無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

文字の大きさ
上 下
126 / 169

偶像~VSマリーちゃん親衛隊~

しおりを挟む
 レリスにマリーと呼ばれたそいつは、しぶしぶ頭からすっぽりかぶっていたローブを脱いでいく。
 妹のカレンと同じ金髪を両サイドで三つ編みにし、顔は野暮ったい眼鏡をつけていてそばかすも見えるがそれなりに整っていて、さすがは貴族の娘と言ったところではある。
 だがそんなものを全て吹き飛ばす恐ろしい物が、顔から下についていた……。

(でかっ!!!!)

 なにがでかいって? そんなの言わなくてもわかるだろ?
 しかし不必要にでかすぎるな……俺としてはもう少し身体のバランスにあった大きさのほうが……。

「シューイチ様?」
「お前らがここにあの薬を隠していきやがったのか!?」

 レリスからの心底冷たい視線耐えられなくなったので、無理やりシリアスな雰囲気を作り見事に誤魔化すことに成功した。

「……シューイチ」
「なんでお前さんは哀れんだ眼をしながら俺の肩に手を置いてんだよ?」

 ていうか俺が悪かったからあんまりそういう方面でいじめないでくれ、泣いちゃうから。

「くっくっ薬ってなんのことですか~!? そんなものは隠してないですぅ!!」

 嘘が下手すぎる。
 しかしなんかこう、無駄に甘ったるい声を出してくるなぁ……日本にいた頃に見たアイドルアニメを思い出すぞ。
 とにもかくにも、こいつらが犯人で間違いないみたいだな。

「マリー、あなたたち三姉妹が国中で指名手配されているのはご存知でしょう?」
「それはおかしいですぅ! マリーたちは何も悪いことしてないですよぉ!」
「「「マリーちゃんの言う通りです!!!」」」
「誰に何を吹き込まれているのかは知りませんが、大人しく投降すれば同学のよしみで手荒なことは致しませんわ」
「いやですぅ! マリーはロイ様の愛に応えるために自分の役目を果たすのですよぉ!」
「「「マリーちゃんの言う通りです!!!」」」

 外野がさっきから超うるせぇ。
 なんなんだよこいつら……親衛隊か何かか? アイドルの追っかけみたいな奴らだな。
 つーかこいつらもこいつらだが、このマリーもイラつく喋り方するなぁ……この数分で俺のフラストレーションがぐんぐん高まっていく。
 そしてやっぱりこいつもロイの奴に蠱惑されてやがるし。

「えっと……一応聞くけどお前らがアホなことしでかしてるせいで、兄であるケニスさんがお前らの尻ぬぐいさせられてるんだけど、それについて少しでも罪悪感があるなら今すぐこんなことはやめろ」
「ケニスお兄様がマリーたちの世話を焼くのは当たり前のことですぅ! 魔力もなく役にも立たない落ちこぼれのケニスお兄様が唯一できることをさせてあげてるのですからぁ、文句を言われる筋合いはないですぅ!」

 根本的に話通じねぇな……つーかグーで殴りたい。本気で。
 しかしカレンの時にも思ったが、こいつら三姉妹は基本的にケニスさんのことを下に見すぎなんじゃないのか? あの人が体質のせいでどれだけしんどい思いをしてるのかなんて、家族なんだから当然知ってて当たり前のはずなのに、それを支えるどころか馬鹿にして貶す始末だ。
 どういう育て方をされたら、ここまで性格が捻じ曲がるんだろう?

「あなたたちは昔からそうやってケニス様のことを下に見てますのね……あの人のおかげで自分たちが好き勝手していても見逃されていますのに」
「お説教なんて聞きたくないですぅ! レリスは昔から顔を会わせればそうやってマリーたちをバカにしてぇ!」

 いや馬鹿にはしてないだろ……お前らとケニスさんのことを思って色々と心を鬼にして注意してくれてただけだと思うぞ?

