないですね? どうやら粗方回収されてしまっているようですが、先程も言った通りそれは無意味ですよ」
ケニスさんの剣を大きくバックステップでかわしたロイが、魔法で宙に浮きあがっていき町中に現れたいくつかのシルエットを一つ一つ確認していく。
「さすがに数が多いので大変ですね……仕方ない」
そう呟いたロイの元へ、今まで微動だにしてなかった青龍が動き出し寄り添って行く。
なんだ? もしかしてロイの奴青龍の奴を操ってるのか!?
「ああ、一つ忠告しておきますが、神獣薬は数が集まるとそれだけ強力な人工神獣を作れるんですよ。言っている意味わかります?」
ロイが俺たちを見降ろしそう言い放った瞬間、城の方角から再び轟音が町中に響き渡った。
町中にいくつか発生しているのよりも、一回り大きいシルエットがアーデンハイツ城のある位置に見えた。
そう言えば昨日回収した三つの神獣薬は、城に保管されていたはずだ……ってやばいぞこれ!?
「あと一か所、顕現に手間取っているところがありますね……ここは直接行かないと難しいですね。それではみなさんごきげんよう」
ロイがそう言いながら、青龍を連れて町へ向けて飛んで行った。
それと同時に、コロシアムの観客全員に掛かっていた洗脳が解けたらしく、周囲が騒然とし始める。
「考えられる上で、一番最悪な事態になってますね……」
「とりあえず後を追いかけませんと!」
「あーくそっ! 青龍が復活しただけでも厄介なのに人工神獣まで!! あいつほんとろくな事しねーな!!」
悪態を吐きつつ、今すべきことを冷静に考えていく。
とりあえずは……!
「まずはここの観客たちをどうにかしないと!」
「それなら僕に任せてくれ! このコロシアムには観客たちへ声を届けるための施設があるから、そこでまず観客の避難をさせておくよ!」
いわゆるアナウンスか……ここはケニスさんに任せた方がよさそうだな。
「町中に現れた人工神獣はどういたしますか?」
レリスが心配そうな面持ちで俺に尋ねてくるが、それについては昨日のうちにある程度対策済みではある。
「昨日の時点でこうなる事態を予測して、王様を通してこの国のギルドに強力を仰いでおいたんだ」
国からの特別依頼ということで、ギルドへと大多数参加型の依頼が張り出されており、あらかじめ冒険者の協力を要請しておいたんだが……。
コロシアムに来る途中にその依頼を受けたであろう大勢の冒険者とすれ違っていたから、これについては多分機能してるはずだ。
また捜索隊とは別に国の騎士団も警護に当たっていたから、冒険者と協力することである程度は対処できると思う。
だが城に現れた人工神獣については全く予想外だった。
これについては神獣薬を回収しただけで大丈夫と思っていた俺のミスでもある……まずは城に行ってそれをなんとかしないと!
「ん? 誰やこんな時に?」
混乱の最中、スチカの持つ通信機に連絡がきたらしく、面倒くさそうな顔をしながらスチカが通信機を取った。
「誰かと思ったらおっちゃんやんけ? もしもし……ああ……そかそか」
二分ほど会話した後、スチカが通信を終えてなにやら嬉しそうな顔をして俺たちに向き直った。
「朗報やで! 城に現れた人工神獣は、メイシャが対処してくれてるって!」
「お師匠様が?」
なんでもテレアに稽古をつけるためにたまたま城に来ていたらしく、そこでこの事態に遭遇したとかなんとか。
城の人工神獣についてはメイシャさんに任せておけば大丈夫だろう……渡りに船とはまさにこのことだな。
「城の被害は、敷地内の少し離れた倉庫に例の薬を保管しておいたおかげでそこまでの被害は出とらんらしいで」
何から何まで運がいいな……ともあれ城に現れた人工神獣については大丈夫と見て良いな。
そうなると俺たちが取るべき行動は一つしかない!
