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偽装~国を挙げての捜索~
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色々と激動だった一日が終わり、俺たちがアーデンハイツに来てから三日目となる今日、国を挙げてのグウレシア三姉妹の大捜索が始まることとなった。
三姉妹の指名手配もすでに完了しており、国家反逆を企てている犯罪人として国中に知れ渡ることとなった。
勿論この広い国を俺たち六人だけで探すのは無理があるので、城の兵士たちも総出で国中の捜索に参加してくれるらしく、はっきり言って大助かりだ。
「私たちはどこを探しましょうか?」
朝食を済ませて各々の準備を完了させた後、城門前へと集まった俺たち六人は作戦会議を始める。
現実的には六人で固まって動くのは非効率なので、チームを二つに分けることになるのだが……。
「ふっふっふ……実は我に秘策ありなんだよね!」
「本当ですか? さすがはシューイチ様ですわ!」
この方法さえ通じるなら、きっとすぐに見つかることだろう。
「どうするのお兄ちゃん?」
「朱雀でも玄武でもいいから、青龍の核石の魔力を探知してもらうんだよ? そうすればあいつらの潜伏場所なんて一発だ!」
「……亀がそれは無理だって」
……え?
「朱雀もそれは難しいと仰っておりますわね……核石の状態では大した魔力を感じられないし、この国の様々な魔力に交じってしまって居場所の特定など無理だと……」
「あちゃ~そうなんか? まあシュウのことやし、まだ何か手があるんやろ?」
「よし! チームを二つに分けてこの国をくまなく探すぞ!」
「……もうないんかい」
フリルの突っ込みと一緒に皆からの冷めた視線が俺のグサグサと突き刺さる。
くそう……この方法なら容易に探し出せると思ったのに!
「どのようにチーム分けを致しましょうか?」
「良く考えると俺たちってこの国のどこになにがあるかとかこと全然知らないし、その時点でかなり不利だよな」
「この国についてならうちが良く知っとるけど、チームを二つにわけるとなるとなぁ……」
「……この国には何度か一座の巡業で来たことがあるから、ある程度ならわかる」
「わたくしも一応この国出身ですが、あまり財閥の敷地内を出たことがないので、ほとんどなにも知らないのと同義ですわ……申し訳ありません」
「そうなるとスチカちゃんとフリルちゃんを、同じチームにしてしまうと非効率になっちゃいますね」
相談した結果、スチカチームとフリルチームにパーティーを分けることとなり、誰がどのチームに入るかを戦力が極端に偏らないように厳選に厳選を重ねた結果……。
「……シューイチ様と同じチームが良かったですわ……」
「うちかてそうや……」
「まあまあ二人とも、遊びに行くんじゃないんですから」
スチカチームには、エナとレリスが。
「二人とも、絶対にスチカチームよりも先にあいつらを見つけるぞ!」
「……やる気十分」
「えっと……どっちが先に見つけるって話だったっけ?」
フリルチームには、俺とテレア……といった感じに分配された。
全体的なバランスを考えるとこのチーム分けしか考えれない物の、俺はなんだかお守してるみたいな気分になってくるのはなんでだろう?
