無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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結託~~カルマ教団とグウレシア家

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 エルサイムを出発してから二日後、アーデンハイツに向けた馬車での旅は順調に進んでいる……かのように思えたのだが。
 馬車を引いてるフリルの隣に座るテレアが、荷台にいる俺に向けて視線を前方から外さないまま口を開いた。

「……お兄ちゃん、テレアたち囲まれてるかも」
「数はどのくらい?」
「えっと……六人かな?」

 現在は丁度林の中にある街道を通っている最中で、ここはあまり視界も良くない。
 隠れて襲撃するには絶好のポイントだろうな。

「盗賊かなぁ?なんにせよ素通りはさせてもらえないだろうな」
「無理でしょうね、なんたって魔法の反応もありますし」
「魔法の反応?」

 もうそれだけでただの盗賊じゃないのが丸わかりだ。

「ちなみにどんな魔法?」
「一種の隠蔽魔法ですね……視覚をごまかす効果と音が周囲に漏れないようにする二つの効果を感じます」

 YOU絶対逃さないYO!って感じだな。
 俺たちをここで確実に秘密裏に始末しようという意気込みを感じるな。

「どこのどなたかは知らないが、よほど俺たちをアーデンハイツに行かせたくないんだろうな」
「いかがいたしましょうか?」
「このまま気が付いてない振りをしながら進もう。エナとレリスはいつでも出られるように準備しといて」

 俺の指示に、エナとレリスが無言のまま小さく頷く。

「フリルはそのまま馬車を進めて……テレアは周囲の盗賊たちの動きの注意して、大きな動きがあったらすぐにエナに合図するんだ」
「……うい」
「分かったよお兄ちゃん」
「テレアの合図と共に戦闘が始まるだろうから、みんな油断しないようにな?」

 そのまま警戒を怠らないまま、俺たちは林の中の街道を馬車で進んでいく。
 五分ほど進んだところでより視界が悪く整備も行き届いてないガタガタな道の上にでる。
 地面からの振動がより強くなり荷台が揺れる音で周囲の音が掻き消される。

「来るよ!エナお姉ちゃん!」
「はい!フル・プロテクション!」

 テレアの合図にていよいよ戦闘開始だ。
 まずは馬車の安全を確保するために、エナにバリアを張ってもらった。
 それと同時に何かがバリアにぶつかる衝撃音が荷台の中に響き渡る……どうやら敵さんの攻撃とほぼ同時だったようだ。
 衝撃音が止んだ瞬間を見計らい、フリルを除いた全員が一斉に馬車から飛び出し、それぞれが別々の方向へと走っていく。

「なんだと!?」

 驚愕の声を上げながら、俺の前方の大きな木の陰から顔を隠すようにローブをすっぽりと被った男が姿を現した。
 上手く隠れてたみたいだけど、テレアの探知能力の前では全く無意味だったな?
 腰の剣を引き抜きながら、魔力を活性化させて身体強化を発動させる。
 そのままローブの男へとまっすぐに走っていきながら剣を構えると、隠れるのをやめたのか木の陰から姿を現し、俺に向けて杖を向けてきた。
 魔法を撃つつもりだろうが、そうはさせない!

「マジック・ニードル!」

 瞬時に魔力を練り上げた俺は三本の魔力針を生成し、それを杖を持つローブの男の手に向けて発射した。

「ぐわっ!?」

 突き刺さった針の痛みにローブの男がたまらず杖を手放し地面へと落とす。
 慌てて杖を拾うとしたローブの男を無視し、杖の元へと向かった俺はそのまま勢いに任せて林に向けて地面に転がっている杖を蹴飛ばした。

「なっなに!?」

 林へと飛んでいく杖を追いかけるようとして立ち上がったローブの男の前に立ち塞がった俺は、そのまま剣をローブの男の首筋に向けて突き出す。

「どうする?まだやる?」
「おっ……俺一人だけだと思ってるのか?まだ仲間が……」

 ローブの男が俺に向かってそう言ったのとほぼ同時に、後ろから複数の男の悲鳴やらうめき声やらが聞こえてきた。
 どうやらエナたちもそれぞれ敵さんを無力化できたみたいだな。まあ心配なんかこれっぽちもしてなかったけどね。

