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気功~弱すぎる意識~
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名案を思い付いた俺は早速実行に移すべく、遠く離れた給仕係と連絡を取ることにする。
『シエルー聞こえるー?』
『……はっ!? 寝てましぇんよ!?』
絶対寝てたなこの野郎。
『お 忙 し い と こ ろ 、非常に申し訳ないんだけど』
『なんでお忙しいところを強調したんですか? まあいいですけど……仕事ならちゃんとやってますよー? ていうか宗一さん現状を逐一報告するって言って全然報告してこないじゃないですか!』
念話開始早々いきなり怒られた。なんだろう、カルシウムが足りてないのかな?
『いやまあ、こっちもやんごとなき事情があってさ……それよりも聞きたいことがあるんだけど』
『スリーサイズなら事務所を通してください』
『はっ!』
『鼻で笑った!? こう見えても私結構着やせするタイプなんですよ!? 胸だってコンパクトに収まってるように見えますが実際は……!』
『シエルのスリーサイズなんてどうでもいいよ。それより聞きたいことがあるんだけど』
シエルと話をすると必ず一回はどうでもいい話題で脱線するので軌道修正するのが大変である。
『どうでもいいですか……えっと、何か真面目な相談なんですか?』
『俺が持ってるシエルと念話出来る宝玉があるじゃん? あれって俺以外の人が使ってもシエルと念話出来るようになるのかな?』
『出来ますよ? ただし相手が私じゃないと効果を発揮しないですけどね』
つまるところシエル直通の内線電話みたいな物なのか。
とにかく、これなら俺の思っていることも可能みたいなので、ちょっと面倒くさいプロセスが必要になるが早速実行に移そう。
『じゃあさ後でレリスと代わるから、今から伝えることをレリスに念話で伝えてあげてほしいんだ』
『……なんか回りくどいことしますね? 他人に聞かれるとまずい話なんですか?』
『こっちの事情でいつどこで重要な情報が漏れるかわからない状況なんだよ……そんじゃ言うぞ?』
そんなわけで『例の件』を念話を通してシエルに伝えていく。
内容もそんなに難しい話じゃないので、捻じ曲がってレリスに伝わることはないだろうけども……シエルのことだし心配だ。
『……ってわけだ。今俺が伝えたことを一語一句正確にレリスに伝えるように』
『はあ……なんだか面倒くさいことになってますねぇ』
『元はと言えばお前さんが持ち込んできた厄介事だからな? これ言うとシエルが泣いちゃうから俺の心の中に留めておくけど』
『宗一さんってほんといい性格してますよねぇ』
よせよ、照れるだろ。
『それじゃレリスに宝玉渡しておくから、五分くらいしたらそっちからレリスに念話を飛ばしてやってくれ?』
『はーい』
シエルとの念話を終えて、大きく息を吐きだす。
あいつと会話してるとなんていうか、精神的に疲れる。
「長々と黙ってましたけど、もしかしてシエルさんと念話してました?」
「わかった?」
「シューイチさんとの付き合いもそれなりに長くなってきましたからね……それで、なにかいい案でも思いついたんですか?」
さすがエナだ……最初からがっつり俺たちに関わってしまっているだけのことはある。
「まあね……レリスちょっといいかな?」
そう言いながら、まだフリルに支えられたレリスの元に歩いて行く。
表情を見ると明らかに憔悴しきっている……無理もないよな、ずっと自分の世話を焼いていてくれた人がまさかの敵だったんだから……。
ってちょっと待てよ? 今この状態のレリスに「例の件」を伝えるのか? それってある意味追撃ダメージにならないか?
