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昏睡~静まり返った城内~

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 予定よりもかなり早いが、昨日と同じようにエレニカ財閥の本家へとやって来た俺たちだったが、何分突然のことで時間を合わせられないティニアさんを待つために、再び客室へと通された。

「皆がまた来てくれてルミは嬉しいのですよー!」
「いらっしゃいませ……」

 今日も双子のモンチッチは元気みたいだな。
 ルミスとルミアが昨日はいなかったテレアとフリルに対して興味津々みたいなので、双子を手招きして呼び寄せる。

「紹介するな?この青髪の子はテレア=シルクスで、緑髪の子はフリル=フルリルっていうんだ」
「初めまして!ルミス=エレニカなのですー!」
「ルミア=エレニカです……」
「二人がレリスお姉ちゃんの双子の姉妹さんなんだね!よろしくね!」
「……よろしく哀愁」

 フリルが若干年齢層に疑問を持たれそうな挨拶をぶちかましていた。
 今は割と切迫した事態であるにも関わらず、フリルは平常運転なのである意味ほっとする。

「二人とも、まだティニアさんが来るまで結構時間かかりそうだし、二人と遊んであげたらどうだ?」
「え? でもいいのかな?」
「もう一台の通信機を渡しておくからさ、ティニアさんが来たらちゃんと呼ぶから大丈夫だよ」
「……そういうことなら遊んであげてもよろしくてよ」

 フリルはこういう言葉遣いどこで覚えてくるんだろうな?

「ルミ、遊ばれるですよー!」
「ルミス、あまりそういう言葉遣いをしてはなりませんよ?」
「てへへ~ルミ失敗」

 そう言いながら拳を作り自分の頭にこつんとぶつけた。
 この子だから許されそうなアクションだな……例えばこれを俺がやったらレリスから婚約解消待ったなしだと思う。
 俺がそんなくだらないことを考えている間に、四人のお子様たちは客室を出てどこぞへと遊びに行ってしまった。

「お姉様とお父様の二人が来るまでかなり暇が出来てしまいましたわね」
「そうだなぁ……この待ってる時間って凄い無駄な気がするな?」
「そうは言っても、こちらから動くことも出来ませんしね」

 今後どうするかは、ティニアさんとレリスの父親から青龍の封印に関する詳しい話を聞かないと決められないんだよなぁ。
 どうしたもんかと思いつつ、今この状況と全く関係ないことを思いだした。

「そういえばスチカは、メイシャ=ハラードって人のこと知ってる?」
「メイシャ? ああ、知っとるで?」
「そうか知らないよな……知ってるの?」
「だから知っとるって言うとるやろ? シュウの耳は節穴か?」

 ぶっちゃけ知らないことを前提に聞いたので、まさか知ってるとは思わずつい……。
 とりあえず、アーデンハイツに来たらその人を訪ねろと知人に言われたことをスチカに話していく。

「その人が言うにはテレアとは必ず会わせろっていうんだよ」
「テレアと? ……ははあ、読めたでその人が何を考えとるのか」
「そうなんですか!? もしかしてスチカちゃんはそのメイシャさんという人と知り合いなんですか!?」

 エナの言葉にスチカが大きく頷いて答えた。
 まさかこんな身近にメイシャさんと知り合いがいるとは……。

「僕も名前だけは知っているよ。この国の冒険者ギルドに所属している凄腕の武闘家のはずだ」
「凄腕の武闘家……」

 なるほど、ルカーナさんがテレアと必ず会わせろと言った意味が少しわかって来たぞ。
 つまりルカーナさんの思惑は、以前にリリアさんと話した時に言っていたことと同じなんだ。

(シューイチさんたちとの旅で良い師匠にでも巡り合えればいいのだけど)

 なんでシルクス夫妻もルカーナさんもテレアを強くさせたがるんだろうか? 普通自分の娘や親友の娘が危険な目に遭うことは避けたいと思うはずなんだけどなぁ……この世界では俺の価値観の方がおかしいのかと勘違いしてしまいそうだ。

「シュウさえよければ今からおっちゃんに連絡してコンタクト取れるようにしてもらおうか?」
「そうだなぁ……一応ギルドあての手紙をルカーナさんから預かってるけど、ぶっちゃけギルドに行ってる余裕がなさそうなんだよなぁ」
「わかった!んじゃちょいと席外すな?」

 そう言い残してスチカが客室から出て行った。
 ルカーナさんの紹介状が無駄になってしまったな……つくづく思うことなんだけどどうしてあの人のすることは色々と空回りするんだろうな? 風の使い手だから空回りするってか? やかましいわ!

