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満席~復活までの間に~
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ティニアさんとケニスさんからクレアと呼ばれた女性が、鋭い目つきで俺たちをまるで虫けらでも見るような目で見てくる。
ツインテドリルロリから眼鏡爆乳ときて、ラストはクール系美人か……バラエティに富んでるねぇ。
「早速で悪いけれど、マリーを返してくださらないかしら?」
「勿論お返ししますが、それは妹たちの安全を確認してからです」
「……そうね、ロイ様もお待ちになっていることですし行きましょうか。ソニア、お客様方を案内して差し上げて?」
「かしこまりました」
クレアの命令を受けたソニアさんが一礼して答えるのを、レリスが何とも言えない悲しそうな表情で見ていた。
未だにソニアさんが敵だったことを信じられないレリスの心境は、さぞ複雑なことだろう……。
「レリスさん、行きましょう」
「……ええ」
そんなレリスを励ますように、エナが務めて明るく声を掛けるもやはりレリスの表情は沈んだままだった。
まずいな……これから恐らく戦いになるかもしれないのに、レリスのこのテンションは危ないかもしれない。
かと言ってあまりにも問題がデリケートなもんだから、なんて言うべきかわからないんだよなぁ……。
結局俺たちはレリスにそれ以上何も言うことが出来ないまま、ソニアさんの後に続いて廊下を歩いて行く。
程なくして廊下を抜けると、一斉に観客の歓声が沸き上がった。
「なっ!? なんだぁ!?」
「客席が全部人で埋まってるよ!」
なんで客席に観客がいるんだよ!? しかも全席埋まってて満席状態だし!
下手したらここで青龍が復活してとんでもないことになるかもしれないのに!
「どういうことなんだ、クレア!?」
「あら? これから青龍の復活というこの国始まって以来の盛大なセレモニーが始まるんですよ? それを大勢の国民に見届けてもらうのは当然のことじゃありませんか?」
ケニスさんの言葉に、「何を当たり前のことを」とでも言わん表情でクレアが答えた。
「おかしいやろこれ! ちゃんとおっちゃんがコロシアムには近づかないようにって国中にアナウンスしたはずやで!?」
「考えられる可能性としては、恐らくこの観客全員洗脳されてるかもしれませんね」
「はぁ!? これだけの数の人間を洗脳とか、そんなこと出来るん!?」
ロイの奴ならそれくらい平然とやってのけそうだな。
リンデフランデの時も、一座の公演会場にいた人たちを洗脳して黙らせてたし。
「何をしているのです? はやく壇上へあがってください、ロイ様が待ちくたびれておりますよ?」
クレアの言葉に反応し壇上を見ると、見知った銀髪の男と、その傍らにいつぞやのツインテドリル少女がふんぞり返って俺たちを見降ろしていた。
観客の割れんばかりの歓声を背に、俺たちは壇上へと上がっていく。
それを確認したロイがさっと右手を上げると、嘘のように歓声が収まりコロシアムを静寂が包み込んだ。
「お久しぶり……というほどでもありませんか、とにかくまたお会いしましたね皆さん」
「ロイ……!」
エナが憎しみを込めた目で睨みつつ、ロイの名を呟いた。
そんなエナの様子などどこ吹く風と、相変わらず不敵な笑みを浮かべながらロイが言葉を続けていく。
「今日は皆さんのおかげで青龍が復活するとのことで、こうして客席を満席にしておきましたが……お気に召しましたか?」
「お前の冗談は何時も面白くねえんだよ」
「そうですか? 残念ですね」
そう言ってロイが肩をすくめる仕草を取るのを見て、俺のフラストレーションゲージが右肩上がりで上昇していく。
相変わらず人を馬鹿にする仕草が似合う男だな。
「そんなことよりお望みのマリーを連れてきたんだから、てめえらが誘拐したルミスとルミアを返せよ」
「厳密に言えば私ではなくそこにいるソニアさんがしたことですが、そういう約束ですからね……カレン?」
「はい、ロイ様!」
ロイから目配せを受けたカレンが、踵を返して勢いよく壇上を降りていき、会場の出口へと走っていった。
「もう少ししたらカレンがあの双子を連れてきますから、その間に少しお話でもしますか?」