『なんていうか……こじらせてるわねぇ』
「これならまだうちの妹たちのほうが話が通じますわね……」

 レリスが目を伏せ、まるで頭痛を堪えるかのように額に手を押し当てた。
 心境的には俺もレリスと全く同じだ……ここまで話が通じないともしかして同じ言語で会話してないのかと思えてしまう。
 前にレリスが言っていたが、グウレシア家は立派な貴族だって話、それはケニスさんのそれこそ血の滲むような努力の賜物なんだろうなぁ。そしてこいつら三姉妹はそれを笠に着て好き放題と……これではケニスさんがあまりにも報われない。

「とにかく! ここから持ち出して行ったお薬を今すぐ返すのですぅ! あれはロイ様の崇高な計画の為に絶対に必要な物なのですよぉ!」
「……返すわけがないし、結局自分から神獣薬のことばらしてるし」

 フリルからの鋭いツッコミを受けて、マリーがしまったという顔をしながら一歩後ずさった。

「こうなったら実力行使ですぅ! カルマ教団の皆さん、やっちゃってくださいぃ!」
「「「マリーちゃんの敵は、我々の敵!!!」」」

 声を揃えて叫んだローブを被った教団の団員たちが各々の武器を構えてマリーの前に立ち並ぶ。
 つーかお前らにとっての崇拝の対象はあの邪神じゃないのかよ?

「結局こうなりますのね……まあ話が通じる相手だとは思っておりませんでしたが」
「教団の下っ端はぶちのめすのは当然として……あのマリーはどうしようか?」
「勿論捕まえて色々と情報を聞き出さないといけませんわね。マリーのことはわたくしにまかせてもらってもよろしいでしょうか?」
「何の心配もしてないけど、一応気を付けてね?」

 俺の言葉に頷いて、レリスが再び剣を構えなおした。

「じゃあ俺が残りの三人を引き受けるか……フリル、久々に頼めるかな?」
「……うい」

 フリルが少し後ろに下がり魔力を少しずつ活性化させていくのに合わせて、俺も腰の剣を引き抜いた。
 正直こいつらにフリルの歌を聴かせてやるのは勿体ないが、俺の実力だと素の状態で三人を相手にするのはちょいとばかり厳しいからな。

「よし行くぞ二人とも! 戦闘開始だ!」

 俺の言葉を受け、フリルの歌が始まった事を合図に戦いが始まった。

「「マリーちゃんの敵は我らの敵!!」」

 三人のうち馬鹿正直に武器を構えてこちらに突進してくる二人を、身体強化を発動しながら冷静に分析する。
 一人は俺と同じ剣で、もう一人は槍か……近距離と中距離のペアね……それならまずは!

「プロテクション!」

 魔法による防御壁を、自分の目の前ではなく槍を構えて突進してくる男の目の前に出現させた。

「うおっ!?」

 案の定突然現れた魔法壁を前に、槍の男が驚きバランスを崩しその場でよろける。
 そちらに一瞬気を取られた剣の男へ向けて、俺は一気に距離を詰めた。

「なにっ!?」

 一瞬のことで驚愕し反応できないそいつの顔面に、渾身の右ストレートをぶち込んでやると、それだけで大きく後方に吹っ飛んでいく。
 フリルの歌魔法による強化状態といえ、自分でもびっくりするくらいの威力だ……。
 そして吹っ飛んだそいつは、少し後ろでまだ体制を整えられていない槍の男とぶつかり二人一緒に地面に倒れこんだ。
 その隙を見逃さず、今度はさらに離れたところで魔法を使おうと様子を見ていた杖の男へ狙いを定める。

「マジック・ニードル!」

 威力よりも発動スピードを重視したその魔力針は真っすぐ杖の男へと飛んでいき、あわや直撃というところで魔法による壁を張られて防がれてしまった。

「ビックリさせやがって! そんなものが通じるかよ!」
「思ってないけど?」

 その隙に杖の男の眼前へと迫った俺は、そいつへ向けて袈裟斬りしてやると鮮血をまき散らしながら絶叫し地面に倒れた。まずは一人っと。
 その時、後ろから二つの気配がこちらへ真っすぐ向かって来ているのを察知した。

「この野郎! やりやがったな!」
「隙だらけだぜ!!」
「隙をつきたいなら声に出すなよ」

 これがテレアなら何も言わずに冷静に隙をついてくるぞ?
 瞬時に魔力を活性化させた俺は、脳内に風をイメージする。

「エア・バースト!」

 俺から発生した突風の直撃を受けた二人が、またも吹っ飛んでいき建物の壁にぶつかって、打ち所が悪かったのか槍の男の方が意識を手放しうつ伏せに地面に倒れこんだ。これで二人目っと。

「ばっ化物!!」

 辛うじて耐えた剣の男が、ひどく失礼なことを叫びながら背を向けてこの場から逃げようと試みる。
 悪いけど逃がしはしない。

「パーフェクト・バインド!」

 以前ゴルマが使っていた拘束魔法を使い、逃げる剣の男の動きを止めた。
 素の状態の俺が使うとせいぜい2秒ほど止めるのが限界なんだが、フリルの歌魔法の強化状態の今の俺なら2秒もあれば十分だ!