「それにしても、ハヤマ君は色々な有名人とのパイプを持っているんだな」
「まあ気が付いたらこうなっていただけで、意図してこうなったわけじゃないですけどね」
「初めは私とシューイチさんの二人だけだったのに……思えば遠くに来てしまいましたね」

 エナがなんだか遠い目をしてしみじみと呟いた。
 一応シエルも一緒だったんだから面子に入れておいてやろうよ。

「シューイチ様の人柄の賜物ですわ。かくいうわたくしもその一人ですし」
「レリスがなんで彼に惹かれているのかわかる気がするよ。僕だって貴族という立場がなければ君と共に冒険者として旅をしてみたいと思うしね」
「えっと……不用意に持ち上げるのやめてもらえませんかね?」

 俺という人間は相変わらず持ち上げられるのに慣れてないもんだから、気恥ずかしくなってしまって何も言えなくなってしまうのだ。

「シューイチさん、鏡見せてあげましょうか?」
「エナまでやめてくれよ……」

 そんな俺とエナの様子をケニスさんがなにやら複雑な表情で見ていた。
 なんだろう? もしかしてまた心を読んでるのかな?
 でもどうやら読んでいるのは俺の心ではないみたいだ。昨日の一件で俺はとある理由によりケニスさんが俺の心を読んだらわかるようになったのだ。
 となると……エナの心を読んでるのか? まあケニスさんが色々と情報を提供してくれてるからエナも一定の信頼をケニスさんに置いてるだろうし、ケニスさんが心を読めるようになっても不思議じゃないが……。

「シュウ!大変やで!!」

 そんなことを思っていると、客室の扉が勢いよく開けられてスチカが飛び込んできた。

「どうしたスチカ?」
「おっちゃんと連絡取ろう思って向こうの通信機鳴らしたんやけど、誰も応答してくれんのや!」
「王様が忙しいからじゃないの?」
「それやったら周辺の警護をしとる近衛兵か大臣辺りが通信機を取ることになっとる!おかしいと思ってティアの通信機にも連絡したけど何の反応もないんや!」

 一気にまくしたてたスチカの言葉を聞いて俺たちは思わず立ち上がた。
 なんだなんだ? どう考えても穏やかじゃないぞ?

「シューイチさん!」
「ああ、わかってる!今すぐ城に戻ろう!」

 そうは言ったものの全員で行くのは連絡が取れなくなるので戦力を分断しないと……。
 俺はポケットから通信機を取り出してレリスに放り投げるも、突然のことだったのにレリスはちゃんと通信機をキャッチしてくれた。

「俺とエナとスチカはテレアを回収してアーデンハイツ城に行ってくる!レリスはここでフリルと一緒に残ってティニアさんが来たら詳しい説明をしてあげてくれ!」
「わかりましたわ!こちらも動ける状況になったらすぐに向かいますので!」

 本当ならレリスも連れて行きたいところだが、俺たちの誰かがここに残るよりも身内であるレリスが残った方が融通も効きやすいだろう。

「なら僕はレリスと共にティニアに事情を説明して、いち早く動けるように最善を尽くすよ! あと城に行くなら僕たちが乗って来た馬車を使うといい! 僕の名前を出せば乗せてくれるはずだから!」

 俺の心を読んだのか、ケニスさんも協力の意を示し馬車の使用許可も出してくれた。
 正直助かる……!