「お前らは青龍の封印のことに関してどこまで知ってるんだ?」
「そうですねぇ……あなたが知っていることとほぼ同じことを知っていると思っていただければ」
やはり封印を解くためのキーが、レリスの持つ剣に着いている二つの宝石だと知ってるんだな。
「失礼ですが、どうしてあなたたちは青龍を復活させたいのです?」
「あなたはエレニカ財閥の次期当主のティニアさんでしたか? そうですね、簡潔に言ってしまえばこのアーデンハイツを地図から消すためですね」
「なぜそんなことをする必要がある!?」
ロイの答えを聞いたケニスさんが、怒りの形相でロイに対して激高する。
それに軽く一瞥をくれたロイが、小さくため息を吐きつつ言葉を続けていく。
「この国は青龍の魔力に汚染されしきってますから、その責任を青龍ご本人に取っていただきたく思いましてね」
「そう言ってケニスさんの妹たちを騙して従わせてんのかよ?」
「騙すなどと人聞きの悪い! 彼女たちは元々この国あり方に疑問を持っていたようですから……いわば志を共にする同志ですよ」
「その通りですぅ! ロイ様とマリーたちはこの国を綺麗にするために立ち上がった正義の味方なんですよぉ!」
どの口が正義を語ってんだよ……つーか誰かこいつの口塞いどけよもう。
「ロイ様の言う通りです、私たちはこの国の為に青龍を復活させるのですよ?」
「クレアさん、ここまで来て隠し事はなしにしてもらえないかしら? あなたたち三姉妹がこの国の現状を憂うなんて崇高な志を持っているとは到底思えません。ただ単に私たち……エレニカ財閥が邪魔なだけなのでしょう?」
ティニアさんのその言葉を受けたクレアが、憎悪にも似た眼差しでティニアさんを睨み返した。
「知らないとでも思っていたのかしら? エレニカ財閥とグウレシア家の関係は確かに良好ですが、あなたたち三姉妹がエレニカ財閥を目の上のたんこぶ扱いしていることは、私や父も知っているのよ?」
「……そうですね、この国が神獣によって滅ぼされればエレニカ財閥もグウレシア家もあってないような物になりますし、そうなればロイ様と私たち姉妹が神獣の手から逃れた国民をまとめ上げていくことになりますしね」
なんだよこいつら、完全に私情で動いてるんじゃねーか!
言っちゃえば神獣の力で国を更地にでもすれば、優れた自分たちが残された人たちの手綱を握れる!とか思ってるのか?
「お前たち馬鹿じゃねーの?」
「シューイチさん気持ちはわかりますが、あまりもぶっちゃけすぎです」
「ぶっちゃけたくもなるっつーの! 結局こいつらは自分たちが可愛いから国を亡ぼすつもりなんだろ? これが馬鹿じゃないなら一体何なんだよ?」
ちなみ可愛いと言っても外見的な話じゃないのであしからず。
「せやな、ここまで頭お花畑だと逆に笑えて来るわ」
「……ひくわー」
「えっと、二人とももうその辺に……」
好き勝手言い放題の俺たちを、クレアが睨みつけてくる。
「あなたたちに何がわかるのかしら?」
「何もわかんねーし、てめえらのことなんて知りたいとも思わねーよ。つーか仮に青龍の手でこの国が滅んだとして、残された人がお前らに着いてきてくれるとか本気で思ってんの? 頭ハッピーセットかよ?」
「あなたさっきから本当に失礼ですよぉ! あなたなんかにマリーたちの考えが理解できるはずがないのですよぉ!!」
「だーかーらー、てめえらのことなんて知りたいとも思ってないって今言ったばかりだろ!? 脳みそ蟹味噌かお前は!?」
怒りに任せて叫び散らす俺を、仲間たちが少し引き気味で見ているが、ちょっとこの怒りは収まりそうにない。
「シューイチ様、いつになくお怒りですわね……」
「……昨日の時点でかなりフラストレーション溜まってたっぽい」
「まあ今の彼はレリスの為に怒ってるからみたいだから、あまり悪く言ってあげないでくれないかな?」
「わたくしの為……ですか?」
やっぱりケニスさんにはお見通しみたいだな。
だってそうだろう? こいつらの自分勝手な企みのせいでここ数日ずっとレリスが沈んだ表情してたんだぞ? これが怒らずにいられるかってんだ。
今まで色んな奴と相まみえてきたけど、ここまで自分勝手な奴らは初めてだ! リドアードすらかわいく見えてくるわ!!
