無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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再会~再現された場所~

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 四日間での馬車での旅の中、幾度となく盗賊の振りをしたグウレシア家の息のかかったカルマ教団の連中に襲撃されながらも、俺たちはようやく目的地であるアーデンハイツに辿り着くことができた。
 いやはや……本当にしんどかった……別に襲撃されること自体は大したことなかったが、ああも頻繁に来られるともう面倒くさいという気持ちのが先走ってしまい、テレアから襲撃者の気配を伝えられる度に俺たちの間に「またか……」という鬱屈した感情が重くのしかかってくるのだ。
 ひとまずはその重苦しい気分からは解放されるので、俺たちの嬉しさもひとしおである。

「なんだか物凄く長い旅だった気がするな……」
「……ある意味エルサイムに行く時より疲れた」

 フリルのその言葉に、全員が力強く頷いた。

「アーデンハイツに着いたらまずはスチカちゃんと合流ですよね?」
「ああ、なんでも国から寝床を提供してもらえるらしいよ?」

 それだけでも本当に大助かりだ。わざわざ宿屋を探す手間も省けるし滞在費の節約にもなる。
 いくら湯水のようにお金があると言っても、無駄遣いしていいという理由にはならないからな。

「それにしてもアーデンハイツか……どんな国なんだろうな!レリスはこの国出身だからどんな国か知ってるよな?」
「そうですわね……基本的に他の国によりも機械の発展が頭一つ抜けているおかげで、今までとは少し違った町並みがありますわね」

 もうそれを聞くだけでワクワクしてくる。
 これだよこれ……こうやって知らない国を巡る楽しみこそ異世界転生の醍醐味だよな!
 それは別に元の世界でも出来ただろう?というツッコミは今の俺には届きません残念でした!

「テレアもアーデンハイツに来るのは初めてだから楽しみだよ!」
「……私は何回か来たことある」

 テレアは今までマグリドから出たことなかっただろうし、対するフリルは一座の巡業で割といろんな国に行ってるらしいな。
 そんなことを考えならも馬車は進んでいき、やがてエルサイムの時ほどではないにしろ大きな門が視界に入って来た。
 どうやら例によってあそこで入国審査をしてるらしいな……普通ならそこそこの時間が掛かるらしいが、こちらには秘策がある。

「アーデンハイツへようこそ!申し訳ありませんが入国審査をいたしますので……」

 門の前までやってくると、隣接されている詰所から兵士が出てきて俺たちの馬車を止めてきた。

「えっと……俺たちはこの国の王様から招待されてきました」
「……失礼ですが代表者のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「葉山宗一です」
「おお!あなた方が……国から本日中に着くとの連絡を受けておりました!入国審査は結構ですのでどうぞお進みください!長旅ご苦労様でした!」

 兵士に軽く挨拶をしつつ、俺たちは門を潜り抜けてアーデンハイツへと入国を果たした。
 あまりの速さに感動すら覚える。国からの招待客というだけでここまでスムーズに行くものなんだな。

「予めスチカさんにお願いしておいて正解でしたわね」
「もう俺ここに住むわ」
「何をバカなことを言ってるんですか……」

 エナに呆れ顔で突っ込まれた。

「スチカお姉ちゃんとはどこで待ち合わせなんだっけ?」
「城まで直接来てほしいって言ってたな」

 城というと、ここからでも目に入ってくるあの豪華な城かな?
 あれだけ目印が大きければ迷わずに辿りつけそうだ。辿りつけそうなんだけど……。

「……シューイチ、どうしたの?」
「いやね……なんか見覚えがあるような無いような感じのものがちらほらと見えるんだよね……」

 特に城の周辺に『それら』が多い傾向がある。
 だとしたらあまりにもその光景は歪な物になるんだが……まあ行ってみないとわかんないよな!
 そんな感じで遠くに見える城を目掛けて馬車を進めていくと、明らかに荷台への振動が減っていることに気が付いた。
 荷台の小窓から顔を覗かせて地面をよく見ると、そこには日本ではもはやおなじみとなっている……。

「アスファルトやん……」
「あすふぁると……?なんですかそれ?」
「俺のいた世界で道路の整備に使われている素材だよ……基本的によほどの田舎じゃない限りは道路にアスファルトが敷かれてる……」
「そうなのですか!?シューイチ様のいた世界は凄いですのね……」

