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隠蔽~あの人はずっと見ていた~

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 地下室での騒動がひと段落した後、俺たちはスチカの後を付いて行く形で王室へと再び足を運んでいく。

「ティア!無事だったか!」
「お父様!!」

 部屋に入るなり互いの無事な姿を確認した二人が、共に抱きしめあい無事を確かめあう。

「ティアを助けてくれてありがとう!感謝してもしきれないよ!」
「それはそれとして……王様に謝らないといけないことがあって……」

 そうして俺はこの城の地下で起こった出来事を細かく説明していく。
 それを聞いていく王様の表情が少しずつ険しい物へと変わっていくのを見て、俺たちが守るもののできなった物がどれだけ重大なものだったのか、今更ながらに身に染みてくる。

「そうか……青龍の核石は奪われてしまったのか」
「ごめんなさい、守り切れませんでした」
「いや、ティアが無事だったんだ。それだけでも嬉しいよ」

 そう言って王様が薄く微笑んだ。
 ソニアさんの乱入は完全に予想外だったものの、結果的には完全に俺たちの負けだった。
 
「しかしわからんなぁ……どうしてあいつらはあそこに青龍の核石があることを知ってたんや? どこから情報漏れたんやろな?」
「違いますよスチカちゃん、漏れたんじゃなくて見られていたんです」
「見られてた……?」

 訝しげに眉を寄せるスチカに、エナが大きく頷いた。
 どうやらエナも俺と同じ結論に行きついているようだ。

「どういうことなのかな?」
「俺たちはこの国に着いてから……もっと突き詰めるとエルサイムを出発した時からずっと見られてたってことなんだよ」
「見られてたって……もしかして!」

 さすがのテレアも気が付いたようだ。
 先の地下室での戦いを思い返すと、あまりにも乱入してくるタイミングが適切だった。
 完全にこちらに勝ちが傾いた瞬間に出てきたからな……。

 そう、俺たちはソニアさんにずっと監視されていたんだ。

「そんな……どうしてソニアお姉ちゃんが」
「俺も完全に油断してたよ……あの人が「先にアーデンハイツに戻る」ってわざわざ俺に言いに来たから完全にそれを鵜呑みにしてしまった」
「でもちょい待ち? テレアはなんや感覚を強化して隠れてる相手とか見つけられるんやろ? それならテレアが気が付かんのはおかしいとちゃうか?」
「簡単なことですよ? あの人はテレアちゃんですら欺けるほど気配を隠すのが得意なんですよ」

 まさしくエナの言う通りだ。
 現にあの人が自発的に俺たちの前に姿を現すまでテレアだって気が付かなかったんだから。
 ソニアさんはその持ち前の高い隠密能力にて、ずっと俺たちを監視していたのだ。
 それこそ俺たちがこの国の地下の核石の安置されている部屋に行った時もだし、王様と秘密の話をしていた時もだ。
 これについては隠れている相手がいてもテレアが見つけ出してくれる……と高を括っていた俺にも責任がある……反省しなければいけない。

「すまないがどういうことか説明してくれないかな?」

 王様が小さく手を挙げて、自分にもわかるように説明をしてほしいと言ってきた。
 そんなわけで今度はソニアさんについて俺たちの知っている情報を王様に伝えていく。

「表向きはエレニカ財閥の人間で、裏でグウレシア家ないしカルマ教団と繋がっているかもしれないか……」
「予想の域を出ませんが、恐らく間違いですね」

 まったくもって気が重い。何が重いって裏切られたこともそうだけど、この事実をレリスに伝えないといけないのが何よりも辛い。
 折角ティニアさんとのわだかまりも解けたばかりだというのに……。

「とりあえず今日中に国中にお触れを出さなといけないな……」
「王様そのことなんですが、あともう少しだけ待っていただけませんか? この後グウレシア家の代表であるケニスさんが来ることになってまして……」
「彼が来るのか? ……彼には悪いが仕出かした事が事だからな……彼個人はとても良くできた人間だが周りがアレではな……」

 まったくもってその通りだ。
 これからティニアさんと結婚して、両家を大きくしていきたいと言っていた矢先だからなぁ……。
 とりあえずはこちらに向かってるはずのレリスとケニスさんたちの到着を一旦待って、それから話し合うということでなったので、俺たちは客室へと足を運び戦いで疲れた身体を休めようということになった。