「ロイ様! 双子を連れて来たわ……ってなにこれ?」
双子を連れてきたカレンが、喚き散らす俺たちを見て怪訝な表情を浮かべていた。
「ご苦労様ですカレン」
「レリスお姉様!」
「ティニアお姉様……!」
縄で上半身を縛られ拘束されたルミスとルミアが、自分たちの姉を見つけて名を叫んだ。
「ルミス、ルミア! 無事でしたのね!?」
「人質を丁寧に扱うのは当たり前のことだわ! それよりも早くマリーお姉様を返しなさいよね!」
「ああ返してやるよ! ほらさっさとあっちいけ!!」
「ううぅ……あなた絶対に許さないですぅ……!」
カレンによって拘束を解かれた双子と入れ替わるように、マリーがクレアたちの元へと駆け寄っていった。
「お姉様! 怖ったのです!」
「二人とも無事なようでなによりだわ……」
ティニアさんに抱きしめられた双子が、安堵の表情を浮かべているのを見て、少しだけ俺の留飲が下がったが、怒りが完全に収まったわけではない。
「さて……人質交換も終わったことですし本題に入りましょうか? 君たちが思っている通り、私たちはこの場で青龍を復活させるのが目的です」
「そう簡単に復活させられると思ってるんですか?」
エナの言う通り、青龍を復活させるための二つの宝石はこちらが持っているのだ。
それが奴らの手に渡らない限りは、そう簡単に思い通りにはいかないはず。
「実のところ、君たちがこのコロシアムに足を踏み入れた時点ですでに準備は完了してるんですよ? 気が付きませんかね、この建物全体に掛けられた魔法を?」
「魔法……?」
ロイの言葉を受けてエナが精神を集中させると、何かに気が付いたようでその表情が一瞬で驚愕に彩られた。
「シューイチさん大変です! このコロシアム全体に、以前教会跡地でドレニクの使ってきた神獣の力を吸い取る魔法陣と同質の魔法が掛けられてます!」
「なんだって!?」
思わずフリルとレリスを見るが、二人とも特に目立った影響は見られない。
いや待てよ……もしかして!?
「レリス! 剣を抜くんだ!」
「えっ、あっはい!!」
レリスが急いで腰の剣を引き抜くと、はめ込まれている二つの宝石が薄く発光していて、さらに魔力を活性化させて観察すると宝石から魔力が漏れて地面に吸い込まれているようだった。
くそっやられた! 罠を警戒してなかったわけじゃないのにこの体たらくか!?
「気が付いてもらえましたか? まあこのやり方だと青龍の復活まで結構時間が掛かってしまうんですよ……そこが少し難点ですね」
「ロイ、今すぐこの魔法を止めなさい!」
「そうですねぇ……じゃあこうしましょうか? 折角ここを満席にしたんですから、ちょっとした催し物を行いましょう」
ロイが観客を仰ぐように両手を広げて、さらに言葉を続けていく。
「君たちの中から三人選んで、彼女たち三姉妹と戦ってもらいましょう! それで君たちの代表が勝ったらこの魔法を止めてあげますよ?」
「あら、それは面白そうですね」
「さすがロイ様ですぅ!」
「面白そうじゃない! 私たちの力を見せつけてあげるわ!」
ロイの提案を少しも疑問に思うことなく、ケニスさんの妹たちが持ち上げ褒めたたえていく。
いいのかよお前ら? 要は体のいい時間稼ぎ要因としか思われないぞ?