「お互いの通信機で最低でも一時間ごとに連絡を取り合って情報交換をしよう。もしも通信機を使ってる暇がない状態に陥った時はフリルかレリスのどちらかがそれぞれの神獣を通して救難信号を送るんだ」
「……わかった」
「了解いたしましたわ」
「ケニスさんたちの為にも必ずあの性悪三姉妹を見つけ出そう! 行くぞ皆!!」
俺のその声を合図に、いよいよグウレシア三姉妹及びカルマ教団の残党の捜索が開始されるととなった。
「美味いなこの肉まん!」
「……肉汁がたっぷりで非常にジューシー」
「えっと……あむっ……こんな呑気に肉まん食べててもいいのかな? ……もぐもぐ」
言いながらも肉まんの美味しさに逆らえず、テレアも俺たちと一緒に肉まんに被りついていた。
「俺の世界の言葉に『腹は減っては戦は出来ぬ』という言葉もあることだし、これでいいんだよ」
「……もう三時間も歩きっぱなしだったし」
フリルの言う通り、三時間ずっと探し回っていたのだから、腹ごしらえくらいはしないと倒れてしまう。
まったくと言っていいほど手がかりすら見つからず途方に暮れていたところ、肉まんを売っている屋台を見つけたので、小腹も空いていたことだし少し休憩を挟んでいるだけなのだ。
決して食べ歩きをしていたわけではないと声を大にして言いたい。
「しかし国中にあの三姉妹の指名手配のお触れが出てるはずなのに、あまり大騒ぎしてる感じがしないな?」
「ケニスお兄ちゃんの家ってこの国じゃ有名のはずだよね?」
「……基本的な危機感が足りてないのかも」
まあ日本にいた頃もテレビで事件を起こした犯人とかが逃走して自分のいる県に潜伏してる―――なんて報道されても「へーこわいなー」くらいの認識だったしなぁ……そういうところはどこの世界も変わらないんだな。
日本と言えばこの肉まん、完全に俺の知ってる味なんだよなぁ……恐らくこれもメイド・イン・スチカに違いない。
あいつはこの国の食文化にまで口出ししてるのだろうか? まるでアウトブレイクみたいだな。
「人間なんて、身近でなにか大なり小なり事件でも起こらないと「そんなことは自分には関係ない」と思っちゃうものだからある意味では仕方ないのかもな」
「……人間というのはなんとも罪深きものよ」
「フリルお姉ちゃん神様みたい」
一見すると平和なことこの上ないこの国だが、その暗部ではあの三姉妹とカルマ教団が結託して青龍の封印を解こうと画策しているのだ。
リンデフランデでは速やかに玄武を鎮めることが出来たから被害も少なくて済んだが、今回もあそこまで上手くいく保障などどこにもないのだ。
最悪今日中に見つけられなくとも、何かしらの手がかりくらいは見つけておきたい。
「そういえばテレア、昨日随分ヘロヘロになってたけど、今はもう平気なのか?」
「うん大丈夫だよ? お師匠様は見た目ちょっと乱暴な人に見えるけど、ああ見えても結構優しい人だったよ?」
優しい人なのは俺も感じたけど……お師匠様!?
「……弟子入りしたの?」
「色々と教えてくれるからテレアが勝手にそう呼ぶようにしてるだけなんけど、お師匠様には「柄じゃないからやめてくれ」って言われちゃった」
それでも止めないところがテレアクオリティだよなぁ。
「何かできるようになったのか? 手からビームとか?」
「……手からビームとか?」
「さすがにそこまでは無理だけど……体内の気の流れをコントロールすることは出来るようになったよ? お師匠様が言うにはそこが自在にできるようになれば、あとはテレアの発想自体で色々と応用を利かせられるようになるって」
「手からビーム出せるようにしようぜ!」
「……手からビーム」
「どうして二人ともそこにこだわるのかな?」
そりゃ手からビームだからな!
「そういや魔法に気の力を混ぜられるとかも言ってたよな?」
「うん。でもそれはまだ今のテレアだと負担が大きいから、どうしてもという時以外はやるなって言われっちゃった」
昨日、メイシャさんがテレアの特訓を終えた後俺のところにやって来たんだが、「面白いくらい教えたことを吸収していくから、教えるつもりもなかったことまで調子に乗って教えてしまった」と何やら楽しそうに言っていた。
昨日だけでテレアがどれだけパワーアップしたのか非常に楽しみではある。
それにしても気功か……俺もぜひとも覚えたい……ん?
「なあ、これはちょっとした疑問なんだけど、人間は誰しも気の流れってのがあるんだよな?」
「知覚できるかは個人の才能によるところが大きいってお師匠様が言ってたけど、あるよ?」
「それって神獣にもあると思う?」
「どうかな……ちょっとわからないかも」
そうだよな……よし神獣本人に聞いてみよう。
「フリル、今の話をちょっと亀に聞いてみてくれないか?」
「……らじゃー」
俺の言葉を受けたフリルが胸に手を当ててそっと瞳を閉じて、なにやら集中し始める。
二分ほどそうしていただろうか、フリルが目を開けてテレアに向き直る。
「……テレア、私の手を取って」
「フリルお姉ちゃんの? うん……」
フリルが両手を突き出したので、テレアが反射的にその手を取った。
「……これが神獣が持つ特有の『気』らしいけど……わかる?」
「わかるよ……凄い独特で神聖な感じがする」
どうやら俺の予想は当たっていたようだ。
これでもしかしたら、捜索が一歩前進するかもしれない!
