無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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心酔~大きな子供~

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 路地裏での戦いが終わってすぐにエナたちと連絡を取ると、なんとなくこちらで何が起こっていたのかを予測しており、何があってもすぐ動けるよう喫茶店で待機していたらしくものの五分で俺たちの元へと駆け付けてくれた。

「この人がケニスさんの妹さんの一人ですか?」
「グウレシア三姉妹の次女でマリーです」
「……学舎でレリっちと同学だとか言ってた」
「学舎と言えばあれですね? 高い授業料を払い様々な学問について学ぶことが出来る、実質貴族専門機関と化しているあれですね?」

 高い授業料ねぇ……エナの口ぶりからすると庶民ではとても払えない金額なんだろうな。

「マリーとはその学舎で二年間共に学んでいたのですが……それはもうことあるごとに目の敵にされておりましたわね」
「積年の恨み晴らしてやるですぅ!……とか言ってたもんな」
「……ぷっ! シューイチ、今の中途半端に似てた……ぷふっ」

 何が面白かったのか知らないが、フリルの笑いのツボにはまってしまったようだ。

「しかし貴族専門ねぇ……俺のいた世界じゃ五歳になったら義務教育が始まるからなぁ」
「お兄ちゃんのいた世界じゃそうなんだ?」
「そうだぞ? 五歳から幼稚園でその後小学校になって中学校に繰り上がっていくんだ。中学で義務教育は終わるからその上の高校に行くかどうかは本人の意思次第だけどな」

 まあよほど深刻な家庭事情を抱えてなければ、大体は高校に進学するもんだけど。

「だからこの世界みたいに文字の読み書きが出来ない大人とかっていうのは物凄く珍しいな」
「なんだか窮屈そうですね、シューイチさんの元居た世界は」
「……って話が脱線したな。それでこのマリーはどうしようか?」

 未だに気を失い地面に転がされているマリーを見つつ、レリスへと問いかける。
 一応幼馴染っぽい感じだし、レリスに確認を取ってみた次第なのだが……。

「勿論このまま国へ突き出しますわ。同学のよしみで手荒なことはしないとは言いましたが、国へ突き出さないとはわたくし言ってませんもの」

 うん、たしかに言ってなかったね、うん。
 そんなわけで俺たちは未だに目を覚まさないマリーを担いで、城へと戻っていくのだった。



 城へ到達すると俺たちの連絡を受けたケニスさんが出迎えてくれた。
 そのままマリーを城の医務室へと運んでいき、ベッドに寝かすことで俺たちはようやく一息つけることとなった。

「まさかこんなに早く妹たちの一人が見つかるとは……君たちはさすがだね……」
「まあそれと同時に面倒くさい物も見つかっちゃったわけでなんですけどね」

 医務室のベッドに寝かされたマリーを見て、ケニスさんが感嘆のため息を吐いた。
 しかしここに運ぶまでの間に一回も目を覚まさなかったな。

「さて、すぐにでもマリーから話を聞かないといけないね」
「ええ、そうですわね」
「え? でもこの人ずっと寝たまんまですけど?」

 エナの疑問に対してレリスとケニスさんが小さく首を横に振る。
 その様子を見て疑問符を浮かべたエナの服の袖を、テレアが軽く引っ張った。

「エナお姉ちゃん、この人随分前に目を覚ましてたよ?」
「そうなんですか!?」

 そうだったのか!?
 ってことは、こいつ寝たふりしてやがるのか!?

「マリー、君は昔から都合が悪くなると寝たふりをする癖があるが……そこは今も変わらないみたいだね?」

 ケニスさんの言葉に、気を失っているはずのマリーがビクッと反応する。

「マリー? あなたのその癖、学舎にいるころから変わりませんのね……あれから少しは成長したのかと思いましたが、その様子が見られないのでがっかり致しましたわ」
「二人ともさっきから失礼ですぅ!! マリーはこう見えてもちゃんと成長……」
「やっぱり起きてたね」
「やっぱり起きてましたわね」

 レリスとケニスさんの二人に煽られたマリーが、我慢できずに起き上がって反論するも、咄嗟にばつが悪そうに顔を逸らした。
 本当に寝たふりしてただけとは……そんなことをしてもこの状況を切り抜けられるはずがないだろうに……。