「妹たちがあの男に篭絡されているのは事前に知ってはいたけど、こうして目の当たりにすると結構きつい物があるね……」
「心中察するわ、ケニス……」
ほんとケニスさんにばかり気苦労が溜まっていくなぁ……見ていて正直いたたまれない。
「彼女たちもやる気満々みたいですし、あなたたちの中から三人選んでください」
そう言って、ロイが俺にとってすっかりおなじみとなったアルカイックスマイルを浮かべた。
ツインテドリルロリから眼鏡爆乳ときて、ラストはクール系美人か……バラエティに富んでるねぇ。
「早速で悪いけれど、マリーを返してくださらないかしら?」
「勿論お返ししますが、それは妹たちの安全を確認してからです」
「……そうね、ロイ様もお待ちになっていることですし行きましょうか。ソニア、お客様方を案内して差し上げて?」
「かしこまりました」
クレアの命令を受けたソニアさんが一礼して答えるのを、レリスが何とも言えない悲しそうな表情で見ていた。
未だにソニアさんが敵だったことを信じられないレリスの心境は、さぞ複雑なことだろう……。
「レリスさん、行きましょう」
「……ええ」
そんなレリスを励ますように、エナが務めて明るく声を掛けるもやはりレリスの表情は沈んだままだった。
まずいな……これから恐らく戦いになるかもしれないのに、レリスのこのテンションは危ないかもしれない。
かと言ってあまりにも問題がデリケートなもんだから、なんて言うべきかわからないんだよなぁ……。
結局俺たちはレリスにそれ以上何も言うことが出来ないまま、ソニアさんの後に続いて廊下を歩いて行く。
程なくして廊下を抜けると、一斉に観客の歓声が沸き上がった。
「なっ!? なんだぁ!?」
「客席が全部人で埋まってるよ!」
なんで客席に観客がいるんだよ!? しかも全席埋まってて満席状態だし!
下手したらここで青龍が復活してとんでもないことになるかもしれないのに!
「どういうことなんだ、クレア!?」
「あら? これから青龍の復活というこの国始まって以来の盛大なセレモニーが始まるんですよ? それを大勢の国民に見届けてもらうのは当然のことじゃありませんか?」
ケニスさんの言葉に、「何を当たり前のことを」とでも言わん表情でクレアが答えた。
「おかしいやろこれ! ちゃんとおっちゃんがコロシアムには近づかないようにって国中にアナウンスしたはずやで!?」
「考えられる可能性としては、恐らくこの観客全員洗脳されてるかもしれませんね」
「はぁ!? これだけの数の人間を洗脳とか、そんなこと出来るん!?」
ロイの奴ならそれくらい平然とやってのけそうだな。
リンデフランデの時も、一座の公演会場にいた人たちを洗脳して黙らせてたし。
「何をしているのです? はやく壇上へあがってください、ロイ様が待ちくたびれておりますよ?」
クレアの言葉に反応し壇上を見ると、見知った銀髪の男と、その傍らにいつぞやのツインテドリル少女がふんぞり返って俺たちを見降ろしていた。
観客の割れんばかりの歓声を背に、俺たちは壇上へと上がっていく。
それを確認したロイがさっと右手を上げると、嘘のように歓声が収まりコロシアムを静寂が包み込んだ。
「お久しぶり……というほどでもありませんか、とにかくまたお会いしましたね皆さん」
「ロイ……!」
エナが憎しみを込めた目で睨みつつ、ロイの名を呟いた。
そんなエナの様子などどこ吹く風と、相変わらず不敵な笑みを浮かべながらロイが言葉を続けていく。
「今日は皆さんのおかげで青龍が復活するとのことで、こうして客席を満席にしておきましたが……お気に召しましたか?」
「お前の冗談は何時も面白くねえんだよ」
「そうですか? 残念ですね」
そう言ってロイが肩をすくめる仕草を取るのを見て、俺のフラストレーションゲージが右肩上がりで上昇していく。
相変わらず人を馬鹿にする仕草が似合う男だな。
「そんなことよりお望みのマリーを連れてきたんだから、てめえらが誘拐したルミスとルミアを返せよ」
「厳密に言えば私ではなくそこにいるソニアさんがしたことですが、そういう約束ですからね……カレン?」
「はい、ロイ様!」
ロイから目配せを受けたカレンが、踵を返して勢いよく壇上を降りていき、会場の出口へと走っていった。