とはいえいつかは伝えないといけない問題だし……聞くだけは聞いてみよう。
「どうしましたシューイチ様?」
「今からどうしてもレリスに伝えないといけないことを、シエルから伝えてもらうんだけど……大丈夫かな?」
「……わたくしのメンタルを心配してくださっているのですね? 大丈夫ですわ、もうここまで来たのですから何を聞いても驚きません」
「……わかった。それじゃあこの宝玉を持って?」
シエルと念話の出来る宝玉をレリスにそっと手渡す。
「今から3分後くらいに誰かさんから念話が飛んでくるだろうから、その話をよく聞いておいてくれ」
「念話……なるほど、これでシューイチ様はシエルさんと連絡を取り合っていたのですね……」
使い方を軽くレクチャーして準備完了だ。
あと1分くらいしたらレリスにシエルからの念話が飛んでくるはずだ。
「さて……私たちは王様に謁見してきます」
「今回の件をどうするかを話し合わないといけないしな」
「そんじゃうちが付いてったるわ。まあケニスが来ることは王様には伝えてあるから」
どうやらスチカとケニスさんとティニアさんの三人は、王様に謁見してくるようだ。
「レリス、あなたは少し休んでいなさい? ハヤマさんの前でそんな顔をしていてはみっともないわよ?」
「お姉様……心遣い感謝しますわ」
付いて行こうとしたレリスを、ティニアさんがやんわりと制止した。
そんなやり取りの後、三人は王様と話し合いをすべく謁見の間へと向かっていった。
俺も付いて行こうかと思ったけど、あとでケニスさんたちからどうなったのかを聞けばいいかと思い、俺は別に気になっていることへと意識を向ける。
「……そういえばテレアは?」
「先程から姿を見せませんが……まさか何かあったのでは?」
レリスとフリルの二人がこの場にいないテレアのことにようやく気が付いたらしく、周りをきょろきょろと見回す。
何かあったというか……絶賛何か起こってる最中というか……。
俺もその件で気になってることがあるし、丁度いい機会だしレリスとフリルもあの人に紹介しておこう。
「テレアはこのお城の訓練場にいるはずだから、みんなで見に行くか」
訓練場に着くまでの間城の様子をさりげなく観察していたが、どうやらドレニクの魔法で昏睡させられていた人たちも無事に目を覚ましているようだ。
エナ曰く「命に別状はない」とのことだったので一安心だ。
これが昏睡魔法じゃなくて毒魔法とかだったら、恐らく城の人間は誰一人として生きていなかっただろうと付け加えられたエナのその言葉に、俺は背筋が寒くなった。
ドレニクがそこまで非情な奴じゃなくてよかった……まあ城の人間を全員殺したなんてなったら青龍の核石どころじゃないもんな。
そんなことを思いながら歩いて行くと、ほどなくして訓練場へとたどり着いた。
先ほどの昏睡魔法の影響か、今この訓練場には二人しかおらず、その一人は俺たちの仲間であるところのテレア他ならない。
そしてもう一人はというと……。
「いいか? まずは身体の中にある魔力ではない「気」を感じ取るんだ」
「えっと……こうかな?」
「違うそれは魔力だ! いったん魔力の存在から離れて別の何かを感じ取って見ろ!」
「ううぅ……」
可哀そうに……テレアの奴涙目になってるじゃないか。
そんな今まで気にも留めなかったであろう「気」なんて概念をいきなり理解しろとか言われても、無理だと思うんだがなぁ……。
「ん? 来たかシューイチ、お前にも教えてやるからこっちに来るんだ」
「教わっておきたいのは山々なんですけど、俺こう見えてやることいっぱいあるんですよ……」
だって手からビーム出したんだぜ? そんなことが出来るようになるならぜひとも教わりたいじゃん!?
でも見たところテレアでさえ習得するのに難儀してるようだし、凡人である俺がそれを習得するのにどれだけ掛かるか……。
「あの、シューイチ様この方は?」
「俺たちが危ないところを助けてくれた、メイシャ=ハラードさんだ」
「ああ、この御方がそうでしたか」
「……手からビームの人」
フリルのその言葉に反応して、メイシャさんがフリルに振り向いた。
「お前は、たしかあの一座の……どうしてこんなところにいるんだ?」
「……色々とありまして」
「まあいい……それよりもあの娘だ。あいつは本当にあのシルクスたちの娘なのか?」
「正真正銘あの二人の娘ですよ」
「それにしてはあまりにも覇気が足らん……あの様子で良く今まで戦ってこれた物だな?」
そんなあなた……まだ12歳の子供に何を求めてるんだよ……。
へたり込んでしまっているテレアがちょっと可哀そうなので、慰めるようと思って近づいていく。
「テレア、大丈夫か?」
「おっ……お兄ちゃん……」
レリスとは別の意味で憔悴しきってるなこれは。
額には玉のような汗が滲んでいるし、肩で息もしてて辛そうだ……俺たちのいなかった小一時間ほどで何があったんだろうか?