「俺たちはロイを追いかけるぞ! 恐らく神獣薬を回収してる班の所へ向かってるはずだ!」
俺の言葉に全員が頷いて答えた。
問題はフリルだよな……まさか先制攻撃されて魔力を空にされるとは。
「フリル、大丈夫か?」
「……ちょっとしんどいかも」
「フリルちゃんはわたくしが背負っていきます」
そう言ってレリスがフリルを背負っていく。
正直休ませてあげたいんだけど、フリルがいないと青龍を鎮められないからな……辛いだろうが頑張ってもらわないといけない。
「ルミスとルミアはここでケニス様の言うことを聞いて大人しくしていなさい……いいですわね?」
「はいですよ!」
「レリスお姉様、危ないことしに行くの……?」
心配そうに見つめてくるルミアを見ながらレリスがそっと微笑む。
「大丈夫ですわ、必ず無事に帰ってきますからルミスと一緒にここでお留守番していてください」
「うん……」
ルミアを宥めたレリスが俺に向き直り、力強く頷いた。
「よし、行くぞみんな!」
そうして俺たちはロイを追って、コロシアムを後にしたのだった。
やがて核石を中心に大量の魔力が渦巻いていき、レリスの剣にはめ込まれていた青龍の目とロイが呼んだ二つの宝石が吸い込まれていく。
「ギャオオオオォォ―――!!」
腹の底に響くような雄たけびが聞こえたと思うと、魔力の渦の中から巨大な赤黒い色をした龍が姿を現した。
青龍なんて名前の癖に全身が赤黒いのは、邪神によって暴走させられているからだろうか?
「ほう、これが青龍ですか」
頭上に出現した青龍を見上げながら、ロイが満足げに呟く。
とうとう復活してしまったな……だが早々で悪いけど鎮めさせてもらう!
「フリル!」
「……おーけー」
鎮めの唄を歌うため、フリルが魔力を活性化させていく。
こっちには最初からフリルがいるんだ、何かする前に手を打つに越したことはない。
まさに今フリルの歌魔法が発動しようとした瞬間、青龍の赤く濁った瞳がこちらに向けられ、瞬時に魔力が膨れ上がっていく。
「シューイチさん! 今すぐフリルちゃんに玄武さんを呼び出してもらってください!!」
驚愕の表情でエナが俺に向けて叫ぶのと、青龍の周りに大量の魔力を含んだ数本の竜巻が発生するのは同時だった。
「いっ!? フリル、予定変更だ!! 玄武を呼んで観客を護るように結界を張るんだ!!」
「……らじゃっ!」
「エナは俺と一緒にみんなを護るために防御壁を!!」
「はい!!」
この場にいる全員になるべく近くに寄るように指示を出した後、エナが魔力を活性化させていくのに合わせて、そこへ俺の魔力を上乗せしていく。
「グラン・フル・プロテクション!!」
俺の魔力も合わさった、いつもよりも強力な防御壁を俺たちの周囲に展開された。
「……亀、お願い」
『心得た!』
同時にフリルから顕現した玄武がコロシアムの観客たちを護るように強固な結界を張っていく。
恐らくはこれで大丈夫なはずだ……!
「グオオォォォォ―――!!」
青龍が唸り声を上げた途端、数本の竜巻がまるで円を描きながらコロシアム全体を蹂躙するかのように周囲を滅茶滅茶に破壊していく。
壇上のタイルは強引にはがされ竜巻に巻き込まれて宙へと舞い上がって行き、エナと玄武の結界にガツンガツンとぶつかり粉々に砕けていく。
「こっ怖いのですよぉ……」
「レリスお姉様……!」
双子が目の前で起こる滅茶苦茶くな光景を前に、恐怖で震えながらレリスにより一層しがみ付き、二人を落ち着かせる意味を込めてレリスがしゃがみ込み二人をギュッと抱きしめる。
「なんなんこれ、結界が凍り付いていくで!?」
「うぅ……なんか寒いかも……」
どうやらこの竜巻には冷気が含まれているらしく、周囲を凍り付かせるとともに気温を急激に低下させていく。
「ううぅ……結界が持たない……!」
「エナさん、わたくしの魔力も使ってください!!」
レリスの魔力がエナの張った結界へと混ざっていき、ひびが入り今にも割れそうだった結界を修復させていく。
頼む、これでどうにか乗り切ってくれ!
そんな俺の願いが通じたのか、青龍が作り出した竜巻が霧散し場に静寂が訪れた。
「た……耐えきった!」
「ふう……まさかいきなりこんなことをしてくるとは……」
どうにか乗り切ったものの、大量の魔力を消費した俺とエナとレリスの三人が地面にへたり込んだ。
今の攻撃を防ぐだけでこれとは……早々に何としないとまずいな。
周囲を見回すと、冷気を含んだ竜巻に蹂躙されたせいで所々が凍り付いており、まるで氷の世界に来たかのような錯覚を与えてくる。
「……つかれた……」
『シューイチよ、まずいことになった! 今の攻撃を防ぐのでフリルの魔力が底をついた!』
「なにぃっ!!??」
思わず勢いよくフリルへと振り返る。
ちょっと待て、フリルの魔力が底をついたって……鎮めの唄を歌えないじゃん!?