「もう少ししたらカレンがあの双子を連れてきますから、その間に少しお話でもしますか?」
「お前らは青龍の封印のことに関してどこまで知ってるんだ?」
「そうですねぇ……あなたが知っていることとほぼ同じことを知っていると思っていただければ」
やはり封印を解くためのキーが、レリスの持つ剣に着いている二つの宝石だと知ってるんだな。
「失礼ですが、どうしてあなたたちは青龍を復活させたいのです?」
「あなたはエレニカ財閥の次期当主のティニアさんでしたか? そうですね、簡潔に言ってしまえばこのアーデンハイツを地図から消すためですね」
「なぜそんなことをする必要がある!?」
ロイの答えを聞いたケニスさんが、怒りの形相でロイに対して激高する。
それに軽く一瞥をくれたロイが、小さくため息を吐きつつ言葉を続けていく。
「この国は青龍の魔力に汚染されしきってますから、その責任を青龍ご本人に取っていただきたく思いましてね」
「そう言ってケニスさんの妹たちを騙して従わせてんのかよ?」
「騙すなどと人聞きの悪い! 彼女たちは元々この国あり方に疑問を持っていたようですから……いわば志を共にする同志ですよ」
「その通りですぅ! ロイ様とマリーたちはこの国を綺麗にするために立ち上がった正義の味方なんですよぉ!」
どの口が正義を語ってんだよ……つーか誰かこいつの口塞いどけよもう。
「ロイ様の言う通りです、私たちはこの国の為に青龍を復活させるのですよ?」
「クレアさん、ここまで来て隠し事はなしにしてもらえないかしら? あなたたち三姉妹がこの国の現状を憂うなんて崇高な志を持っているとは到底思えません。ただ単に私たち……エレニカ財閥が邪魔なだけなのでしょう?」
ティニアさんのその言葉を受けたクレアが、憎悪にも似た眼差しでティニアさんを睨み返した。
「知らないとでも思っていたのかしら? エレニカ財閥とグウレシア家の関係は確かに良好ですが、あなたたち三姉妹がエレニカ財閥を目の上のたんこぶ扱いしていることは、私や父も知っているのよ?」
「……そうですね、この国が神獣によって滅ぼされればエレニカ財閥もグウレシア家もあってないような物になりますし、そうなればロイ様と私たち姉妹が神獣の手から逃れた国民をまとめ上げていくことになりますしね」
なんだよこいつら、完全に私情で動いてるんじゃねーか!
言っちゃえば神獣の力で国を更地にでもすれば、優れた自分たちが残された人たちの手綱を握れる!とか思ってるのか?
「お前たち馬鹿じゃねーの?」
「シューイチさん気持ちはわかりますが、あまりもぶっちゃけすぎです」
「ぶっちゃけたくもなるっつーの! 結局こいつらは自分たちが可愛いから国を亡ぼすつもりなんだろ? これが馬鹿じゃないなら一体何なんだよ?」
ちなみ可愛いと言っても外見的な話じゃないのであしからず。
「せやな、ここまで頭お花畑だと逆に笑えて来るわ」
「……ひくわー」
「えっと、二人とももうその辺に……」
好き勝手言い放題の俺たちを、クレアが睨みつけてくる。
「あなたたちに何がわかるのかしら?」
「何もわかんねーし、てめえらのことなんて知りたいとも思わねーよ。つーか仮に青龍の手でこの国が滅んだとして、残された人がお前らに着いてきてくれるとか本気で思ってんの? 頭ハッピーセットかよ?」
「あなたさっきから本当に失礼ですよぉ! あなたなんかにマリーたちの考えが理解できるはずがないのですよぉ!!」
「だーかーらー、てめえらのことなんて知りたいとも思ってないって今言ったばかりだろ!? 脳みそ蟹味噌かお前は!?」
怒りに任せて叫び散らす俺を、仲間たちが少し引き気味で見ているが、ちょっとこの怒りは収まりそうにない。
「シューイチ様、いつになくお怒りですわね……」
「……昨日の時点でかなりフラストレーション溜まってたっぽい」
「まあ今の彼はレリスの為に怒ってるからみたいだから、あまり悪く言ってあげないでくれないかな?」
「わたくしの為……ですか?」
やっぱりケニスさんにはお見通しみたいだな。
だってそうだろう? こいつらの自分勝手な企みのせいでここ数日ずっとレリスが沈んだ表情してたんだぞ? これが怒らずにいられるかってんだ。
今まで色んな奴と相まみえてきたけど、ここまで自分勝手な奴らは初めてだ! リドアードすらかわいく見えてくるわ!!