 レリスは驚いているが、俺からすれば一気に夢から現実に引き戻された気がして非常にげんなりである。
 なんで異世界に来てまでアスファルトを見なければならんのだ……折角の異世界気分が台無しだろ……。

「でもこれ凄いね!今までの道に比べて全然走りやすよ!」
「うん、まあ……そう言うものだからね……」
「……シューイチがっかりしすぎ」

 急にテンションが駄々下がりした俺を見て、みんなが頭に疑問符を浮かべる。
 アスファルトだけでこれだけテンション下がるんだ……城の周辺に行ったら恐らくこれの比じゃないな。
 そんな俺の不安を乗せたまま、馬車は順調に城へと向かっていく。
 三十分ほど進んでいくと、いよいよ本格的に城の周りへと近づいていき、俺の予想通りテンションが下がる光景が目の前で広がっていった。



「おー!ようやく来たな!!待っとったでみんな!!」

 ようやく待ち合わせ場所であるアーデンハイツ城の城門前へとやってくるとスチカが待っていて、俺たちを発見すると大声で大きく手を振りながら駆け寄って来た。

「四日ぶりですねスチカちゃん!」
「もしかしたらもうちょい掛かるかと思ったけど、予定の日程通りに来れたんやな?」
「中々大変な旅路でしたわね……」
「……何回も襲撃された」

 スチカとの再会を喜びながらも、みんながここまでの苦労を口にして行く。

「話には聞いとったが、大変やったんやなぁ……っで?シュウの奴はなんでそんなテンション下がっとんねん?折角無事に再会できたんやからもっと喜べや」
「えっと……なんかお城に近づく度に段々お兄ちゃんのテンションが下がって行って……」

 そりゃテンションも下がりますよ……だって……。

「どしたん?何か問題でもあるんか?」
「問題だらけだよ!!!お前はこの国をどうしたいんだ!?もうここ異世界じゃないし!!日本だし!!!」

 ところどころよく見ると微妙な違いこそあるものの、ここはもう俺の知っている日本の町並みそのものだった。
 城に近づいて行くにつれ、まるで日本の都会に来たかのような気分を与えてくるビルが立ち並んでいき、もうそれだけでテンションが下がっていく。これで車でも走ってたらそれこそ日本ともう何ら変わらない光景になるところだったが、さすがにそれはなかった。
 しかし俺は見てしまった……ところどころに信号のような物があるのを……。

「ここまで再現していくの大変やったで?」
「しかも城の周辺だけは俺のじいちゃんの田舎を彷彿とさせる光景だし!都会を抜けた瞬間田舎になるとかまじでなんなの!?ちぐはぐすぎんだろ!!!」

 もうこれっぽっちも異世界感がない。
 例えると千葉の夢の国に来たと思ったら、目の前には田畑が広がっておりあの個性的なキャラたちは一人もおらず代わりに各地のご当地キャラたちが出迎えてくれたみたいな?
 ……返って分かりずらいなこれ。

「お前にはがっかりした!心底がっかりした!!!」
「シュウが何に対して怒ってるのか知らんが……まあ無事に到着したようでなによりやわ」

 俺の怒りなどどこ吹く風と、満面の笑顔で俺の無事を喜んでいるスチカを見てると、くだらないことで怒っている自分がアホらしくなってきた。
 いや、全然くだらなくないんだが……もういいや、この件についてはもうこういうものだと思って受け入れよう。

「えっと……俺たちの寝床はそっちで用意してくれるって話だったよな?」

 なにせ国が直々に俺たちに用意してくれるんだからな!さぞ立派な宿に泊まらせてもらえるに違いない!

「勿論用意しとるで!案内するから付いて来な!」

 そう言ったスチカに案内されて俺たちは城門を潜り城の敷地中へと足を踏み入れていく。
 そのまま馬繋場で馬を停めて、荷台からそれぞれの荷物を持ち出しスチカの後に続くように城の中へと……ってちょっと待って!!