そんなことを思っていると、テレアがフリルから手を離し俺をじっと見つめていた。
「テレア、無理のない範囲で今感じた神獣の気と似た物を探すことは出来るか?」
「あんまり広範囲では無理だけど……やれるだけやってみるね!」
そう言って目を閉じてテレアが集中し始める。
それをフリルと二人で静かに見守っていると、ふいにテレアが小さく声を上げて目を見開いた。
「見つかったのか?」
「青龍さんの核石かどうかはわからないけど、それと同じ性質を持った気なら見つかったよ」
「……さすがテレア、信じてた」
言いながらフリルがテレアの頭をなでなでしていく。
「場所わかる?」
「うん、そんなに離れてないから……こっち」
そうして俺たちはテレア先導の元、神獣と同じ気の元へと向かって行くと、ほどなくしてちょっとした人通りの少ない路地裏へとたどり着いた。
「……ここ?」
「うん……」
「見たところ何の変哲もない路地裏にしか見えないけど……本当にこんなところに?」
テレアのことを疑うわけじゃないが、こんなところにいるとは思えない。
まあテレアも昨日気功術を覚えたばかりだし、精度が高くなくても仕方ない……。
「あっ!」
突然声を上げたテレアが駆け出したので、フリルと一緒に慌てて後を追いかけていく。
建物と建物の間に辿り着いたテレアがでしゃがみ込んだので、上からその光景を見降ろすが特に何かがあるようには見えない。
「どうしたんだテレア? ここに何かあるのか?」
「うん……そのはずなんだけど……」
テレアに倣って地面をくまなく探してみるが、特にこれと言ったものは見当たらない。
だがあのテレアがここに何かがあると確信したのだ、絶対に何かしらのヒントがあるはず。
「……シューイチ、そこおかしい」
「そこ? どこ?」
フリルがとことこと歩いて行き、「そこ」と言った部分を指さす。
目を凝らしてみるが何も……待てよ?
咄嗟に思い付いた俺は魔力を活性化させて、もう一度そこへ目を凝らしてみる。
「これは……!?」
フリルの指さしたそこには魔力による隠蔽が施されていた。
なんでこんな……ってどう考えても、教団の連中が仕込んだ物だろうな……。
念の為にテレアに視線を送ると大きく頷いたので、ここで間違いみたいだ。
「見たところ何かの入り口を偽装してるわけでもなさそうだけど……よし!」
俺は魔力を活性化させたまま隠蔽された部分に手をかざし、集中し始める。
以前ドレニクの作った魔法陣を作り変える時に覚えた、魔力へ干渉し解析する術を試みる。
……そんなに難しい構成じゃないけど、魔力をコントロールできない人間じゃ違和感にすら気が付かないだろうし、俺たちみたいに魔力の扱いに長けた者でもここまで接近しないと分からない絶妙なバランスを保た隠蔽魔法だな……厄介な。
解除することも可能みたいなので、隠蔽魔法へと俺の魔力を少し潜り込ませて構成を少し弄ってやると、キンッっと小さな音を立てて、隠蔽魔法が消失した。
「お兄ちゃん、今何したの?」
「魔法に干渉して構成を書き換えて無理やり解除したんだよ。最近できるようになった」
「……シューイチやるぅ~」
なにやらフリルが肘で俺の腕をうりうりしてくる。
まあこの魔法がそんなに規模の大きい物じゃないからこそだな……これ以上に複雑な物は今の俺では全裸状態じゃないと無理だったろう。
「お兄ちゃん……これってまさか?」
隠蔽されていた場所からなにやら拾い上げたテレアが、掌に「それ」乗せて俺にわかりやすいように見せてきた。
「……神獣薬か」
三姉妹の指名手配もすでに完了しており、国家反逆を企てている犯罪人として国中に知れ渡ることとなった。
勿論この広い国を俺たち六人だけで探すのは無理があるので、城の兵士たちも総出で国中の捜索に参加してくれるらしく、はっきり言って大助かりだ。
「私たちはどこを探しましょうか?」
朝食を済ませて各々の準備を完了させた後、城門前へと集まった俺たち六人は作戦会議を始める。
現実的には六人で固まって動くのは非効率なので、チームを二つに分けることになるのだが……。
「ふっふっふ……実は我に秘策ありなんだよね!」
「本当ですか? さすがはシューイチ様ですわ!」
この方法さえ通じるなら、きっとすぐに見つかることだろう。
「どうするのお兄ちゃん?」
「朱雀でも玄武でもいいから、青龍の核石の魔力を探知してもらうんだよ? そうすればあいつらの潜伏場所なんて一発だ!」
「……亀がそれは無理だって」
……え?