「戦いに関するセンスについては天性の物を持ってるが、それを扱うための意志があまりにも弱すぎる。それではお前の力を半分も引き出せないぞ?」
「……うう」
「もしもお前に今よりももっと戦う意志があれば、先程のような亀なんぞ退けられたはずだ? このままだとお前は死ぬぞ?」
へたり込んでいるテレアに対し、追い打ちをかけるようにメイシャさんが言葉を浴びせていく。
「テレアは……」
「お前の両親はさぞ優しかったんだろうな? そしてお前らの仲間であるこいつらもな……だがその優しさに溺れるな! それではお前が本当に守りたいと思っているものすら守れずお前は死ぬぞ?」
「……お兄ちゃん」
なんでそこで俺のことが出てきますか?
なんてことを聞く空気じゃないので俺は黙って成り行きを見守っていく。
「これでもまだ火が付かないのか……仕方ないな」
そう言ったメイシャさんが身体に力を入れると、例の気功術とやらで身体が薄く発光し始める。
そしてこともあろうに、俺に向けて今にも殺すと言わんばかりの殺気を向けてきた。
え、何!? すっげー怖いんだけど? ていうかなんで俺に殺気を向けられる展開になってるの!?
「悪く思うな?」
そのまま物凄い殺気を発したまま俺へずんずんとメイシャさんが距離を詰めてくる。
その異常な光景にエナもレリスも思わず止めに入ろうとするが、メイシャさんに一睨みされただけで、石のように硬直してその場から動けなくなった。
恐怖を感じた俺は腰の剣に手を掛けるが、その動きに瞬時に反応したメイシャさんが目にもとまらぬスピードで俺に接近し、剣を抜こうとした俺の手を止めた。
「あいつの為に犠牲になってくれ」
あまりにもドスの聞いたその声に、今まで感じたこともない恐怖の感情が俺の全身を支配し、声すら出すことを許さなかった。
そのままメイシャさんの手が俺の首へと伸びていき……。
「ダメっ!!!」
まるで弾丸のようにテレアが飛んできて、メイシャさんに拳を突き立てるが、人工神獣戦の時に見せたあの結界のようなものに弾かれて、テレアが地面に尻もちをついた。
「私を止めたかったら、魔力でなく体内の気の力をコントロールしろ! じゃないとこの気の結界はやぶれんぞ?」
テレアにそう言いながらメイシャさんの手が俺の首をがっしりと掴み、そのまま力任せに宙に持ち上げていく。
まじか!? 息ができ……この人俺のこと本気で殺すつもりなのか!? 無茶苦茶すぎるだろ!?
「て……てれ……あ……」
あっ……やべ……段々意識が……。
「お兄ちゃん!!!」
薄れていく意識の中で、テレアの身体がメイシャさんと同じように薄い光に包まれる光景を見た気がした。
「シューイチ様!!」
レリスの必死の呼びかけに、目を覚ます。
見ると、テレアとメイシャさんを除いた全員が俺の顔を覗き込んでいた。
あれ? 俺はなにをしてたんだっけ?
「よかった……目を覚まされましたのね!」
「そうか、俺メイシャさんに首絞められて……あっ、テレアは!?」
まだ少し重たい身体を無理やり立たせて周囲を見回すと、メイシャさんが腕を組みながら立っていて、その視線の先には地面に大の字になって倒れているテレアがいた。
「今のが気功術を使うための基礎中の基礎だ。感覚はつかめたか?」
「はあ……はあ……」
「しかしここまでしてようやくか……まずはお前の意識改革から始めていかないといつまでたっても基礎からは進めないだろうな」
そのあまりの言い草にさすがのエナがカチンときたのか、立ち上がりメイシャさんへと詰め寄っていく。
「いくら何でもやりすぎです!! テレアちゃんはおろかシューイチさんを殺す気ですか!!」
「……何か誤解してるようだがこれは……」
メイシャさんがそこまで言いかけた途端、テレアがよろよろと立ち上がる。
「大丈夫……エナお姉ちゃん……これはテレアがお願いした……ことだから」
「……そういうことだ」
そうなのだ、この一件無茶ともとれるこの訓練はテレアがメイシャさんに直接頼んだことなのだ。
『シエルー聞こえるー?』
『……はっ!? 寝てましぇんよ!?』
絶対寝てたなこの野郎。
『お 忙 し い と こ ろ 、非常に申し訳ないんだけど』
『なんでお忙しいところを強調したんですか? まあいいですけど……仕事ならちゃんとやってますよー? ていうか宗一さん現状を逐一報告するって言って全然報告してこないじゃないですか!』
念話開始早々いきなり怒られた。なんだろう、カルシウムが足りてないのかな?