「さてマリー……何か僕に言うことはあるかい?」
「……お兄様! マリーは騙されていただけなのですよぉ! お兄様なら信じてくれますよねぇ!?」
「良く言うよ、あんだけケニスさんのことをバカにしまくってたくせに」

 俺がそう口を挟むと、マリーが一瞬言葉を詰まらせるものの、すぐさま涙目になってケニスに追い縋っていく。

「あっ……あれはそういう風に言わないといけないって、脅されて……!」
「誰に? あなたの敬愛するあのロイという男にですか?」
「ロイ様はそんなことを言えだなんて言わないですぅ!」

 お前さんの嘘、さっきからぶれっぶれやないか。

「マリー……君たちは今国中に指名手配されている身だ。これ以上嘘を重ねて事実を言わないのであればどんどん罪が重くなっていくことになるよ?」
「どうしてですかぁ? マリーたち何も悪いことしてないですよぉ!! ロイ様とマリーたちはこの国を神獣の力で浄化するために一生懸命頑張っているのですぅ! 指名手配されるようなことなんてしてないですよぉ!!」
「……これだけのことをしでかして、指名手配されないと思ってるほうが不思議」

 まさしくフリルの言う通りである。もはや基本的な倫理観が欠落してるとかしか思えない。

(なあエナ? もしかして洗脳魔法とか掛かってたりする?)
(見たところその形跡はありませんね……恐らく本心からロイに篭絡されているんでしょう)
(マジかよ……あいつのどこにそんな魅力があるんだ?)
(話術で人をその気にさせるのが、あの男の最も得意とするところですからね……加えてあの顔の良さですから、体よく口説かれてしまったんでしょうね)

 もう厄介なことこの上ないな……一種のマインドコントールの領域だぞこれ。
 まだ魔法による洗脳の方がわかりやすい解決手段がある分マシだよなぁ……。

「ハヤマ君、少し聞きたいことがあるんだけどいいかい? 君たちも前に言っていたけど、ロイという男は一体何者なんだい?」
「う~ん……ロイについては俺よりもエナの方がよっぽど詳しいんですけどね」

 そう言ってエナに視線を向けると、大分嫌そうな顔をしながらも渋々エナが口を開いた。

「そうですねぇ……あの男はとにかく口が上手く、かつ洗脳魔法を得意としていて、人を思い通りに操ることに長けた最低な男ですね」
「……随分と私怨が混じっているが大体把握したよ。マリーは……というよりうちの妹たちは昔から顔のいい男に弱いところがあったからね」

 そう言ってケニスさんが深くため息を吐き、再びマリーへと向き直る。

「マリー、君たちが何を企んでいるのか正直にすべて話すんだ。なんなら王様に口利きをして君の罪を軽くしてもらえるように頼んでもいい」
「罪も何もマリーたちは悪いことしてないって言ってるじゃないですかぁ!」

 こりゃだめだな……正攻法では何もしゃべりそうにないぞ。
 こういう相手を動かすにはそうだなぁ……。
 脳内で日本にいた頃の団地時代の記憶を掘り返していき、今のマリーと似たような感じの子供がいないかを検索していく。
 対象が子供だというところがなんかアレな感じだが、このマリー自身が身体がでかいだけの子供みたいな存在だからまあ問題ないだろう。

「ケニスさん、ちょっとでいいから俺に任せてもらってもいいですか?」
「いいけど……大丈夫かい?」
「まあ、こういう感じに自分の非を全く認めない子供と接した記憶があるんで多分大丈夫ですよ」
「子供……まあ似たような物か……うん、それじゃ君に任せるよ」

 俺の子供発言に一瞬だけ何とも言えない表情をしたケニスさんだったが、このままでは埒が明かないと思ったのか、俺に任せるように一歩後ろへと下がった。
 さてと、任された以上は結果を出さないとな。

「えっと……お前さんに聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「何を聞かれてもマリーから話すことなんてなにもありませんよぉ!」
「聞きたいってのはお前さんが大好きなロイについてなんだけどさ? お前さんはロイのどこがそんなに好きなんだ? お前さんのような美少女がここまで入れ込むんだから、さぞやすごい奴なのかと思ってさ」