「お願いします!それじゃあ三人とも、テレアを回収したら城まで全力で飛ばすぞ!」

 俺の言葉に二人が頷いたのを確認してから、俺たちは客室を飛び出した。



 中庭で双子と鬼ごっこをしていたテレアに大急ぎで事情を話し、四人となった俺たちは停めてあった馬車に乗り込む。
 何事かと驚く馬車を引いてくれていたケニスさんの従者だったが、ケニスさんの名前と事情を説明すると大慌てで馬車を走らせてくれた。

「テレアがあの二人と遊んでる間に大変なことになってたんだね……」
「まだ何が起こってるかわかりませんが、絶対に面倒くさいことが起きてるはずです」
「エナはどう思う?」

 俺の問いかけに、エナは特に悩むことなく口を開く。

「十中八九、カルマ教団絡みでしょうね」
「それしかないよなぁ……」

 逆にそれ以外に何があるんだって話だよ。

「……うん、ちゅーわけなんでよろしく頼むで? なるべく早いとこな?」

 気が付いたら誰かと通信機で会話していたスチカが、通信を終えてため息を吐いた。

「スチカお姉ちゃん誰とお話ししてたの?」
「ん? まあ知人にちょっとな……助っ人を頼んでおいた」

 その助っ人ってまさか……?

「皆様方、そろそろアーデンハイツ城に着きますぞ」

 どうやら城の周辺に着いたらしく、ケニスさんの従者が俺たちに声を掛けた。

「城門に停めてください。あと何があるかわからないので従者さんは俺たちを降ろしたらすぐにケニスさんのところへ戻ってください」
「わっわかりました!」

 俺の指示通りに城門に馬車を停めてくれた従者さんは、俺たちを降ろすと大慌てで馬車を走らせて行ってしまった。
 城を見上げると、不気味なくらい静まり返っていた。

「あっ、ちょっと待ってください!」

 こりゃただ事ではないと思い城へ足を踏み入れようとした俺たちをエナが引き留めた。

「フル・オール・シルメン!」

 エナが魔力を活性化させて自分を含め全員に魔法を掛けた。
 スチカを除いた俺たちの身体を、エナの魔力が包み込む。

「今のは?」
「ある種の防衛魔法です。なんか城全体に怪しげな魔法を掛けられてるみたいなので念のために」

 こういう時のエナは用意周到だから頼りになるな。

「うちには掛かっとらんみたいやけど?」
「やっぱり魔力がないことが関係してるんですね……この魔法が掛からないということは城にかかってる怪しげな魔法もスチカちゃんには効果がないと思います」
「そっか、それ聞いて安心したわ」

 二人の会話が終わるのを見計らい俺は指示を出すために口を開いた。

「城の中じゃ何があるかわからないから絶対にはぐれないようにしよう!まずは王様とティアの安全を確認することを最優先で、原因究明はその後だ」
「了解です!」
「わかったよお兄ちゃん!」
「ほんならまずは王室へ行かんとな! うちが案内するから、みんなはぐれんようにな!」

 その言葉に頷いて、いよいよ俺たちはアーデンハイツ城へと乗り込んで行く。

「わっわっ!? 皆倒れちゃってるよ!?」

 テレアの言う通り、道中には怪しげな魔法によって兵士やメイドが昏倒させられていた。
 見たところ死んではいないようだ……。一人一人起こして何があったか確認したいが、ひとまず王様の安全確保の方が先だ。
 スチカの案内の元、五分ほど城内を走っていくと王様の部屋の前へとやって来た。
 扉の前には近衛兵と思わしき二人の兵士が昏倒している。

「スチカとテレアは扉の前で怪しい奴が来ないかどうか見張っていてくれ! エナは俺と一緒に部屋に乗り込むぞ!」
「はい!」

 扉を開けて王室へと足を踏み入れる。
 どうやらデスクワークでもしていたのか、机にしな垂れる形で王様が昏倒させられていたので、エナと共に大急ぎで駆け寄った。

「どうだエナ?」
「……昏睡魔法を掛けられてますね……それもかなり重度の」
「解除は?」
「可能ですよ……ディスペル・マジック!」

 魔力を活性化させたエナが解除魔法を唱えると、王様の身体を淡い光が包み込み、そしてゆっくりと目を覚ました。
 どうやらただ眠らされていただけのようだ……死んでなくて本当に良かった。

「王様、大丈夫ですか?」
「うぅ……私はなにを……?」
「どうやら魔法によって眠らされていたようです。何があったか覚えてませんか?」

 まだ意識がはっきりしないものの、エナの言葉を受けた王様が必死に何があったかを思い出そうと頭を抱えた。

「……はっきりとは思いだせないが、突然呪文のような声が城内に響き渡ったような……」

 相手がカルマ教団かグウレシア家かはわからないが、どうやら完全に奇襲を受ける形で魔法によって眠らされてしまったようだな。
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