「朱雀もそれは難しいと仰っておりますわね……核石の状態では大した魔力を感じられないし、この国の様々な魔力に交じってしまって居場所の特定など無理だと……」
「あちゃ~そうなんか? まあシュウのことやし、まだ何か手があるんやろ?」
「よし! チームを二つに分けてこの国をくまなく探すぞ!」
「……もうないんかい」
フリルの突っ込みと一緒に皆からの冷めた視線が俺のグサグサと突き刺さる。
くそう……この方法なら容易に探し出せると思ったのに!
「どのようにチーム分けを致しましょうか?」
「良く考えると俺たちってこの国のどこになにがあるかとかこと全然知らないし、その時点でかなり不利だよな」
「この国についてならうちが良く知っとるけど、チームを二つにわけるとなるとなぁ……」
「……この国には何度か一座の巡業で来たことがあるから、ある程度ならわかる」
「わたくしも一応この国出身ですが、あまり財閥の敷地内を出たことがないので、ほとんどなにも知らないのと同義ですわ……申し訳ありません」
「そうなるとスチカちゃんとフリルちゃんを、同じチームにしてしまうと非効率になっちゃいますね」
相談した結果、スチカチームとフリルチームにパーティーを分けることとなり、誰がどのチームに入るかを戦力が極端に偏らないように厳選に厳選を重ねた結果……。
「……シューイチ様と同じチームが良かったですわ……」
「うちかてそうや……」
「まあまあ二人とも、遊びに行くんじゃないんですから」
スチカチームには、エナとレリスが。
「二人とも、絶対にスチカチームよりも先にあいつらを見つけるぞ!」
「……やる気十分」
「えっと……どっちが先に見つけるって話だったっけ?」
フリルチームには、俺とテレア……といった感じに分配された。
全体的なバランスを考えるとこのチーム分けしか考えれない物の、俺はなんだかお守してるみたいな気分になってくるのはなんでだろう?