「……ごめん」
「いや、むしろよく皆を護ってくれたよ……ありがとなフリル」
申し訳なさそうに謝るフリルの頭に手を乗せて優しく撫でる。
しかしまずいことになったな……何らかの手段でフリルの魔力を回復させないと青龍を鎮めることが出来ない。
「いやはやさすが神獣と言ったところでしょうか……今の不意打ちはさすがに驚きましたよ」
俺たちと同じように結界を張って身を護っていたロイが、やや疲れた口調で言いながら額の汗をぬぐった。
さっきの青龍の攻撃で凍り付いてどこへでも飛んで行けばよかったのに……全く忌々しい。
「さてと……青龍がまた動き出す前に一仕事終えてから、撤退するとしますか」
「また逃げる気かよ! お前ほんといい加減にしろよ!?」
「前にも言いましたが私だって命は惜しいですからね」
自分でこんな事態を引き起こしておいて勝手な言い草だなほんと。
今日という今日は一発くらい殴らないと気が済まない。
「あなたたちはどうやら教団が国中にばらまいた神獣薬を回収していたらしいですが……それ意味ないですよ?」
「なんですって……?」
こちらを小馬鹿にするような口調のロイに対して、エナが反応し睨みつける。
「せめて神獣薬を粉々にして焼却でもしておけば、もう少し事態も変わっていたかもしれませんが……まあ手遅れですね」
そう言いながらロイが右手を高々と上げると、青龍から赤黒い色をした魔力がロイの右手へと集まっていく。何をしようとしているのかわからないが、今すぐ止めないと!!
「マジック・ニードル!!」
急いで魔力を活性化させて放ったので、精度も威力も足りないがこれで少しでも邪魔出来れば……!
「無駄なことをしますね」
だがロイへと飛んで行った魔力針は何かに阻まれるかのように、ロイの目前で弾け飛んでしまった。
「はあっ!!」
「おやっ!?」
その一瞬の隙をついて、ケニスさんが手にした剣でロイに斬りかかるも、ひらりとかわされてしまった。
俺の思考を読んでいち早く動いてくれたのだろうが、あと一歩のところだった……!
「何をするつもりか知らないけど、このままお前を放っておくことはできない!」
「グウレシア家次期当主のケニスさんですか……お噂は妹さん方から聞いてますよ? こうして話すことが出来て幸いですよ」
「どうせろくでもない話なんだろう?」
「まあ決して耳当たりのいい話ではありませんでしたね」
そう言ってロイが少し小さくため息を吐いた。
あんまりわかりたくないが、あんなのが三人もいたんだからさすが鬱陶しかったんだろうな……。
「よくも妹たちを誑かして悪事に手を染めさせたてくれたな」
「私が言うのもなんですが、彼女たちにそんな義理立ては必要ないと思いますがね」
「あれでも僕の妹たちだ!」
ケニスさんが再び剣を構えて斬りかかっていくが、それをあざ笑うかのようにロイがひらりひらりとかわしていく。
見てないで俺も加勢しないと……そう思って立ち上がった瞬間、遠くの方でなにやら轟音が鳴り響いた。
「なんだ、何の音だっ!?」
「お兄ちゃん、あれ!!」
テレアが指さした方角を見ると、なにやら巨大なシルエットがいくつか町中に現れていた。
これってまさか予想してた最悪の事態なんじゃ……!?
「ふむ……思ったよりも数が少ないですね? どうやら粗方回収されてしまっているようですが、先程も言った通りそれは無意味ですよ」
ケニスさんの剣を大きくバックステップでかわしたロイが、魔法で宙に浮きあがっていき町中に現れたいくつかのシルエットを一つ一つ確認していく。
「さすがに数が多いので大変ですね……仕方ない」
そう呟いたロイの元へ、今まで微動だにしてなかった青龍が動き出し寄り添って行く。
なんだ? もしかしてロイの奴青龍の奴を操ってるのか!?