 俺がそう言うと、美少女と呼ばれたことに気を良くしたのか、はたまたロイのことを知りたいと言ったからかは知らないが、途端に嬉しそうな顔になって俺を見てくる。

「もしかしてあなた、ロイ様のことについて知りたいのですかぁ? しょうがないですねぇ! そこまで言うなら教えてあげなくもないですよぉ?」
「ぜひご教授頼むわ」
「ロイ様は二か月ほど前に突然マリーたちの前に現れた王子様ですぅ! あの綺麗な銀髪を華麗になびかせながら颯爽とマリーたちの前に現れたロイ様はまさに王子様と呼ぶにふさわしいお方でしたぁ」

 ロイが王子様ねぇ……一瞬吹き出しそうになったものの話を聞くためにぐっと堪えた。

「そのロイ様がマリーたちに言いましたぁ……「この国は汚れてしまっている、それを神獣の力を使い浄化するために君たちの力を貸してくれないか?」とぉ!」
「この国が汚れてる? そこんとこもうちょっと詳しく教えてくれないか?」
「……どうしてそんなことまであなたに言わないといけないんですかぁ?」
「勿論、ロイの素晴らしい考えとやらを知りたいからだよ! 俺みたいなスクールカーストの底辺に位置するような奴は、上にいる人間の考えを真似て少しでも上に行きたいって思うからさ」

 我ながらものすごい適当なことを言ってる自覚はあるが、どうせスクールカーストなんて言葉はこの世界には存在しないだろうし分かりっこないだろ。
 ちなみに俺自身は別にスクールカーストの底辺だったわけじゃないぞ? 位置としては多分中間位だった……はず。

「言葉の意味はよくわかりませんがぁ、ロイ様のようになりたいというあなたの気持ちは伝わって来たのですよぉ! いいでしょう、ロイ様の崇高な計画を話して聞かせてあげるですぅ!」

 よし、掛かった!
 この手の誰かに命令されてるだけで自分が悪いことしてるなんて思ってない奴は、命令してる奴に心酔してることが多いからそいつを立ててやるだけでこうやって喋ってくれることが多いのだ。
 団地にいるころ、好きな男の子に命令されて悪戯に手を染めていた女の子がいたから、それに当てはめてみたんだが……どうやらうまくいったようだ。

 そんなわけで、マリーの口からロイ……引いては教団や自分たちが何を企んでいるのかを二時間ほど聞かされるとこととなった。
 ちなみ、もう少し要点を短く抑えてわかりやすく話してくれれば30分で終わりそうな話だったことを付け加えておこう。



 全ての話を聞いた後、城の警備兵を呼んでもらいマリーを引き渡し、城の牢屋へと連行してもらった。
 当のマリーは勿論「どうして全て話したのにマリーが捕まらないといけないんですかぁ!?」とか言っていたけど、勿論そんな叫びに耳を貸すものなんて誰一人としていなかった。

「……疲れました……」

 なんかげっそりとした表情でエナがため息を吐いた。
 あの甘ったるい喋り方で尚且つ、話の内容が取っ散らかっていて要領を得ないこちらの疲労ばかりが溜まっていく素敵なトークを繰り広げられたもんだから、エナだけでなく肉親のケニスさんでさえ疲れた様子だった。

「しかし……よくあのマリーをあそこまで喋らせる気にさせられたものだね、ハヤマ君」
「まあ昔取った杵柄ってやつですよ。それにしても色々と厄介なことが分かりましたね」
「そうですわね……マリーの話の要点を抜き出しますと、カルマ教団は神獣の封印を解いてこの国を滅ぼすすつもりみたいですし」

 マリーの話からわかったことは、教団は神獣の力と神獣薬の二つを使い、この国を文字通り滅ぼすつもりらしい。
 だがなぜこの国を滅ぼしたいのかという肝心な部分はさすがにマリーは知らなかった。
 後は、残りの妹たちの潜伏場所についてだが、こちらも別行動をしていたらしく詳しいことはわからないそうであまり有力な情報は得られなかった。
 だが大体の場所の特定はできたので、以前よりはずっと探索範囲を絞ることが出来るだろう。
 そして残りの神獣薬の隠し場所についても、マリーが知っている範囲で白状させたのでそちらの探索も併せて行うこととなった。

 結果から言うと、そこまで期待していた有力な情報は得られなかったということで、俺たちは再び残りの姉妹の探索を続けることとなったわけだ。
 結局この日は三個ほど神獣薬が見つかっただけで、捜索は打ち切られ翌日に持ち越されることなるが……まさにその翌日に事態が大きく動くことになるのである。
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