『いやまあ、こっちもやんごとなき事情があってさ……それよりも聞きたいことがあるんだけど』
『スリーサイズなら事務所を通してください』
『はっ!』
『鼻で笑った!? こう見えても私結構着やせするタイプなんですよ!? 胸だってコンパクトに収まってるように見えますが実際は……!』
『シエルのスリーサイズなんてどうでもいいよ。それより聞きたいことがあるんだけど』
シエルと話をすると必ず一回はどうでもいい話題で脱線するので軌道修正するのが大変である。
『どうでもいいですか……えっと、何か真面目な相談なんですか?』
『俺が持ってるシエルと念話出来る宝玉があるじゃん? あれって俺以外の人が使ってもシエルと念話出来るようになるのかな?』
『出来ますよ? ただし相手が私じゃないと効果を発揮しないですけどね』
つまるところシエル直通の内線電話みたいな物なのか。
とにかく、これなら俺の思っていることも可能みたいなので、ちょっと面倒くさいプロセスが必要になるが早速実行に移そう。
『じゃあさ後でレリスと代わるから、今から伝えることをレリスに念話で伝えてあげてほしいんだ』
『……なんか回りくどいことしますね? 他人に聞かれるとまずい話なんですか?』
『こっちの事情でいつどこで重要な情報が漏れるかわからない状況なんだよ……そんじゃ言うぞ?』
そんなわけで『例の件』を念話を通してシエルに伝えていく。
内容もそんなに難しい話じゃないので、捻じ曲がってレリスに伝わることはないだろうけども……シエルのことだし心配だ。
『……ってわけだ。今俺が伝えたことを一語一句正確にレリスに伝えるように』
『はあ……なんだか面倒くさいことになってますねぇ』
『元はと言えばお前さんが持ち込んできた厄介事だからな? これ言うとシエルが泣いちゃうから俺の心の中に留めておくけど』
『宗一さんってほんといい性格してますよねぇ』
よせよ、照れるだろ。
『それじゃレリスに宝玉渡しておくから、五分くらいしたらそっちからレリスに念話を飛ばしてやってくれ?』
『はーい』
シエルとの念話を終えて、大きく息を吐きだす。
あいつと会話してるとなんていうか、精神的に疲れる。
「長々と黙ってましたけど、もしかしてシエルさんと念話してました?」
「わかった?」
「シューイチさんとの付き合いもそれなりに長くなってきましたからね……それで、なにかいい案でも思いついたんですか?」
さすがエナだ……最初からがっつり俺たちに関わってしまっているだけのことはある。
「まあね……レリスちょっといいかな?」
そう言いながら、まだフリルに支えられたレリスの元に歩いて行く。
表情を見ると明らかに憔悴しきっている……無理もないよな、ずっと自分の世話を焼いていてくれた人がまさかの敵だったんだから……。
ってちょっと待てよ? 今この状態のレリスに「例の件」を伝えるのか? それってある意味追撃ダメージにならないか?