「ストーップ!!スチカ!ちょっといいか?」
「なんやの?」
「もしかしてお前が用意してくれた寝床って……」
「勿論、城の客室やで?大丈夫や、ちゃんと全員分の部屋を用意させたから!」

 あっけらかんと言い放ったスチカと正反対に、俺たちは一歩後ずさった。

「あれ?みんなどないしたん?」
「えぇ~……聞いてないよ……」
「いくらなんでもお城の客室だなんて……」
「さすがに恐れ多いですわね……」

 俺を筆頭にみんなすっかり委縮してしまっている。
 そりゃそうだ、国が用意してくれるんだから少しグレードの高い宿屋を想像してたのに、まさかの城内の客室だったんだからな。

「……皆行かないの?」
「フリルお姉ちゃんは平気なの?」
「……?」

 みんなが何を遠慮してるのかわからないといった表情で、フリルが俺たちを不思議そうに眺めた。
 お前さんのそういうところ本気で羨ましいよ。

「なんや、もしかして遠慮しとるんか?何を水臭いこと言っとんねん!うちもティアも、おっちゃんだって気にせんで?」
「お前さんたちが気にしなくても俺たちが気にするんだよ!」
「まあ今更他の場所なんて用意できんし、諦めて行くで?ほらほら!」

 後ろの回り込んだスチカに押される形で、俺たちは緊張した足取りで今度こそ城内へと足を踏み入れていく。
 緊張を少しでも紛らわそうと城内を見回すと、ゲームかなんかでよく見かける典型的な内装だった。
 リンデフランデの城内はどことなくエスニックな雰囲気を醸し出していたが、アーデンハイツはシンプルにファンタジーって感じだな。
 うむ……先ほどがっつりなくなってしまった異世界感が戻って来たぞ。これこれ!こういうのが見たかったんだよ!

「ごきげんようスチカ様!そちらの方々は?」

 廊下に飾られていた高そうな花瓶を掃除していたメイドらしき女性が、集団を引き連れたスチカに気が付いて挨拶をしてきた。

「こいつらはうちの客人や。数日間ここで寝泊りしていくからよろしくしたってな?」
「この方々がスチカ様の仰られていた大事な友人方ですね?わかりました、他のメイドたちにも伝えておきますね」

 そのままメイドさんに軽い会釈をしつつ、廊下を進んでいくとまた別のメイドさんが現れてスチカと軽く言葉を交わしていく。
 そんなことが何回か続いてわかったことだが、スチカはどうやら普段はこのお城で生活しているようで、メイドたちとも気さくに接するおかげか、かなり慕われているのがわかる。
 まあスチカは物怖じしないし、うちのパーティー面子ともすぐに打ち解けてたくらいだからな。
 田舎にいたころは俺が家族で遊びに来る度に「ここは自分と年の近い奴がおらんからつまらんねん」と言っていたのになぁ……なんだか感慨深いな。

「何、人のことを生暖かい目で見とるねん?」
「優しい瞳と言ってくれ」

 懐かしい気分に浸っていると、スチカがそんな俺のことを訝しげに見てきた。
 そんなやり取りをしつつ廊下を歩いていると、なにやら豪華な扉の前へとたどり着いた。

「ここがシュウの部屋な?ちゃんと覚えてくんやで?」
「へー、ここかー」

 もうこの豪華な扉を見ただけで部屋の中が容易に想像できる。
 スチカが扉を開けてくれたので部屋に足を踏みいれると、想像通りやたらと豪華な内装の客室が目に飛び込んできた。
 フカフカの絨毯に豪華な装飾の施された椅子にテーブル……やたらと寝心地の良さそうな豪華なベッドに天井にはこれまた豪華なシャンデリア……。
 もうひたすら豪華すぎて、豪華という単語しか出てこない。ものすごい勢いで語彙力が低下していく。

「そんじゃ長旅で疲れとるだろうし、しばらく部屋で休んどき?みんなをそれぞれの部屋に連れてった後二時間くらいしたら迎えに来るから」
「へーい……」

 そう言い残し、スチカが扉を閉めた。
 ぽつんと一人残された俺は、あまりにも不釣り合いな部屋を眺めながら一人途方に暮れていた。

「……とりあえず……寝るか」

 もう余計なことは考えないようにしつつ、着替えもそこそこに俺はやたらと豪華なベッドに身を投げ出した。
 恐ろしいほどのフカフカな布団が俺を母親のように包み込んでくれて、ほどなくして俺はその包容力に包まれるように眠りへと落ちていったのだった。
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