「お兄ちゃん、終わったよ!」
「魔法なんて使ってるからよほどの手練れかと思いましたが、まったく連携が取れておりませんでしたわね」
「レリスさんがっかりしすぎですよ……まあ、たしかにあっさり片付きましたけど」

 三人がぞろぞろと談笑しながら俺の元にやってきた。見たところ随分と余裕だったみたいだな。
 そのまま、俺に剣を向けられて地面にへたり込んでいるローブの男を逃がさないとばかりに周囲を取り囲んでいく。

「シューイチ様がお優しい方で良かったですわね?相手がわたくしでしたらその程度では済まなかったでしょうし」
「さて……色々と聞きたいこともあることですし……テレアちゃん、荷台の中から捕縛用のロープをもってきてもらえませんか?」
「うん!……ってフリルお姉ちゃん!?」
「……そう言うと思って、準備してた」

 気が付いたらロープを手にしたフリルが俺たちの後ろに立っていた。
 あんまり迂闊に荷台から出てきてほしくなかったけど、まあ想像以上にあっさり片付いたし今回は大目に見るか。
 そんなわけで、俺たちへの襲撃はあっさりと片付いたのであった。



「そんじゃ、洗いざらい喋ってもらいましょうかね?お前さん方、誰の差し金?」

 気絶している奴らとは別に、一人縛られたそいつを俺たちが全員が取り囲み尋問を行っていく。
 そんな俺たちを見るからに虚勢を張った眼でその男は睨みつけてくる。
 
「俺たちはその辺のしがない盗賊だ!誰の指示も受けてねえよ!」

 お前それ誰かの指示を受けて俺らを襲撃しましたって白状してるようなもんだぞ?

「嘘が下手ですね?そんな身なりの良い盗賊なんて聞いたことがありませんが?」
「大体徒党を組んでいる割には連携がまったく取れてませんでしたものね」

 二人の言い分に対し、男が何やら悔しそうに口を閉じた。
 恐らく俺たちを襲撃するために即席で編成された寄せ集め集団なんだろうな。

「もう一度聞くけど、誰の差し金?」
「だから俺たちは……いだっ!?」

 一本だけ魔力針を生成した俺は、それを男の太ももにプスッと突き刺した。
 
「そう言わずに教えてくれない?減るもんじゃないしさ?」
「だっ……だから俺たちは……うがっ!?」

 二本目の魔力針を作り出し、同じように男の太ももに突き刺した。

「や……やめてくれ……!」
「やめてくれ?俺たちを大勢で待ち伏せして殺そうとしてきたくせに、自分の立場が危うくなったらやめてくれ?随分と勝手な言い分ですなぁ?」

 そう言いながら三本目の魔力針を目の前でチラつかせてやる。

「三回目だ……お前ら誰の差し金だよ?」

 声にドスを利かせながら、指に持った魔力針を今度は太ももではなく男の首元に突き出していく。
 
「言っとくけど四度目があると思うなよ?こいつを喉に突き刺されたくなかったら、今ここで洗いざらい全て白状しろ?」
「わっわっわかった!全部言うから!!だから殺さないでくれ!!」

 ようやく白状する気になったのか、血の気の引いた真っ青な顔をしながら男が叫んだ。
 まったく……胸糞悪いことさせやがって……。実際にやってみて思ったが、俺にこういうのは向いてないな。
 ふと周りを見回すと、みんなが若干一歩引いた距離で俺を見ていた。

「……どうしたのみんな?」
「いや……だって……」
「あんなにノリノリで痛みによる脅迫を実行する様を見せられては……」
「いやだって仕方ないじゃん!?こうでもしないと多分何も聞けないだろうし!」

 俺だって好きでやってたわけじゃ……ていうか傍から見たらそんなに俺は楽しそうに見えたのか?
 