「ロイ様! 双子を連れて来たわ……ってなにこれ?」
双子を連れてきたカレンが、喚き散らす俺たちを見て怪訝な表情を浮かべていた。
「ご苦労様ですカレン」
「レリスお姉様!」
「ティニアお姉様……!」
縄で上半身を縛られ拘束されたルミスとルミアが、自分たちの姉を見つけて名を叫んだ。
「ルミス、ルミア! 無事でしたのね!?」
「人質を丁寧に扱うのは当たり前のことだわ! それよりも早くマリーお姉様を返しなさいよね!」
「ああ返してやるよ! ほらさっさとあっちいけ!!」
「ううぅ……あなた絶対に許さないですぅ……!」
カレンによって拘束を解かれた双子と入れ替わるように、マリーがクレアたちの元へと駆け寄っていった。
「お姉様! 怖ったのです!」
「二人とも無事なようでなによりだわ……」
ティニアさんに抱きしめられた双子が、安堵の表情を浮かべているのを見て、少しだけ俺の留飲が下がったが、怒りが完全に収まったわけではない。
「さて……人質交換も終わったことですし本題に入りましょうか? 君たちが思っている通り、私たちはこの場で青龍を復活させるのが目的です」
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エナの言う通り、青龍を復活させるための二つの宝石はこちらが持っているのだ。
それが奴らの手に渡らない限りは、そう簡単に思い通りにはいかないはず。
「実のところ、君たちがこのコロシアムに足を踏み入れた時点ですでに準備は完了してるんですよ? 気が付きませんかね、この建物全体に掛けられた魔法を?」
「魔法……?」
ロイの言葉を受けてエナが精神を集中させると、何かに気が付いたようでその表情が一瞬で驚愕に彩られた。
「シューイチさん大変です! このコロシアム全体に、以前教会跡地でドレニクの使ってきた神獣の力を吸い取る魔法陣と同質の魔法が掛けられてます!」
「なんだって!?」
思わずフリルとレリスを見るが、二人とも特に目立った影響は見られない。
いや待てよ……もしかして!?
「レリス! 剣を抜くんだ!」
「えっ、あっはい!!」
レリスが急いで腰の剣を引き抜くと、はめ込まれている二つの宝石が薄く発光していて、さらに魔力を活性化させて観察すると宝石から魔力が漏れて地面に吸い込まれているようだった。
くそっやられた! 罠を警戒してなかったわけじゃないのにこの体たらくか!?
「気が付いてもらえましたか? まあこのやり方だと青龍の復活まで結構時間が掛かってしまうんですよ……そこが少し難点ですね」
「ロイ、今すぐこの魔法を止めなさい!」
「そうですねぇ……じゃあこうしましょうか? 折角ここを満席にしたんですから、ちょっとした催し物を行いましょう」
ロイが観客を仰ぐように両手を広げて、さらに言葉を続けていく。
「君たちの中から三人選んで、彼女たち三姉妹と戦ってもらいましょう! それで君たちの代表が勝ったらこの魔法を止めてあげますよ?」
「あら、それは面白そうですね」
「さすがロイ様ですぅ!」
「面白そうじゃない! 私たちの力を見せつけてあげるわ!」
ロイの提案を少しも疑問に思うことなく、ケニスさんの妹たちが持ち上げ褒めたたえていく。
いいのかよお前ら? 要は体のいい時間稼ぎ要因としか思われないぞ?
「妹たちがあの男に篭絡されているのは事前に知ってはいたけど、こうして目の当たりにすると結構きつい物があるね……」
「心中察するわ、ケニス……」
ほんとケニスさんにばかり気苦労が溜まっていくなぁ……見ていて正直いたたまれない。
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