「やっと来たか」

 客室の中には、ソファにどかっと腰を下ろしていたメイシャさんが座っていた。
 そう言えばこの人のことすっかり忘れてたな……。

「いちおう私はこの国のギルド依頼ということでここに駆け付けたことになっている。その依頼を出した本人から依頼達成の報酬を受け取らないと帰るに帰れん」
「そういやそうやったな……まあ今回は緊急事態やったしうちのポケットマネーから出すわ。それでええか?」
「ああ、それで構わん。……それからお前」
「俺ですか?」

 間抜けな返事を返した俺に対し、メイシャさんが頷いた。

「ルカーナに言われて私に会いに来るつもりだったと言ってたな? どういうことか説明しろ」
「どういうことも何も、この国に来るならメイシャさんを頼れと言われたからなんですが……ああ、あと!」

 そう言ってテレアを手招きして俺の前に立たせた。

「この子を必ず会わせろと念を押されたので」
「……なるほどな」

 いったい何に対しての「なるほど」なのかもうちょっと詳しく話してもらえるとありがたいんだけどなぁ……ほらテレアだってわけがわからないって顔してるんじゃん。

「もう一度聞くが、お前はあのシルクス夫妻の娘なんだな?」
「うん……」

 どうでもいいけどなんでこの人いちいち凄みながら話しかけてくるんだ? 隙を見せると死んじゃう病気なのか?

「……お前、これが見えるか?」

 そう言ってメイシャさんがなにやら全身に力を入れると、先程と同じように体が薄く発光し始めた。
 そのメイシャさんを見て、テレアが小さく頷いた。

「……あの人何かやってるんですか?」

 どうやらエナには見えてないみたいだ。

「これが見えるならお前には素質があるんだろうな……まったくあのキザはこういう面倒を私に押し付けてくるなよ……」
「あの……そのメイシャさんの身体が光ってるのが見えるとなにかあるんですか?」
「お前にも見えるのか!?」

 メイシャさんが驚きで目を見開きながら俺を見てくる。
 え? そんなに珍しいことなの!?

「……くくく……面白いじゃないか! これだけで今日ここに来た甲斐が少しはあったな!」

 何が嬉しいのか突然笑い出したメイシャさんが、立ち上がって俺たちの元へと歩いてきた。
 そして俺とテレアの顔を見ながらニヤリと笑って―――

「お前たち、気功術を覚える気はないか?」

 と言ってきたのだ。




「シューイチ様、お待たせしましたわ」
「……やっと来た」
「遅くなってすまない! 状況は先程レリスを通して聞いたが、大変だったらしいね」

 先ほどレリスには軽くだが城で何かあったのかを通信機で伝えておいた。
 ケニスさんの様子を見るにどうやら全員に伝わっているようだ。

「それでシューイチ様、ソニアさんが私たちを裏切っていたという話ですが……」
「まあうん……信じたくないだろうけど……」
「そんな……信じられません!」

 レリスが青い顔をしながら否定するように叫んだ。
 そのレリスの雰囲気に思わず言葉が詰まる。

「レリス、まずは詳しい話を聞きましょう? 物事を決めるときはもっと冷静になって私情を挟まないようにと教えたでしょう?」

 そう言いながらレリスたちの後ろから姿を現したのは、ティニアさんだった。
 落ち着いた声で窘められたレリスが、力なく頷く。

「ティニアさんも来てくれたんですね?」
「ええ、なにやら緊急事態らしかったので……聞けばソニアさんも関わっているとのことですから、エレニカ財閥も無関係とは行きません」

 レリスがどう思っていても、実際にソニアさんがあいつらに協力しているところを、俺たちはこの目で見てるからな。レリスには辛いだろうが、これはもう無視できない問題だ。

「聞けば僕の妹の一人まで関わっているそうじゃないか……一体何でこんなことに……」

 そりゃあ仲は良くなかったとはいえ、身内が国家反逆に等しい行為に加担してるなんて知ったら穏やかじゃいられないよな。その本人は兄であるケニスさんを貶していたけどね。

「教団の幹部の一人に「ロイ=マフロフ」という男がいます。恐らくその男に洗脳されている可能性が高いかもしれません」
「あの口ぶりだと他の二人の姉たちもロイにかどわかされてそうだよな?」