「なっ!? 動けない……くっ来るなぁ!!」

 恐怖に顔を引きつらせたそいつの胸に向けて剣を横薙ぎにすると、先程と同じように鮮血をまき散らしながら仰向けに地面に倒れて気絶した。
 これで全員……っと。

「お疲れさんフリル、もういいぞ?」
「……ふー」

 フリルの歌が中断され、俺に掛かっていた歌魔法の強化が途切れた。
 うん、実にスムーズに片付いたな! 俺もそこそこ戦えるようになってきたということか。

「……もうちょっと歌いたかった。シューイチもう少し苦戦して?」
「お前さんは相変わらず無茶なことを言ってくるなぁ……エルサイムに戻ったらなんかフリルが存分に歌える方法を考えるよ」
「……言質取った。もし約束破ったら、テレアにあることないこと吹き込んでシューイチと口を利かせないようにするからそのつもりで」

 やめて! テレアに口をきいてもらえないとか死にたくなるから!!

「さてと……こちらは無事に片付いたけどレリスは?」

 フリルと共にレリスの方へ身体を向けると、壁際へとレリスに追い詰められて涙目になっているマリーの姿が目に入った。
 ……向こうは向こうで圧倒的だったみたいだな。

「降参しなさい? あなたは昔からなにかとわたくしに突っかかってきましたが、一度も勝てたことがないでしょう?」
「こっこっ降参なんかしないですぅ!! そっちこそ油断してると痛い目に遭うですぅ!!」

 ガタガタと震えながらも手にしたメイスをレリスに向けながら、マリーが叫ぶ。

『ここまで完膚なきまで追い詰められておいて、まだそんなことを言える度胸だけは認めてあげてもいいわね……』

 レリスの肩に乗っかっている朱雀が呆れたように呟いた。

「そもそもどうしてあなたはわたくしを目の敵にしてくるのですか?」
「そんなの決まってるですぅ! マリーの方が学舎で男の子たちからちやほやされる予定だったのに、レリスの方がちやほやされていたからに決まってるですぅ!!」

 THE☆逆恨み!
 ていうか、学舎ってのは多分学校とかそういう類の物なんだろうけど、そういうところは異性にちやほやされるために行くところじゃないだろ……どんだけ脳内お花畑なんだよ。

「別にちやほやはされておりませんでしたが……わたくしの記憶ではマリーの方が男の人の取り巻きが多かったと思うのですが……」
「あいつらは薄情ですぅ! みんなで楽しくおしゃべりしててもレリスが横を通り過ぎるだけで、あいつらの視線はみんなレリスに釘付けだったですぅ!! その視線はマリーだけが浴びればいい物なのですよぉ!!」

 一瞬何を言ってるのかわからなくて、つい隣にいるフリルを見るが、俺と顔を見合わせるなり小さく首を横に振った。うん、そうだよな!

「それは別にわたくしのせいではないと思いますが……」
「レリスのせいですぅ!! 運動も勉強も男の子たちの人気も全部マリーよりも上だったですぅ!! これはあってはならないことなのですよぉ!!」
「それならそれで、わたくしよりも上にいけるようにもっと精進すればよいだけの話でしょう? わたくしに間違った恨みを向けるよりも、なぜそれをしなかったのですか?」

 レリスの正論が突き刺さり、マリーが悔しさでわなわなと肩を振るわせる。
 まったくもってその通りだよなぁ……まあそれが出来ていればここまで歪んだ性格にはなっていないだろうと思うけど。

「もう許せないですぅ……ここで積年の恨みを晴らすですぅ!!」

 涙をまき散らしながらマリーが自身の胸の谷間に手を突っ込むと、そこからもはや見慣れた「例の物」を取り出した。
 そう……最近俺たちの間で話題の神獣薬である。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

処理中です...