「ああ、一つ忠告しておきますが、神獣薬は数が集まるとそれだけ強力な人工神獣を作れるんですよ。言っている意味わかります?」
ロイが俺たちを見降ろしそう言い放った瞬間、城の方角から再び轟音が町中に響き渡った。
町中にいくつか発生しているのよりも、一回り大きいシルエットがアーデンハイツ城のある位置に見えた。
そう言えば昨日回収した三つの神獣薬は、城に保管されていたはずだ……ってやばいぞこれ!?
「あと一か所、顕現に手間取っているところがありますね……ここは直接行かないと難しいですね。それではみなさんごきげんよう」
ロイがそう言いながら、青龍を連れて町へ向けて飛んで行った。
それと同時に、コロシアムの観客全員に掛かっていた洗脳が解けたらしく、周囲が騒然とし始める。
「考えられる上で、一番最悪な事態になってますね……」
「とりあえず後を追いかけませんと!」
「あーくそっ! 青龍が復活しただけでも厄介なのに人工神獣まで!! あいつほんとろくな事しねーな!!」
悪態を吐きつつ、今すべきことを冷静に考えていく。
とりあえずは……!
「まずはここの観客たちをどうにかしないと!」
「それなら僕に任せてくれ! このコロシアムには観客たちへ声を届けるための施設があるから、そこでまず観客の避難をさせておくよ!」
いわゆるアナウンスか……ここはケニスさんに任せた方がよさそうだな。
「町中に現れた人工神獣はどういたしますか?」
レリスが心配そうな面持ちで俺に尋ねてくるが、それについては昨日のうちにある程度対策済みではある。
「昨日の時点でこうなる事態を予測して、王様を通してこの国のギルドに強力を仰いでおいたんだ」
国からの特別依頼ということで、ギルドへと大多数参加型の依頼が張り出されており、あらかじめ冒険者の協力を要請しておいたんだが……。
コロシアムに来る途中にその依頼を受けたであろう大勢の冒険者とすれ違っていたから、これについては多分機能してるはずだ。
また捜索隊とは別に国の騎士団も警護に当たっていたから、冒険者と協力することである程度は対処できると思う。
だが城に現れた人工神獣については全く予想外だった。
これについては神獣薬を回収しただけで大丈夫と思っていた俺のミスでもある……まずは城に行ってそれをなんとかしないと!
「ん? 誰やこんな時に?」
混乱の最中、スチカの持つ通信機に連絡がきたらしく、面倒くさそうな顔をしながらスチカが通信機を取った。
「誰かと思ったらおっちゃんやんけ? もしもし……ああ……そかそか」
二分ほど会話した後、スチカが通信を終えてなにやら嬉しそうな顔をして俺たちに向き直った。
「朗報やで! 城に現れた人工神獣は、メイシャが対処してくれてるって!」
「お師匠様が?」
なんでもテレアに稽古をつけるためにたまたま城に来ていたらしく、そこでこの事態に遭遇したとかなんとか。
城の人工神獣についてはメイシャさんに任せておけば大丈夫だろう……渡りに船とはまさにこのことだな。
「城の被害は、敷地内の少し離れた倉庫に例の薬を保管しておいたおかげでそこまでの被害は出とらんらしいで」
何から何まで運がいいな……ともあれ城に現れた人工神獣については大丈夫と見て良いな。
そうなると俺たちが取るべき行動は一つしかない!
「俺たちはロイを追いかけるぞ! 恐らく神獣薬を回収してる班の所へ向かってるはずだ!」
俺の言葉に全員が頷いて答えた。
問題はフリルだよな……まさか先制攻撃されて魔力を空にされるとは。
「フリル、大丈夫か?」
「……ちょっとしんどいかも」
「フリルちゃんはわたくしが背負っていきます」
そう言ってレリスがフリルを背負っていく。
正直休ませてあげたいんだけど、フリルがいないと青龍を鎮められないからな……辛いだろうが頑張ってもらわないといけない。
「ルミスとルミアはここでケニス様の言うことを聞いて大人しくしていなさい……いいですわね?」
「はいですよ!」
「レリスお姉様、危ないことしに行くの……?」
心配そうに見つめてくるルミアを見ながらレリスがそっと微笑む。
「大丈夫ですわ、必ず無事に帰ってきますからルミスと一緒にここでお留守番していてください」
「うん……」
ルミアを宥めたレリスが俺に向き直り、力強く頷いた。
「よし、行くぞみんな!」
そうして俺たちはロイを追って、コロシアムを後にしたのだった。
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