 俺のその言葉に苦虫を噛みつぶしたようなエナが小さく頷いた。

「シューイチさんの言う通りです。ケニスさんの心中は察しますが、そのつもりでいた方がいいと思います」
「いや……下手に気遣われるよりは全然いいよ……前々から何かこそこそとしていると思っていたが、まさかこんなことを企んでいたなんて」

 ケニスさんが大きくため息を吐いた。この人も大概苦労人だよなぁ……。
 ……そうだ! ソニアさんのことでティニアさんに話しておかないと!

「ティニアさん、前にあなたの振りしてソニアさんに指示を出した誰かがいるってかもって話しましたよね? その犯人がわかりました」
「私も今回の件を聞いてピンときました。ソニアさんですよね?」

 さすが話が早い。

「シューイチ様……?」
「厳密には、そんな指示を出した奴なんか存在しないんだよ。だってすべてはあの人の虚言なんだから」
「ソニアさんはお父様にも確認したと言っていた……と聞いたのでその事実をお父様に確認したところそんな連絡は受けてないと……」
「そんな……」

 どんどん明かされる衝撃的な事実に、ついにレリスが立っていられなくなるほど足に力が入らなくなったらしく、ふらっとよろけて倒れそうになるも、隣にいたフリルがそっとレリスを支えたことで事なきを得た。

「……レリっち大丈夫?」
「ええ……ありがとうございます、フリルちゃん」

 そんなレリスの様子を少し心配そうに見ながらも、ティニアさんはさらに言葉を続けていく。

「皆さんが帰った後、私もソニアさんに通信機で連絡を取ろうと思ったのですが、通信を無視されてしまいましたから、その時点で怪しいと思っていましたが」

 なんかこの人俺とやることが似通ってるな……そういえばケニスさんが俺とティニアさんは似てるみたいなこと言ってたっけ。
 しかしそれはそれとして、どうしてソニアさんはまるでレリスを財閥に戻らせるようなことをしたんだろう?
 あの人がグウレシア家とカルマ教団と裏でつながっていることが分かった今、考えられるその理由は青龍の復活にレリスが関わっているからに違いない。

 だが当のレリスは国はおろか財閥が神獣と関わりがあるなんて事実は知らなかったのだ。
 となるとやはり連中にとって必要なのはレリスではなく、レリスの持っている何か別の……。
 連中がどこまで青龍の封印を解く方法を知っていたかは知らないが、少なくと城の中に核石があるだろうというところまではあたりを付けていたはずだから、例の二つの宝石のことも知っている可能性がある。
 敵ながらあの教団の情報収集能力にただただ感服するばかりだ。

「ティニア、そろそろ例のことをハヤマ君たちに話してもいいんじゃないかな? 彼らが信用に足る人物だというのはもう十分理解してるだろ?」
「……それは昨日の時点ですでに……でもどこでソニアさんが様子を伺っているとも言えないこの状況で迂闊なことは言えないわ」

 たしかにあの人はドレニクたちと転移で消えてしまったが、あの人だけがここに戻ってきて俺たちの様子を隠蔽魔法か何かで見ているかもと考えたら、その気持ちはわかる。
 現に俺たちはその油断を完全に突かれたから、こうして青龍の核石を奪われるなんて事態に陥っているのだ。

「そうか……ならあの手段を使おう……ティニア」
「え? もしかしてケニスあなたハヤマさんに……?」

 二人がなにやら相談していると、不意に「それ」が俺にも伝わって来た。
 ……なるほどね……やっぱりそういうことだったんだな。
 思わず口に出そうになったが、うっかり言葉にしてしまったらまたソニアさんに聞かれるかもしれないので、気を付けないといけない……。
 だがこの事実はどうにかしてレリスだけには伝えないといけない……どうしたもんか。
 声にも文字にもせずにレリスに必要な情報を伝える方法……そんな便利な方法があるわけ……。

「……あっ、あるじゃん!」

 突然手をポンと叩いた俺を見て、エナが不思議そうに首を傾げた。
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