「お互いの通信機で最低でも一時間ごとに連絡を取り合って情報交換をしよう。もしも通信機を使ってる暇がない状態に陥った時はフリルかレリスのどちらかがそれぞれの神獣を通して救難信号を送るんだ」
「……わかった」
「了解いたしましたわ」
「ケニスさんたちの為にも必ずあの性悪三姉妹を見つけ出そう! 行くぞ皆!!」
俺のその声を合図に、いよいよグウレシア三姉妹及びカルマ教団の残党の捜索が開始されるととなった。
「美味いなこの肉まん!」
「……肉汁がたっぷりで非常にジューシー」
「えっと……あむっ……こんな呑気に肉まん食べててもいいのかな? ……もぐもぐ」
言いながらも肉まんの美味しさに逆らえず、テレアも俺たちと一緒に肉まんに被りついていた。
「俺の世界の言葉に『腹は減っては戦は出来ぬ』という言葉もあることだし、これでいいんだよ」
「……もう三時間も歩きっぱなしだったし」
フリルの言う通り、三時間ずっと探し回っていたのだから、腹ごしらえくらいはしないと倒れてしまう。
まったくと言っていいほど手がかりすら見つからず途方に暮れていたところ、肉まんを売っている屋台を見つけたので、小腹も空いていたことだし少し休憩を挟んでいるだけなのだ。
決して食べ歩きをしていたわけではないと声を大にして言いたい。
「しかし国中にあの三姉妹の指名手配のお触れが出てるはずなのに、あまり大騒ぎしてる感じがしないな?」
「ケニスお兄ちゃんの家ってこの国じゃ有名のはずだよね?」
「……基本的な危機感が足りてないのかも」
まあ日本にいた頃もテレビで事件を起こした犯人とかが逃走して自分のいる県に潜伏してる―――なんて報道されても「へーこわいなー」くらいの認識だったしなぁ……そういうところはどこの世界も変わらないんだな。
日本と言えばこの肉まん、完全に俺の知ってる味なんだよなぁ……恐らくこれもメイド・イン・スチカに違いない。
あいつはこの国の食文化にまで口出ししてるのだろうか? まるでアウトブレイクみたいだな。
「人間なんて、身近でなにか大なり小なり事件でも起こらないと「そんなことは自分には関係ない」と思っちゃうものだからある意味では仕方ないのかもな」
「……人間というのはなんとも罪深きものよ」
「フリルお姉ちゃん神様みたい」
一見すると平和なことこの上ないこの国だが、その暗部ではあの三姉妹とカルマ教団が結託して青龍の封印を解こうと画策しているのだ。
リンデフランデでは速やかに玄武を鎮めることが出来たから被害も少なくて済んだが、今回もあそこまで上手くいく保障などどこにもないのだ。
最悪今日中に見つけられなくとも、何かしらの手がかりくらいは見つけておきたい。
「そういえばテレア、昨日随分ヘロヘロになってたけど、今はもう平気なのか?」
「うん大丈夫だよ? お師匠様は見た目ちょっと乱暴な人に見えるけど、ああ見えても結構優しい人だったよ?」
優しい人なのは俺も感じたけど……お師匠様!?
「……弟子入りしたの?」
「色々と教えてくれるからテレアが勝手にそう呼ぶようにしてるだけなんけど、お師匠様には「柄じゃないからやめてくれ」って言われちゃった」
それでも止めないところがテレアクオリティだよなぁ。
「何かできるようになったのか? 手からビームとか?」
「……手からビームとか?」
「さすがにそこまでは無理だけど……体内の気の流れをコントロールすることは出来るようになったよ? お師匠様が言うにはそこが自在にできるようになれば、あとはテレアの発想自体で色々と応用を利かせられるようになるって」
「手からビーム出せるようにしようぜ!」
「……手からビーム」
「どうして二人ともそこにこだわるのかな?」
そりゃ手からビームだからな!
「そういや魔法に気の力を混ぜられるとかも言ってたよな?」
「うん。でもそれはまだ今のテレアだと負担が大きいから、どうしてもという時以外はやるなって言われっちゃった」
昨日、メイシャさんがテレアの特訓を終えた後俺のところにやって来たんだが、「面白いくらい教えたことを吸収していくから、教えるつもりもなかったことまで調子に乗って教えてしまった」と何やら楽しそうに言っていた。
昨日だけでテレアがどれだけパワーアップしたのか非常に楽しみではある。
それにしても気功か……俺もぜひとも覚えたい……ん?
「なあ、これはちょっとした疑問なんだけど、人間は誰しも気の流れってのがあるんだよな?」
「知覚できるかは個人の才能によるところが大きいってお師匠様が言ってたけど、あるよ?」
「それって神獣にもあると思う?」
「どうかな……ちょっとわからないかも」
そうだよな……よし神獣本人に聞いてみよう。
「フリル、今の話をちょっと亀に聞いてみてくれないか?」
「……らじゃー」
俺の言葉を受けたフリルが胸に手を当ててそっと瞳を閉じて、なにやら集中し始める。
二分ほどそうしていただろうか、フリルが目を開けてテレアに向き直る。
「……テレア、私の手を取って」
「フリルお姉ちゃんの? うん……」
フリルが両手を突き出したので、テレアが反射的にその手を取った。
「……これが神獣が持つ特有の『気』らしいけど……わかる?」
「わかるよ……凄い独特で神聖な感じがする」
どうやら俺の予想は当たっていたようだ。
これでもしかしたら、捜索が一歩前進するかもしれない!