とはいえいつかは伝えないといけない問題だし……聞くだけは聞いてみよう。
「どうしましたシューイチ様?」
「今からどうしてもレリスに伝えないといけないことを、シエルから伝えてもらうんだけど……大丈夫かな?」
「……わたくしのメンタルを心配してくださっているのですね? 大丈夫ですわ、もうここまで来たのですから何を聞いても驚きません」
「……わかった。それじゃあこの宝玉を持って?」
シエルと念話の出来る宝玉をレリスにそっと手渡す。
「今から3分後くらいに誰かさんから念話が飛んでくるだろうから、その話をよく聞いておいてくれ」
「念話……なるほど、これでシューイチ様はシエルさんと連絡を取り合っていたのですね……」
使い方を軽くレクチャーして準備完了だ。
あと1分くらいしたらレリスにシエルからの念話が飛んでくるはずだ。
「さて……私たちは王様に謁見してきます」
「今回の件をどうするかを話し合わないといけないしな」
「そんじゃうちが付いてったるわ。まあケニスが来ることは王様には伝えてあるから」
どうやらスチカとケニスさんとティニアさんの三人は、王様に謁見してくるようだ。
「レリス、あなたは少し休んでいなさい? ハヤマさんの前でそんな顔をしていてはみっともないわよ?」
「お姉様……心遣い感謝しますわ」
付いて行こうとしたレリスを、ティニアさんがやんわりと制止した。
そんなやり取りの後、三人は王様と話し合いをすべく謁見の間へと向かっていった。
俺も付いて行こうかと思ったけど、あとでケニスさんたちからどうなったのかを聞けばいいかと思い、俺は別に気になっていることへと意識を向ける。
「……そういえばテレアは?」
「先程から姿を見せませんが……まさか何かあったのでは?」
レリスとフリルの二人がこの場にいないテレアのことにようやく気が付いたらしく、周りをきょろきょろと見回す。
何かあったというか……絶賛何か起こってる最中というか……。
俺もその件で気になってることがあるし、丁度いい機会だしレリスとフリルもあの人に紹介しておこう。
「テレアはこのお城の訓練場にいるはずだから、みんなで見に行くか」
訓練場に着くまでの間城の様子をさりげなく観察していたが、どうやらドレニクの魔法で昏睡させられていた人たちも無事に目を覚ましているようだ。
エナ曰く「命に別状はない」とのことだったので一安心だ。
これが昏睡魔法じゃなくて毒魔法とかだったら、恐らく城の人間は誰一人として生きていなかっただろうと付け加えられたエナのその言葉に、俺は背筋が寒くなった。
ドレニクがそこまで非情な奴じゃなくてよかった……まあ城の人間を全員殺したなんてなったら青龍の核石どころじゃないもんな。
そんなことを思いながら歩いて行くと、ほどなくして訓練場へとたどり着いた。
先ほどの昏睡魔法の影響か、今この訓練場には二人しかおらず、その一人は俺たちの仲間であるところのテレア他ならない。
そしてもう一人はというと……。
「いいか? まずは身体の中にある魔力ではない「気」を感じ取るんだ」
「えっと……こうかな?」
「違うそれは魔力だ! いったん魔力の存在から離れて別の何かを感じ取って見ろ!」
「ううぅ……」
可哀そうに……テレアの奴涙目になってるじゃないか。
そんな今まで気にも留めなかったであろう「気」なんて概念をいきなり理解しろとか言われても、無理だと思うんだがなぁ……。
「ん? 来たかシューイチ、お前にも教えてやるからこっちに来るんだ」
「教わっておきたいのは山々なんですけど、俺こう見えてやることいっぱいあるんですよ……」
だって手からビーム出したんだぜ? そんなことが出来るようになるならぜひとも教わりたいじゃん!?
でも見たところテレアでさえ習得するのに難儀してるようだし、凡人である俺がそれを習得するのにどれだけ掛かるか……。
「あの、シューイチ様この方は?」
「俺たちが危ないところを助けてくれた、メイシャ=ハラードさんだ」
「ああ、この御方がそうでしたか」
「……手からビームの人」
フリルのその言葉に反応して、メイシャさんがフリルに振り向いた。
「お前は、たしかあの一座の……どうしてこんなところにいるんだ?」
「……色々とありまして」
「まあいい……それよりもあの娘だ。あいつは本当にあのシルクスたちの娘なのか?」
「正真正銘あの二人の娘ですよ」
「それにしてはあまりにも覇気が足らん……あの様子で良く今まで戦ってこれた物だな?」
そんなあなた……まだ12歳の子供に何を求めてるんだよ……。
へたり込んでしまっているテレアがちょっと可哀そうなので、慰めるようと思って近づいていく。
「テレア、大丈夫か?」
「おっ……お兄ちゃん……」
レリスとは別の意味で憔悴しきってるなこれは。
額には玉のような汗が滲んでいるし、肩で息もしてて辛そうだ……俺たちのいなかった小一時間ほどで何があったんだろうか?