「えっと……テレア?」
「うぅ……」
「……シューイチ鬼畜」

 なんでこうなるねん……思わずスチカ張りの関西弁を心の中で呟いてしまう俺であった。



 俺たちを襲撃してきた男から粗方情報を引き出した俺たちは、あらためて全員をその辺の木に縛り上げて旅を再開する。
 ようやく鬱蒼とした林を抜けた頃には日も傾きかけており、次の街道の休憩スペースに辿り着いた俺たちはテントを張って休むこととなった。
 レリスとフリルを主導に、手際よくキャンプと食事の準備が整っていく様子を横目に、先程の引き出した情報をエナと共に確認しあう。

「グウレシア家か……」
「グウレシア家でしたね……」

 呟きあった俺たちは揃ってため息をついた。
 俺たちを襲撃して来た盗賊……厳密に言うと盗賊の振りした奴らは大方の予想通り、グウレシア家からの差し金だった。
 そして盗賊の振りしたあの男たちはというと……。

「カルマ教団だったな……」
「カルマ教団でしたねぇ……」

 再び揃ってため息を吐いた。
 いやね?なんとなくそうなんじゃないかなーとは思ったんだよ?
 でもこれについては俺の予想が外れていてほしかったなぁ……。

「現状最も手を組んでほしくない二つの勢力が手を組んでましたね」
「嫌なことってのは重なるもんだよなぁ」

 こうやって襲撃されたということは、俺たちの行動は奴らに筒抜けだと思った方がいいな。
 アーデンハイツに到着するまではあと二日掛かるが……その間も襲撃を警戒しておいた方がいいだろう。

「でもこれで今回のエレニカ財閥関連の異変は、グウレシア家が絡んでるという確証は持てましたね」
「ついでにカルマ教団もな……あいつらほんとどこにでも湧いてくるな」

 バルサンを焚きたいが、あれ密室で使わないと効果ないんだよな……ってそんなことはどうでもいいんだよ。
 あの男から引き出せた情報はそんなに多くなく、せいぜいカルマ教団の団員がグウレシア家の命令で俺たちを襲撃してたということだけだった。
 まあ鉄砲玉当然の使い捨ての奴らに、大した情報は持たせないだろうとは思っていたけどね。

「しかしなぜカルマ教団とグウレシア家が手を組むような真似をしてるんでしょうね?」
「真っ先に考えられるのはエレニカ財閥をグウレシア家を通じて間接的に手に入れることだろうな」

 なにせ裏で暗躍するのが大好きな連中らしいし。

「たしかにエレニカ財閥を牛耳ることが出来れば、国に取り入りやすくなりますしね」
「もしかして教団はアーデンハイツが神獣の存在を隠してることを知ってるのかもな」

 思えばドレニクが、顕現された青龍を見たときにティアがアーデンハイツの王女だって気が付いてたし、もはや確定と言ってもいい。

「でも神獣が目的にしてもちょっと回りくどくないか?取り入るのが得意な連中なら直接国に取り入ればいいのに」
「恐らくですけど、そうしなければならない理由があるんでしょうね……例えば神獣に関する何かがエレニカ財閥にある……とか?」
「ロイの奴がリンデフランデの遺跡から玄武の核石を入手しに行った……みたいなか?」

 でもエレニカ財閥に青龍に関する何かがあるなら、それをレリスが知らないというのは少し疑問が残る。
 とはいえレリスだってアーデンハイツの王様が青龍の存在を秘匿してたのを知らなかったんだし、そこは無理もないのかもな。

「お二人とも、そろそろ食事の準備が整いますわよ」
「ありがとうございますレリスさん!」

 話しあう俺たちの元に、レリスがやって来て声を掛ける。
 そんなレリスを見て、俺はふと疑問に思ったことを聞いてみることにした。

「なあ、レリスは自分の……エレニカ財閥が神獣に関する何かを隠してると思う?」
「どうでしょう……可能性はなくはないと思いますが……心当たりはありませんわね」
「そっか……ごめんな変なこと聞いて?」
「いえお気になさらず。それではシューイチ様もお食事にしましょう」
「おう!ささ、飯だ飯だ!!」

 色々と疑問は尽きないがまずは腹ごしらえが先だな。
 たとえ異世界と言えども、腹が減っては何とやらというし。

 そんなこんなでこの日を境に、俺たちはアーデンハイツに着くまでの道中で実に四回も教団とグウレシア家の襲撃を受けることになるのだった。
 まったくもって迷惑なことこの上ない連中だよほんとに……。
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