そんなことを思っていると、テレアがフリルから手を離し俺をじっと見つめていた。
「テレア、無理のない範囲で今感じた神獣の気と似た物を探すことは出来るか?」
「あんまり広範囲では無理だけど……やれるだけやってみるね!」
そう言って目を閉じてテレアが集中し始める。
それをフリルと二人で静かに見守っていると、ふいにテレアが小さく声を上げて目を見開いた。
「見つかったのか?」
「青龍さんの核石かどうかはわからないけど、それと同じ性質を持った気なら見つかったよ」
「……さすがテレア、信じてた」
言いながらフリルがテレアの頭をなでなでしていく。
「場所わかる?」
「うん、そんなに離れてないから……こっち」
そうして俺たちはテレア先導の元、神獣と同じ気の元へと向かって行くと、ほどなくしてちょっとした人通りの少ない路地裏へとたどり着いた。
「……ここ?」
「うん……」
「見たところ何の変哲もない路地裏にしか見えないけど……本当にこんなところに?」
テレアのことを疑うわけじゃないが、こんなところにいるとは思えない。
まあテレアも昨日気功術を覚えたばかりだし、精度が高くなくても仕方ない……。
「あっ!」
突然声を上げたテレアが駆け出したので、フリルと一緒に慌てて後を追いかけていく。
建物と建物の間に辿り着いたテレアがでしゃがみ込んだので、上からその光景を見降ろすが特に何かがあるようには見えない。
「どうしたんだテレア? ここに何かあるのか?」
「うん……そのはずなんだけど……」
テレアに倣って地面をくまなく探してみるが、特にこれと言ったものは見当たらない。
だがあのテレアがここに何かがあると確信したのだ、絶対に何かしらのヒントがあるはず。
「……シューイチ、そこおかしい」
「そこ? どこ?」
フリルがとことこと歩いて行き、「そこ」と言った部分を指さす。
目を凝らしてみるが何も……待てよ?
咄嗟に思い付いた俺は魔力を活性化させて、もう一度そこへ目を凝らしてみる。
「これは……!?」
フリルの指さしたそこには魔力による隠蔽が施されていた。
なんでこんな……ってどう考えても、教団の連中が仕込んだ物だろうな……。
念の為にテレアに視線を送ると大きく頷いたので、ここで間違いみたいだ。
「見たところ何かの入り口を偽装してるわけでもなさそうだけど……よし!」
俺は魔力を活性化させたまま隠蔽された部分に手をかざし、集中し始める。
以前ドレニクの作った魔法陣を作り変える時に覚えた、魔力へ干渉し解析する術を試みる。
……そんなに難しい構成じゃないけど、魔力をコントロールできない人間じゃ違和感にすら気が付かないだろうし、俺たちみたいに魔力の扱いに長けた者でもここまで接近しないと分からない絶妙なバランスを保た隠蔽魔法だな……厄介な。
解除することも可能みたいなので、隠蔽魔法へと俺の魔力を少し潜り込ませて構成を少し弄ってやると、キンッっと小さな音を立てて、隠蔽魔法が消失した。
「お兄ちゃん、今何したの?」
「魔法に干渉して構成を書き換えて無理やり解除したんだよ。最近できるようになった」
「……シューイチやるぅ~」
なにやらフリルが肘で俺の腕をうりうりしてくる。
まあこの魔法がそんなに規模の大きい物じゃないからこそだな……これ以上に複雑な物は今の俺では全裸状態じゃないと無理だったろう。
「お兄ちゃん……これってまさか?」
隠蔽されていた場所からなにやら拾い上げたテレアが、掌に「それ」乗せて俺にわかりやすいように見せてきた。
「……神獣薬か」
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ー---
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第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
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