「戦いに関するセンスについては天性の物を持ってるが、それを扱うための意志があまりにも弱すぎる。それではお前の力を半分も引き出せないぞ?」
「……うう」
「もしもお前に今よりももっと戦う意志があれば、先程のような亀なんぞ退けられたはずだ? このままだとお前は死ぬぞ?」
へたり込んでいるテレアに対し、追い打ちをかけるようにメイシャさんが言葉を浴びせていく。
「テレアは……」
「お前の両親はさぞ優しかったんだろうな? そしてお前らの仲間であるこいつらもな……だがその優しさに溺れるな! それではお前が本当に守りたいと思っているものすら守れずお前は死ぬぞ?」
「……お兄ちゃん」
なんでそこで俺のことが出てきますか?
なんてことを聞く空気じゃないので俺は黙って成り行きを見守っていく。
「これでもまだ火が付かないのか……仕方ないな」
そう言ったメイシャさんが身体に力を入れると、例の気功術とやらで身体が薄く発光し始める。
そしてこともあろうに、俺に向けて今にも殺すと言わんばかりの殺気を向けてきた。
え、何!? すっげー怖いんだけど? ていうかなんで俺に殺気を向けられる展開になってるの!?
「悪く思うな?」
そのまま物凄い殺気を発したまま俺へずんずんとメイシャさんが距離を詰めてくる。
その異常な光景にエナもレリスも思わず止めに入ろうとするが、メイシャさんに一睨みされただけで、石のように硬直してその場から動けなくなった。
恐怖を感じた俺は腰の剣に手を掛けるが、その動きに瞬時に反応したメイシャさんが目にもとまらぬスピードで俺に接近し、剣を抜こうとした俺の手を止めた。
「あいつの為に犠牲になってくれ」
あまりにもドスの聞いたその声に、今まで感じたこともない恐怖の感情が俺の全身を支配し、声すら出すことを許さなかった。
そのままメイシャさんの手が俺の首へと伸びていき……。
「ダメっ!!!」
まるで弾丸のようにテレアが飛んできて、メイシャさんに拳を突き立てるが、人工神獣戦の時に見せたあの結界のようなものに弾かれて、テレアが地面に尻もちをついた。
「私を止めたかったら、魔力でなく体内の気の力をコントロールしろ! じゃないとこの気の結界はやぶれんぞ?」
テレアにそう言いながらメイシャさんの手が俺の首をがっしりと掴み、そのまま力任せに宙に持ち上げていく。
まじか!? 息ができ……この人俺のこと本気で殺すつもりなのか!? 無茶苦茶すぎるだろ!?
「て……てれ……あ……」
あっ……やべ……段々意識が……。
「お兄ちゃん!!!」
薄れていく意識の中で、テレアの身体がメイシャさんと同じように薄い光に包まれる光景を見た気がした。
「シューイチ様!!」
レリスの必死の呼びかけに、目を覚ます。
見ると、テレアとメイシャさんを除いた全員が俺の顔を覗き込んでいた。
あれ? 俺はなにをしてたんだっけ?
「よかった……目を覚まされましたのね!」
「そうか、俺メイシャさんに首絞められて……あっ、テレアは!?」
まだ少し重たい身体を無理やり立たせて周囲を見回すと、メイシャさんが腕を組みながら立っていて、その視線の先には地面に大の字になって倒れているテレアがいた。
「今のが気功術を使うための基礎中の基礎だ。感覚はつかめたか?」
「はあ……はあ……」
「しかしここまでしてようやくか……まずはお前の意識改革から始めていかないといつまでたっても基礎からは進めないだろうな」
そのあまりの言い草にさすがのエナがカチンときたのか、立ち上がりメイシャさんへと詰め寄っていく。
「いくら何でもやりすぎです!! テレアちゃんはおろかシューイチさんを殺す気ですか!!」
「……何か誤解してるようだがこれは……」
メイシャさんがそこまで言いかけた途端、テレアがよろよろと立ち上がる。
「大丈夫……エナお姉ちゃん……これはテレアがお願いした……ことだから」
「……そういうことだ」
そうなのだ、この一件無茶ともとれるこの訓練はテレアがメイシャさんに直接頼んだことなのだ。
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